投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 10 月 24 日 11:29:06:
回答先: 二信金の破綻に表される信金業界の諸問題(23日・スタンダード&プアーズ) 投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 10 月 24 日 11:27:26:
概要
信用金庫(信金)業界は、これまで、日本における中小・零細企業および地域住民向け金融の貸し手として、大きな役割を担ってきた。信金は、徹底した地元密着型の営業を行うことにより、営業圏内では堅固な顧客基盤を有してきた。しかし、こうした信金の強みは、都市銀行や地方銀行からの脅威にさらされている。高齢化や若年層の信金離れが進むなか、信金は、新しい販売ルートや商品を通じて新たな顧客を開拓する戦略を立て直しながら、地域に密着した顧客情報獲得の技術を維持しなければならない。また、安定した収益性や強力な自己資本を特徴としてきた信金の財務力も、国内の長引く景気低迷と事業環境の変化により圧力を受けている。今後は、負担増が予想される不良債権問題を解決し財務基盤を固めるとともに、いかにして多様化する顧客ニーズに対応し、顧客層を拡大してゆくかが、成否を分けるだろう。
1. 信金業界への見方
信用金庫は、1951年の信用金庫法の施行により誕生した、中小企業ならびに地域住民のための協同組織形態の地域金融機関である。2001年3月末現在、国内には、371の信用金庫が存在し、日本国内の総預金量の約1割に当たる104兆円の預金を有している。これは、業界単位で見ると、大手銀行業界、第一地方銀行業界に次いで3番目に大きい金額である(業界の概要については注1の表を参照のこと)。
現在、スタンダード&プアーズでは、個別の信用金庫に格付けは付与していない。仮に付与した場合、平均すると、第一地銀の平均格付けより、やや低めの格付けになると考えられる。しかし、個別には、地銀よりも良好な格付けを取得する金庫もあろう。以下、格付けの観点から見た、信金業界の信用リスクについて分析する。
1)財務リスク
収益性
一般に、信金の収益性は地銀に比べ低い。これは、経費率の高さ、調達金利の高さ、預貸率の低さ、低い手数料収入などの複合的な要因によるものである。
経費率が高めなのは、信金の規模が地銀などに比べ小さいことや、預金などの1件当たりの取引額が一般に小さいことが主因である。また、信金は、顧客にじかに接する機会を多く持つことが多いため、人件費の割合が高い。2000年度の預金積金の平均残高に対する人件費率は、1.08%と、10年前の1.25%に比べ相当の改善が見られるが、依然として地銀の0.72%に比べると高い。また、調達金利の高さは、定期性預金の比率が高いことが主因である。業界の預金利回りは、2000年3月期で、0.37%と、同じ時期の地銀平均の0.32%をやや上回っている。
預貸率は、近時特に低下傾向にあり、2001年3月末時点では、64%と、地銀平均76%を大きく下回っている。これは、他の金融機関が信金の主要営業先である中小企業に対しての貸出業務を強化していることや、景気低迷により貸出先の新規開拓が難しくなっていることなどが背景にある。特に、信金は、貸出先について、法的な制約(注2)があるため、地銀よりさらに、貸出先の確保が難しくなっている。
また、手数料収入の低さに示されているように、業務の多様性は低い。2001年3月期では、営業粗利益に対する手数料の比率は6.6%と、これも地銀(2000年度の平均で8.5%)より低くなっている。
一方、収益面で、信金が、相対的に強みを有するのは、収益の安定性である。信金の収益は、過去比較的安定的に推移しており、収益のぶれが大きい場合に比べ、格付け上はプラスである。また、資産の運用の際に取っているリスクが小さければ、収益の低さを補う要因として考慮する。例えば、資産の運用先として、信用力のごく高い先のみに貸出を行っており、貸倒れが過去ほとんどなかったような金庫や、信金中金への預け金をはじめとする高格付けの投資先に限定している金庫などがこれに当たる。
ちなみに、スタンダード&プアーズが米国で格付けを付している貯蓄銀行(Savings Bank)の収益性も、米国の大手地域銀行(Super regional banks、Large regional banks)に比べ、やや低い。当期利益・総資産ベースの資産利益率(ROA)は、地銀では、2%近いのに対し、貯蓄銀行では1%前後で推移している。これは、貸出金利が低めであることや、手数料収入が少ないことが背景にある。しかし、利益率をリスクアセットとの比較で見ると、総資産ベースで見るほどには格差が見られない。これは、貯蓄銀行では、地域銀行に比べて住宅ローンの比率が高いため、リスク資産が小さいことが主因である。
