金融庁『特別検査』対象企業名を追跡する(週刊文春11/15号)

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投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 11 月 08 日 20:09:37:

金融庁『特別検査』対象企業名を追跡する(週刊文春11/15号)

金融庁の特別検査が始まった。対象企業は各行の融資残百億以上、株価や格付けに急変があった企業とされるが具体名は極秘。しかし、官が生死を決めるかってない検査だけに、景気回復に与える影響は大きい。小誌が独自にリストを作成し、今後の日本経済を占った。

金融庁が開始した銀行への「特別検査」が、注目を集めている。この検査は大手銀の一部大口融資先をピックアップ、債務者区分を再点検し、行内査定が企業の実態に合っていない場合は、貸倒引当金の積み増し・区分の変更を求め、隠れ不良債権のあぶり出しをねらうものだからだ。
「九月十四日のマイカル破綻があまりに衝撃的だったということです。マイカルに融資していた主要行の多くは、マイカルを『要注意先』に分類。そのため引当てが大幅に不足したまま破綻処理を迫られ、みずほグループでは千五百億円もの処理損失が発生してしまった。来春のペイオフ解禁を控え預金の預け替えも起こっており、政府としては金融システム不安を払拭する必要があるのです」(経済部記者)
マイカル破綻直後の十八日、過剰債務大手三十社に充分な引当てを積むことが優先課題だとする「三十社問題」の提唱者、木村剛・KPMGフィナンシャル社長が官邸を訪れ、小泉総理、森昭治金融庁長官、樋口広太郎内閣特別顧問との間で、不良債権問題をめぐる激論が交わされた。
「金融庁は常々、『定例の検査はきちんと行われており、不良債権への引当ては充分に積まれている』との立場を崩していないが、金融庁との対立を強めている竹中平蔵経済財政担当大臣が木村氏に肩入れして総理に検査の信用問題を吹き込んできたため、小泉総理も特別検査が必要だという考えに傾いたんです。当初は特別検査をするにしても来春と考えていた金融庁も劣勢を悟って急遽、十月末からの前倒しを決めた。しかし実際は九月から通常検査に入っていたUFJでも特定企業に対する精査がなされています」(金融ジャーナリスト)
もしも検査の結果、「要注意先」が「破綻懸念先」に下がったとすると、銀行は貸し倒れに備えた引当金を、債権額の約三〜五パーセントから一挙に七〇パーセント(担保分を除いて)にまで積み増さねばならない。
「『破綻懸念先』に格下げされた企業への融資は不良債権と見なされ、速やかな最終処理を求められるから、実質的には、企業の私的・法的整理ということになり、該当企業は大混乱になる」(同前)
柳沢伯夫金融担当大臣は、「基準を示せば、既にかなりの量の情報があるから、ここが候補ではないかとの推測、風説を呼びに呼ぶことになる」(委員会答弁)と、個別企業名に関しては厳しい管理体制を取っているが、なにせ今回の特別検査は、お上が直々に民間企業の危険度を測るもの。場合によっては、国が死を宣告することにもなりかねないため、今後の日本経済の行く末に大きな影響を与える。
「ある日突然、銀行の経営中枢である企画部に金融庁から、数十社の名前が書かれ、そこに融資金額を書いて返送せよ、と記されたペーパーがファックスされた、という話も流れ、その確認に奔走したこともあった」(金融担当記者)
そこで、今まで報じられている情報をもとに、小誌は「独自検査候補企業リスト」を件成した。
金融システム不安を解消するという目的のためには、検査対象は大口の融資先でなくてはならないが、実際は「各行の融資残高百億円以上の企業」が特別検査の対象になると報道されている。
さらに柳沢大臣は、特別検査の趣旨について、「つい最近起こった格付けの大幅引き下げということなどについて、今の仕組みの中ではそれがちゃんと勘案されるということにならない」から、「そういう市場の変化が大きく起こったものについては、即時的に結果にも反映するような特別な検査をしようということ」(委員会答弁)と述べ、最近、格付けや株価が急落した企業が特別検査の対象になると示唆した。
そこで小誌は、@昨年度決算で単独有利子負債額が八百億円以上ある一部上場企業で、A今年四月以降、株価が額面の二倍を下回った(額面五十円なら百円割れ)ことのある企業という基準を設定。これによって選ばれたのが、表に掲げた四十二社だ。参考までに、米S&P社の格付け、一昨年に流出した旧日債銀の債務者区分を記した。
