投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 9 月 28 日 13:02:32:
9月に入って2度の「格下げショック」が株式市場を襲った。最初は、格付け機関のムーディーズがダイエー<8263>の長期債格付けを「投資不適格」のランクまで引き下げた先週末9月21日のケース。それが響いて、週明け25日にはダイエーの株価が一時、上場来初の100円台割れに沈んだ。そのショックが冷めやらぬ26日、今度は米国の格付け会社、S&P(スタンダード・アンド・プアーズ社)が、日本国債の格付けについて「格下げされる可能性が高まった」と発表した。強気を是とする株式市場関係者の間でも、ここへきて「日本株の暴落を通り越して、日本国全体が暴落に向かう前触れ」(準大手証券幹部)と、警戒ムードが高まっている。
●ダイエーの格下げ〜「妥当」説が有力
ムーディーズがダイエーの無担保長期債格付けを「B2」から「Caa1」に引き下げたのは、「ダイエーの小売事業からの収益回復が厳しくなったことと、大手小売業者マイカル<8269>の破たん後、多額の負債に依存している事業法人に対する日本の金融機関の支援が弱くなる可能性があることを背景にしている」(21日のムーディーズの発表文)。
この「Caa1」にランクされた債券は安全性が低く、投資には明らかに不適格とみなされる。具体的には「債務超過に陥っているか、あるいは元利払いを困難にする要素が認められる」というのが、このランクだ。つまり、「堅実な投資をめざすなら、近寄ってはいけませんよ」という警戒シグナルが点滅していることになる。
ダイエーは25日夕刻の緊急記者会見で、主力4行(東海、三和、三井住友、富士)が支援すると言明しているため、資金面での不安はまったくない、と否定した。しかし、「経営不安に対する否定会見は、ある種のセレモニー。銀行の体力低下を考えると、支援が弱まると見るのはきわめてリーズナブルな判断」(外資系証券アナリスト)との見方がマーケットでは多い。
●国債「格下げ可能性」の意味するもの
一方のS&Pによる日本国債「格下げの可能性」という問題は、ダイエーという一民間企業にとどまらないだけに、もっと厄介で、かつ深刻だ。
S&Pは現在、日本国債に対し、「ダブルAプラス」という評価を与えているが、これは、「債務を履行する能力は非常に高い」とされ、最上級の「AAA」に次ぐ水準だ。しかし、今後、格下げに動くようだと、新たな金融不安を招きかねない。
S&Pでは、経済の減速や、不良債券問題への取り組みへの疑問が今回の見直しにつながった、としている。一国の国債の格付けは、通常、ソブリン格付けといわれるが、1997年秋にはムーディーズやS&Pがアジア各国の格下げを実施したことで通貨危機に拍車がかかるなどインパクトは大きい。
●根っこにある経済活力の衰退
しかも、このソブリン格付けのレベルが、その国の民間企業の格付けの上限となるケースがほとんど。日本国債の格下げは「ある意味で国内民間企業の地盤沈下を意味するエポック・メーキング」(大手証券ストラテジスト)というわけだ。
S&Pによれば、ソブリン格付けをする際には、政治リスク(国民の政治参加の度合いや政権交代の可能性などを含む)、所得、経済構造、財務の柔軟性、公的債務の負担、物価の安定性、国際収支―など多方面にわたる検討の積み重ねが前提になるとしている。
ダイエーの「投資不適格」評価といい、日本国債の「格下げ可能性」といい、その根っこにあるのは戦後、日本国民が営々として培ってきた経済活力の目を覆うばかりの衰退だ。その象徴的、先見的表現が株価であることは確か。
小泉内閣が株価と格下げに揺さぶられる展開は、なおしばらく続きそうだ。国民的人気に胡座(あぐら)をかいて景気回復策に手をこまぬいているようだと、“マーケットの力”にノック・ダウンされる可能性は十分ある。
(楠 英司)