資本
信用金庫の資本水準は、平均を取ると地銀に比べて高い。2001年3月末現在、信金の業界平均Tier1自己資本比率は10.0%であった。これは、地銀の平均(2001年3月末国内基準を採用している50行の平均)の7.2%を上回る。さらに個別に見ると、信金の中には、Tier1比率が30%を超える金庫もあり、また、146の金庫が、Tier 1比率で地銀の最高レベルである11%台以上である。
また、資本の質も、地銀よりも信金の方が一般に良好である。信金の自己資本はその大層が内部留保であり、繰延税金資産は平均でTie1自己資本の12.3%で、地銀の16.2%を下回る。優先出資も、2000年5月の優先出資法改正で、個別信金単位での発行が認められたものの、現在まで発行の実績はなく、会員出資は全て普通出資である。
一方、財務の柔軟性については、信金は、協同組織という性質のため、普通銀行に比べ、劣っていると考えられる。信金は、市場性のある株式を発行できないため、仮に多額の増資が必要となっても、潜在的な投資家層はその地域の法人と個人にほぼ限定される。また、信金は優先出資の発行はみとめられているが、これについても、現在の投資家層とは全く異なる投資家層から資金を集めるのは困難だろう。このため、不特定多数の投資家に株式を販売できる普通銀行に比べ、資本調達の柔軟性に欠けると考えられる。
資産の質
信金の公表不良債権が貸出資産に占める割合は、地銀に比べて高い。2001年3月末時点の貸倒引当金差引後の対貸出資産リスク管理債権比率は平均7.5%で、地銀の平均4.6%を大きく上回る。
資産の質において信金が特徴的なのは、地銀に比べて、不良債権比率の分布が大きいことである。資産の質が良好な信金では、貸倒引当金差引後のリスク管理債権比率が1%台の信金が8金庫あるのに対して、資産の質が低い信金では、貸出資産のほぼ3割が不良債権となっている。
信金は、与信審査能力や与信システム整備の遅れなどの問題を抱えている一方、中小・零細企業融資という業務の性質上、貸出先が小口に分散しているという強みも有している。例えば、一件当りの平均貸出金額は、信金の場合4,000万円前後(地方公共団体向け、個人向け貸し出しを除く)と、一般的な地銀の平均貸出金額に比べて少額である。
但し、公表数値の良好な信金についても、自己査定の精度が明らかでないため、公表数値ベースでの地銀との比較がどこまで正確であるかは疑問が残る。信金を格付けする際には、個々の資産分類の定義を十分に検証した上で、資産の質を判断することが必要となろう。
なお、資産の質について、金融庁は、信金に対する検査を一通り2000年度中に終了している。2000年度決算は、検査の結果が織り込まれているが、それでも、業界全体としては、これまでのところ、資産の質の極端な悪化は見られない。しかし、中小企業の業況が悪化する中、今後、不良債権額の増加が懸念される。
流動性リスク
一般に信用金庫の流動性は高い。先に延べたように、信金業界の平均預貸率は地銀に比べ低く、また、資産サイドについても、市場性のある有価証券や現預金が資産の21%を占める。ただし、預金が、一部の大口預金者に偏っている金庫については、小口に分散している場合に比べ、流動性リスクを慎重に検証する必要がある。
また、万一流動性に深刻な問題が発生した場合、信金中金が、信金の預金を担保にとるなどして、信金に流動性を一時的に供与するという制度もある。
2)事業リスク
経営戦略
信金の最大の強みは、顧客密着型の営業である。それも、狭い営業エリアに経営資源を集中的に投下することにより、綿密な取引を行う金庫が多く、これが強みとなっている。例えば、他の金融機関との競争が激しい都市近郊で、年金振り込み口座で市場シェア40%以上を誇る信金では、各支店の半径500メートル以内の世帯各3,000世帯について、家族構成や年齢を把握し、顧客が実際にサービスを必要とする前からダイレクトメールを送るなどして、年金振り込み口座や、教育ローンなどの営業活動を行う。加えて、月2〜3回は、既存顧客を訪問しつつ、さまざまな「地域サークル」を組成し、顧客を囲い込む。この信金では、ターゲットエリアを明確にし、その顧客属性を把握し、さらに面談などにより顧客データを充実させることにより、マーケティングを強化している。このような場合、強みを活かした戦略としてプラスに評価できよう。逆に、本来の強みを有しない複雑な金融商品に過度に投資したり、人員数や既存の店舗網に見合わない形で業容の拡大を図ったりすることは、たとえ一時的に収益が向上したとしても、戦略上プラスの評価とはならない。
一方、信金の戦略面での弱みとしては、以下に挙げるような、新たな試みへの出遅れが挙げられる。
新たなデリバリーチャンネルへの対応の遅れ