このリストをみた金融担当記者が語る。
「実際は要注意先債権が対象になるため、ここに挙げられた企業すべてが検査の対象になるわけではないが、危ないとされる流通、ゼネコン、商社といった企業群はきちんと入っていますね。抜けているのは金融関係ですが、これは業態によって株価の危険水域が違うためでしょう。『三十社問題』が話題になった時にいくつも流れた、問題企業リストともかなり重なっています」
しかし問題なのは特定企業名ではなく、これを契機として不良債権最終処理が進むかどうかだ。ところが、「今度の特別検査は、決して不良債権問題の根本的解決を目指したものではない」との指摘も根強いのだ。
官邸筋によれば、実は十月十ニ日に、特別検査の結論は既に決まっていたという。
「その日の閣議後、福田官房長官と塩川財務大臣、柳沢大臣の三人が、大臣応接室に残ってしばらく話し込んでいる。塩川大臣は否定しているが、小泉首相も同席、柳沢大臣から、特別検査で破綻懸念先に落とす場合の基準について説明を受け、『二、三社』という破綻企業の具体的な数字まで示されたといいます」
柳沢大臣は常々「公的資金投入はない」と語っているが、これはつまり、公的資金が必要なほどのシステミックリスクは発生させないということだというのだ。
経済部デスクの解説。
「そもそも百億円の融資残という特別検査の基準自体が低い。銀行のバランスシートに影響を与えるような大手三十社を厳格に査定する目的なら、もっとハードルを高くしてもいいのに、あえて百億としたのは、小さいところまで広く対象に含め、銀行の体力に影響を与えない中堅どころをスケープゴートにして、お茶を濁すためではないか」
では、金融庁が「落とし所」と考えている「犠牲」はどこになるのか。
「景気や失業率に配慮すれば、できるだけ地域経済にダメージを与えないところが望ましい。市場がすでに織り込み済みの業種が狙われるようです」(前出・金融担当記者)
「『三月決算は大波乱なくすみそうだ』と金融庁筋は言っている。公的資金投入はないとすれば、体力の弱い銀行、すなわち大和、あさひ、中央三井信託あたりがメーンの企業は見逃すのではないか」(前出・金融ジャーナリスト)
「マイカルが破綻したばかりで一勧は弱っている。一勧メーンの企業も避けるはず」(前出・経済部記者)
「金融庁は『検査マニュアルに基づいた厳しい検査をしたところについては問題ない』と明言している。つまり直近に通常検査をしたところから破綻懸念先に落とす企業を出すことはできないため、前期の決算後、まだ検査に入っていない銀行が狙われる。最近まで検査が入っていたUFJはないということでしょうか」(経済ジャーナリスト)
こうした情報から消去法で考えると、具体的な企業名も炙りだされてくるが、これではスケープゴートを作っただけで、またも不良債権処理は「先送り」されるばかりだ。
「金融庁は、『銀行の業務純益の範囲内で引当金を積めるように債権分類を行う』というこれまでの本末転倒した検査について何ら反省していない。柳沢も森も、『検査のやり方には何の問題もない。市場の変化に対応するために、あえて定例の検査に加えて特別検査をするんだ』という言い方をしています。つまり、彼らの言う特別検査とは、『スペシャル』ではなく単に『イレギュラー』ということ。だとすれば、検査の回数を多少増やしたところで、大きな変化は望めない」(同前)
民主党の五十嵐文彦衆議院議員(金融頻当)が語る。
「そもそもの問題は、小泉さんが不良債権問題の重要性を全く理解していないことりだからマイカルが破綻し、木村氏にせっつかれてはじめて慌てたわけだが、国債発行三十兆円にこだわる小泉さんにしてみると、不良債権処理を急いでも都合が悪い。それで中途半端な妥協案に落ち着いたのではないか」
しかし、すでに失業率は五・三パーセントを超え、九月の景気動向指数も弱含みで回復の兆しはない。米国テロ問題の長期化の見通しに、いったん上がった株価もじりじりと下がり続け、外資系証券会社も日本市場を見切って撤退を始めた。
「仮に銀行を『特別検査』で処理したとしても、次は生保という問題がある。この際、インフレターゲットでも、税制改革でも、国債買いオペでもいいから、今すぐ政府、日銀、金融庁が一体となって、日本経済を回復させるための確固たる姿勢をみせなければ、IMFが指摘するように、日本は近い将来、トルコ、アルゼンチン並み国家になってしまいます」(前出・経済部デスク)

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