投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 11 月 09 日 16:50:26:
大不況に苦しんだあげく、テロと狂牛病の連続パンチを食らって虫の息の日本経済。いまや一流企業にも、ボーナス激減の危機が迫りつつある。増えるのは、失業者の数と会社が抱える赤字ばかり。この冬、カットされた年収でローンは払えるのか。なけなしの資産をどうやって守り、増やせばいいのか。
●「ボーナスはゼロじゃないか」
「この冬のボーナスは、どこまで下がるかわかりません。ほとんどのサラリーマンが、ボーナスを住宅ローンの一部に組み込んでいるので、影響は深刻です。3〜4割カットはザラで、なかには、ボーナスがゼロという企業もあちこちに現れつつあります」と語るのは、帝国データバンクの熊谷勝行情報部長だ。
進むデフレのなかで、次第に追いつめられるサラリーマンの生活。今年9月の完全失業率は史上最悪の5.3%に達し、完全失業者数も史上最多の357万人を記録した(後出のグラフ参照)。
しかし、事態はさらに深刻さを増しそうなのだ。経済評論家の奥村宏氏は言う。
「この失業率や失業者数は、同時多発テロや戦争、狂牛病の影響を加えていない数字です。これからは、それらの影響で消費が一段と落ち込み、景気はいっそう悪化するでしょう。失業率は数ヵ月以内に6%を超えるはずです。多くの企業でボーナスが大幅カットされるのは当然です」
この冬、ボーナスはいったいどこまで下がるのか。今回本誌は、一流企業各社の実情を取材した。
まだ中間決算も確定していないため具体的な金額は出ていない、という企業も多かったが、中堅幹部から寄せられた「回答」の多くは、「厳しい」の一言。各社のパターン別“ボーナス残酷物語”を明かしていこう。
●〈テロ・戦争型カット〉
同時多発テロと、それに続く戦争で大打撃を受けたのは、まず航空業界。今回、本誌記者が日本航空の40代課長に取材申し込みの電話を入れたとたん、「頼みます、とにかく飛行機に乗ってください」と大声で頼まれてしまった。
「テロ発生以来、運賃をいくら割り引いてもお客さんが乗ってくれないんです。キャンセル続出で、前年からほぼ半減。メチャクチャですよ。
10月29日には、成田―サイパン便を一気に2万円引き下げて、2万3000円で売り出しました。ロサンゼルスも4万9000円。もちろん往復です。飛んでいる便はガラガラですから、シートを一人で二つでも三つでも使えます。ぜひ乗ってくださいよ。
経常利益は、220億円の黒字の予定だったのが下方修正され、500億円の赤字になった。社内では、『冬のボーナスは出ないんじゃないか』という声がもっぱらです。昨年の冬は2.0ヵ月で100万円にも満たない額でしたが、それでも苦しかった。今年は冬が越せるのか……」
テロでお先真っ暗という点では、旅行業界も同様だ。JTB(日本交通公社)の30代営業マンが言う。
「例年ならこの時期は、年末年始の海外旅行の予約で大忙しですが、今年は海外旅行の企画さえない状態です。海外旅行の売り上げは、おそらく前年比8割減といったところ。
ボーナスも、『半減ですめばいいほうじゃないか』『遅配になるかもしれない』といった噂が飛び交っています。もう、サイテーの状況です」
●「年末には愛車を売るつもりです」
日本旅行の40代営業課長もこうこぼす。「3万円ニューヨークとか、5万円西海岸とか、とにかく採算を度外視して企画を立てても予約が入らない。もうボーナスはゼロでしょう。ここ3年、冬のボーナスは連続して1.5ヵ月で、今年も組合は同じだけ要求するといいますが、通るわけがない。年末には車を売るつもりです。最近、女房が『あなた、最近残業しないのね』と言うんです。『毎日ご飯を用意しなきゃいけないから大変』なんて文句を言いながら、どこか嬉しそう。私は内心、『バカ、何も仕事がないんだよ』と怒鳴りつけたい思いですが、黙っています。とても本当のことは言えません……」
テロによってボーナスまで吹っ飛ばされた格好だ。当然、社員だけでなく、会社側の受け止め方も深刻である。
「テロの影響で、1100億円の減収があるという見通しを出しました。また、連結ベースで700人の人員削減を予定していましたが、さらに600人増やしました。冬のボーナスは、これから組合と話し合います。現時点では給与カットの予定はありません」(日本航空広報部)
「JTBにおける9〜10月分の海外旅行の取り消しは、人数で約15万人、取扱額で約275億円にのぼります。しかし、予算は変更しません」(JTB広報)
戦争が長期化した場合、われわれの生活はどこまで苦しくなるのか。中京大学・水谷研治教授はこう説明する。
「この戦争の行方にアメリカ国民は不安感を募らせ、個人消費は落ちています。今年のクリスマスセールも期待できません。こうして景気が冷え込んだアメリカは、日本製品を買ってくれなくなり、日本経済はさらに悪化します。そうすると経営者は、来年以降もリストラと賃金、ボーナスのカットに走るようになる」
戦争が続く限り、給料もボーナスもどこまで落ちるかわからない、というわけだ。
●〈狂牛病型カット〉
