投稿者 sanetomi 日時 2001 年 11 月 14 日 03:51:36:
貿易収支の急速かつ着実な縮小を日本経済没落の兆候と見る向きが多い。確かに、不況下の輸入増は過去のパターンと質を異にする。良質かつ廉価な輸入品のはんらんという実態があるからだ。
とりわけ輸出大国としての中国の突出が目立つ。しかし、この現象は国際経済学の説く段階的経済発展のプロセスにほかならず、かつての日本経済の姿をほうふつさせる。いたずらに中国の脅威を強調し、セーフガード発動やダンピング認定のごとき後ろ向きの手段に訴えるのは慎むべきだ。
産業構造のさらなる高度化(高付加価値部門への特化、ハードからソフトへの重点シフト)という正攻法を通じて国際貿易における比較優位の保持に努めるのが、正しい対応だ。
同時に為替相場のあり方にも目配りが必要だ。(1)円相場の二面性。少数の貿易財(輸出品)の抜きんでた競争力が決定要因となっている現在の円相場水準は、非貿易財(サービスも)の分野にとっては明らかに家賃が高い。この二面性の解消には、相場水準の訂正(円安)も短期的には有効だが、基本的には非貿易財分野の生産性向上を目指すべきである(2)人民元の過小評価。中国に為替切り上げを求めるのは通貨主権を盾にとった抵抗が強い。WTO加盟を機に、人民元相場の弾力化(より実勢を反映する制度の採用)を促すのが妥当な選択だと思う。
将来的にはわが国貿易収支の赤字転化は避けられまい。肝心なのは赤字を貿易外取引の面でカバーし、経常収支の均衡(ないし黒字)を維持すること。それは成熟債権国の姿にほかならない。それを支える柱は著増しつつある投資収益に加えて旅行収支の改善だ。後者の眼目は外国人客の誘致。それには悪評の高い高物価の是正、日本社会の開放で彼らの疎外感を取り除くことが欠かせない。 (幸兵衛)