投稿者 sanetomi 日時 2001 年 10 月 07 日 20:59:23:
株暴落より怖い国債市場崩落、再び金融危機の可能性は？（週刊東洋経済2001 10/13号）
日興ソロモン・スミス・バーニー証券
シニアエコノミスト 佐藤ゆかり
デフレの病理の本質は、それが実質金利の上昇を意味するところにあ
ります。二・五％の金利で融資を受けて工場を建設しても、デフレが二
％では、元本返済に加え四・五％以上の期待投資収益率がなければ投資
を控えるでしょう。デフレが続いて収益の目減りが累積すれば、債務返
済はますます困難になるため、デフレの下では投資意欲が減退します。
しかもデフレ下では価格競争が激化するため、賃下げ、人員削減を余
儀なくされ、不採算部門の閉鎖も進みます。雇用不安が増幅すれば、消
費者は買い控えをして、防衛的貯蓄に励むことになりますが、縮小経済
に向かうときは、企業の高収益が望めず倒産リスクも高まるため、株価
上昇期待は薄れ、株式投資には慎重にならざるをえません。結果として、
個人も企業も株式投資より現金か預貯金で資産運用しようとします。
デフレの下では、たとえ普通預金金利が○％でも、デフレ率二％なら
一年後の購買力は実質二％増えることになるため、安全資産の運用とし
て魅力が高まります。今年初めから6月までに、法人定期預金の純流出
額は約五兆円拡大し、同期間に法人の普通預金への純流入がはぼ同額改
善したのも、こうした流動性選好を一部反映した動きでしょう。
普通預金が増えると、銀行は法定準備預金を積み増し、資金運用も一
部短期化するため、長期国債の売り圧力が増してきます。一昨年春にゼ
ロ金利を実施する前まで、平均三％だった都銀の国債保有比率は、今年
4月には一二％まで上昇しています。都銀の国債保有残高は4月のピーク
からすでに減少しており、来年4月のペイオフ解禁に向け預金シフトが
さらに加速すれば、金融機関の株や長期国債の売却も今後拡大するで
しょう。こうなれば、リスクヘッジの遅れた金融機関の加速度的売り
が国債の暴落と長期金利の高騰を引き起こすリスクも高まるでしょう。
株式含み損の拡大に追い打ちをかけるように、3月決算期末で長期国
債の含み損が発生すれば、金融機関の財務体質は一段と悪化します。デ
フレの進行にペイオフ解禁が加わるため、国債暴落のリスクには98年末
〜99年初頭に起きた金融危機以上の留意が必要でしょう。
金融危機が発生すれば、経済全体のクラッシュに発展する可能性もあ
ります。金融機関の財務体質の悪化から与信能力が損なわれれば、中小
企業への貸し渋りも増える一方、長期金利がハネ上がって、資本市場で
も企業の資金繰りが困難となります。この場合は、先月起きたマイカ
ルの破綻のように、要注意先債権が破綻懸念先債権を飛び越して、一気
に倒産や大量失業を招きかねません。
もちろん、円安になればデフレは解消するとの楽観論もあります。し
かし、日興ソロモンが試算した「期待インフレ率」では、デフレ期待が
直近でマイナス三％強まで悪化しており、年明け以降、GDPデフレー
タがマイナス二・五％あたりまで落下する可能性を示しています。
インフレターゲットの導入には政府・日銀間に見解のズレがあり、
デフレに対する明確な対応の欠如が、デフレの不確実性を増幅してい
ます。物価統計を見ながらデフレを後追いする対応では、デフレスパイ
ラルの終焉は到底望めません。
銀行の法定準備預金は、預金シフトで昨秋からこの夏までに日々平均
残高四〇〇〇億円程度積み増しされています。この要因一つでも、量的
緩和の下で日銀が通常供給する流動性の市中に流出可能な部分の約五分
の一がすでに相殺されている計算です。インフレターゲットの導入によ
る本格的量的緩和への移行は、冬に向けて時間の問題となります。
題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。