信金の中には、従来信金は相対(あいたい)で取引を行うのがモットーであり、新しいチャンネルへの対応は必要性が低いと考えている金庫もある。しかし、都市部を中心に、従前に比べ日中の在宅人口が低下しており、信金が得意とする直接訪問形式による顧客サービスの効率性が低下している。また、信金の競合先である地銀は、近年、同業他行や異業種と現金自動受払機(ATM)網における提携や、ネットバンキングを推進することにより、顧客とのアクセスポイントを増やしている。これらの経営環境の変化を勘案すると、今後は、信金にとっても、新たな顧客接点の開拓が必要不可欠であると考えられる。
新商品への取り組みの遅れ
信金の非金利収入は伸び悩んでおり、都銀より非金利収入拡大への取り組みが遅れているといわれる地銀よりも、さらに低い水準である。遅れを取り戻すため、最近、地銀は手数料拡大のためのさまざまな方策を採っている。例えば、現在、全国のほぼすべての地銀が投信の窓販を行い、重点分野として注力している。ところが、信金業界では、2001年3月時点で投信を取り扱っている信金は、全体の3分の1程度にとどまっている。
このような事態を改善するべく、信金中金が新しい商品やサービスの開発を行い、各信金に提供し始めている。しかし、これらの新商品を顧客に提供するための、社員教育やシステムへの投資が、各金庫に浸透していない。
信金は、新商品への取り組みの遅れを早急に取り戻さないと、多様化する顧客ニーズに対応できなくなるだろう。この場合、普通銀行との手数料収入比率の格差は、さらに拡大してしまうと思われる。
市場地位
一般に信金の営業地域は、地銀より狭い。このため、県単位のシェアはさして高くない信金でも、さらに地域や顧客層を限定して調べてみると、圧倒的な市場地位を有し、その地域で、ある程度のプライスリーダーシップを獲得しているような場合もある。このような場合、たとえ、その市場が地銀よりも狭い地域や顧客層であったとしても、スタンダード&プアーズは、プラスに評価できると考えている。例えば、地域企業の従業員の給与振り込み口座で圧倒的なシェアを持つような信金の場合、口座の変更にかかる手間を考えると、市場シェアはある程度安定的なものであると考えられる。 但し、このような営業エリアや顧客層が、経済的に極めて脆弱であるか、今後永くは存在しないと考えられるような場合は、当然ながらこの限りではない。
2.今後の見通しと課題
信金は、現在、資産の質や収益性など、さまざまな問題を抱えている。しかし、一方で、都銀や地銀に比べ、地域の顧客への理解度が深いという強みを持つ。しかし、今後は、かつてない規模での経営環境の変化が予想され、それに伴い多くの課題を克服しなければならなくなるだろう。課題を解決してゆくことができれば、既往の強みを活かし、これまでどおりの市場地位を確保することは可能だろう。しかし、もし解決できなければ、信金が他の業態、特に、近時攻勢を強めている地銀などに、取って代わられてしまう可能性もある。
業界再編の加速:財務力が脆弱な金庫をどう整理するのか
95年4月から2000年3月までの5年間で、33の信金が整理統合された。このうちの10庫が、破綻による事業譲渡であった。直近では、2001年10月、新たに2つの信金の破綻と、これに伴う事業譲渡の計画が明らかになった。今後も、小規模・零細企業の業況が逼迫する中、不良債権処理が重荷になる信金が増加するものと予想され、このうち、いくつかの金庫は整理されるだろう。
これまで、ほとんどの金庫は、地域への影響を軽減するため、財務力の強い近隣の金庫との合併によって破綻を免れてきた。しかし、来年にはペイオフが解禁されるため、信金が、他の経営難の信金を引き受ける場合、預金保険でカバーされない部分の支払負担リスクを負わなければならなくなる。業界内のセーフティネットである相互援助資金制度も、原則的に最低出資金の補填に限定されており、来年には廃止も含めた見直しが予定されている。このため、財務力の脆弱な金庫が引受先を見つけるのは、現在より難しくなるだろう。従って、今後は、信金の清算により、預金者が負担を強いられ、これに伴い信金業界全体の評判が低下する可能性もある。さらに、このような風評が他の信金にも影響を及ぼし、預金の流出から破綻に追い込まれるというケースも想定し得る。ただし、現段階では、スタンダード&プアーズは、近い将来、いくつかの信金が整理される事態は想定しているが、これが、業界全体を巻き込んだ連鎖破綻につながるとはみていない。
競争の激化:高度化・多様化する顧客ニーズにどう対応していくか
近時、地銀や都銀は、大企業の資金需要の低迷により、信金の顧客層である小規模・零細企業向けの貸出に注目している。また、個人向け市場についても、都銀や地銀に加え、ソニー銀行や、アイワイバンク銀行などの異業種の銀行子会社も個人客向けのサービスを開始しており、競争が激化している。信金は、地元の顧客情報を持つという強みを活用し、少なくとも当面は、現状の市場地位を保つことはできるだろう。ただ、さまざまな新商品が市場に登場するとともに、顧客のニーズも多様化している。また、よりスピーディかつ高度なサービスを求めるようになってきている。信金が、今後も顧客と密に接するだけで付加価値のあるサービスを行えないのであれば、地銀や新興の銀行の多様な商品やスピード感のあるサービスに、徐々に顧客を奪われてしまうだろう。
顧客層の高齢化:若年層にどうアピールするか
信金の長年の懸案事項として、顧客層の高齢化の問題がある。若年勤労者層は利便性の高い都心に流出してしまう傾向があり、周辺部では世帯の高年齢化が進んでいる。このため、周辺部を営業エリアとしている多くの信金は、顧客の高齢化という構造的な問題を抱えている。特に、最近は、地価の下落の影響で、若年層を中心に都心にさらに人口が集中する傾向がある。加えて、信金の顧客を直接訪問する営業手法は、相手の顔は見えなくても時間に制約のない銀行取引の方に魅力を感じる若年層からは、支持が得られなくなりつつある。信金が、若い顧客層を獲得するためには、インターネットやコンビニATMなど新たな顧客接点の拡大や、若年層にとって付加価値の高い商品やサービスの提供が必要不可欠である。
注1
信用金庫の概要
規模
預金残高:104兆円,貸出金残高:66兆円
金庫数
371金庫(2001年3月末時点)
顧客層
預金については、制限無し。貸出については、原則会員のみ。
準拠法
信用金庫法(1951年)
会員資格
次のいずれかに属するもので、信金の定款に定めるもの。
1.地区内に住所又は居所を有するもの。
2.地区内に事業所を有するもの。
3.地区内において勤労に従事するもの。
但し、1,2に該当する個人については、その常時使用する従業員の数が300人超の事業者を除く。
1.2に該当する法人については、従業員の数が300人を超え、かつその資本の額または出資の総額が9億円を超える事業者を除く。
業務
預金・定期積金の受け入れ:自由
貸出等:会員に対する以外、以下の貸付及び手形割引を行うことができる。
1.預金又は定期積金を担保とする貸付
2.大規模事業者となったため脱退した者への一定期間の貸付等
3.会員以外で会員たる資格を有する者への貸付等(700万円程度)
4.地方公共団体への貸付
5.勤労者財形融資等への源資としての雇用促進事業団等への貸付等
6.地方住宅供給公社等への貸付等
7.金融機関への貸付等
このうち、1−3および6の合計額は、金庫の貸出等総額の20%を超えてはならない。
業界のセーフティネット
預金の保護については、普通銀行と同様、公的な預金保険機構。
会員出資については、業界のセーフティーネットである「相互援助資金制度」で、最低出資単位の
1万円まで補填される。但し、相互援助資金制度は、2002年に、廃止も含め見直しの予定。
注2
信用金庫法(1951年)で、信金の貸出先は会員が原則とされている。会員外への貸出も一部認められているが、総額ならびに1件当たりの貸出額に上限がある。なお、預金については、会員外からも制限なしに集めることができる。この点では、預金も会員が原則とされている信組とは異なる。
参考:信金同士の合併について
信金業界では、普通銀行に先立って、経営統合が行われてきた。1965年以降、約150もの事業譲渡や合併が行われ、1966年3月末で524あった金庫は、2001度末には350余りにまで減少する見込みである。この多くが信金同士の合併であり、経営効率の向上が主な目的である。また、合併する金庫のうち一方が経営難であるケースも含まれる。
合併の多くは、厳しい経営環境に打ち勝つほどの成果は上げてはいない。下記の表に示す通り、97年度中に合併した5つの信金の貸出残高推移を見ると、合併から3年後の2001年3月末には、特に特徴のある営業推進を行ってきた八光信金を除き、4信金が残高を減少させている。これは、信金業界全体の貸出残高が、同じ時期に6%減少していることを勘案すれば、減少の幅が小さく抑えられてはいるものの、やはり合併当初の残高を維持できない状況にあることを表している。
1997年度中に合併した金庫の貸出金の推移
(単位:
百万円) 2001年3月 1998年3月 伸び率
わかば 72,066 76,315 −5.6% 永楽信金、第一信金、大恵信金が合併。その後、2000年度中に破綻したため、2000年3月の数値を使用。
大阪市 750,610 807,239 −7.0% 大阪市信金、大阪中央信金が合併
八光 666,623 630,708 5.7% 八光信金、大阪産業信金が合併
大阪 357,262 399,287 −10.5% 大阪信金、三和信金が合併
阪奈 189,878 195,535 −2.9% 阪奈信金、富士信金が合併
合計 2,036,439 2,109,084 −3.4%