日本を襲ったもう一つの恐怖といえば、狂牛病だ。9月に「日本上陸」が報じられて以来、多くの食品関連企業にダメージを与えてきた。
「牛丼の吉野家など、客足が鈍っています。吉野家は8月中、最高23万円を超す株価だったのが、9月には17万円台にまで下がった。日本ハムも、1500円前後だった株が1100円以下まで下落した。
政府が牛を調査しているといっても、最終的な結果は出ていません。問題がないのならすぐ公表すればいいのに、そうしないから勘ぐられる。これでは、食品関連企業の経営も大変です」(明治大学政治経済学部・高木勝教授)
10月29日、大阪府の焼き肉レストラン「スタミナ軒」が事実上倒産した。狂牛病による企業倒産は全国で初めてだ。今後、こんな“狂牛病倒産”が各地で起こるだろう。
「狂牛病問題を迅速に解決しなければ、やがて有名食品企業も売り上げを落とし、社員の給与やボーナスが削られることになる。さらに長引けば、流通業界にも打撃を与えるでしょう」(前出・高木教授)というが、現状はどうなのか。前出の各社に聞いた。
「当社の食材はアメリカからの輸入肉で、狂牛病とはまったく関係ありません。しかし、心理的な影響が出ているのは事実です。9月に“狂牛病上陸問題”が発生して以来、売り上げは5%くらい減っています。しかし、少しずつ客数も回復しており、今期への影響はあまりありません。冬のボーナスや給与のカットの話も出ていません」(吉野家ディー・アンド・シー広報部)
「たしかに狂牛病で、牛肉に影響が出ています。しかし、その分を豚肉と鶏肉が穴埋めしており、トータルではそれほどマイナスにはなっていません。ボーナスも昨年並みで、現状では見直す予定はありません」(日本ハム広報室)
今後、ボーナスに大きな影響が出るかどうかは、狂牛病パニックがどこまで広がるかによると言えそうだ。
●〈IT不況型カット〉
1年前は日本経済唯一の希望の星だったのに、いまではすっかり失速してしまったのが電機メーカー各社だ。
「今年の春から、半導体不況やパソコンの需要の伸び悩みなどで、IT(情報技術)不況がどんどんひどくなった。富士通、松下電器、東芝、NECなどが深刻な影響を受け、ただ一つの勝ち組だったソニーも、9月の中間決算で業績が大きく悪化しました。社員のボーナスに響くことが予想されます」(前出・高木教授)
実際、電機各社の9月中間連結決算での損益は、
富士通:赤字1747億円
ソニー:赤字432億円
松下電器:赤字694億円
東芝:赤字1231億円
NEC:赤字298億円
……と惨澹たるもの。
富士通の40代半ばの課長(技術系部門)は、「ウチの経営陣は何を考えているのかわからんよ」と吐き捨ててからこう語った。
「今年3月期の決算では史上最高益を出したんだけど、そのとき秋草社長から幹部社員に『来期の賞与は皆さん期待してください』というメールが来たんだ。しかし、好調だった国内営業が伸び悩み、悪かった海外部門がさらに悪化すると、そんな約束はどこかへ吹っ飛んでしまった。
『週刊現代』(10月27日号)にも報じられたように、社長は、『働かない従業員が悪い』と開き直る始末。朝日新聞(10月30日付)のインタビューでは『雇用は経営目的ではない』と言っている。そんなにリストラしたいなら、同時に自分の経営責任も明らかにしろ、と言いたいね。
ボーナス? 減りますよ。この前、『管理職の冬のボーナスは大幅カットせざるを得なくなった。来年度は給与も修正せざるを得なくなる』と上のほうに言われたからね。たぶん、ボーナスは30万〜35万円の減額修正になると思う。ウチは管理職に年俸制が導入されているんだけど、これは会社の業績と連動することになっている。だから業績が悪いと、提示されていた年俸の金額はボーナスで調整されて削られるんです」
年俸制というと、最初に決まった金額がきちんと支払われる印象があるが、そうとも限らないようだ。松下電器の40代後半の課長も言う。
「管理職には昨年から年俸制が導入されていますが、『会社全体や個人の業績が悪い場合、最初に提示した金額は保証しない』という定めがあるんです。今年はそれが適用されるいい例で、僕ら課長クラスは、ボーナスが前年比30万〜35万円減、部長クラスは約45万円減になります。
僕の場合、年俸が約1100万円で、うち400万円がボーナス。それを夏に200万円、冬に200万円に分けて支給されるわけです。ところが、35万円減らされるから、今年の冬は165万円しかもらえない。マシなほう? いいえ、家と車のローンを払ったら、後は何もできません」
まさか決まっていた年俸が後から削られるとは思わなかった――というのは二人とも同じ。日本労働研究機構主任研究員・伊藤実氏は言う。
「たとえば年俸1000万円のうち、業績に連動する部分と連動しない部分が半々になっていれば、ひどい赤字が出た場合、ボーナスなど業績と連動する部分が全部削られて、年収500万円になるケースもありえます。
もっと減る場合だってある。ほとんどすべての年収が業績と連動している“ドンブリ勘定年俸制”です。その場合、会社の業績が悪化すると、年収1000万円の人が100万円以下になる、といった可能性もある。一部の証券会社などは、そういう危ないシステムです」
また、ソニーは富士通や松下電器と違い、「ボーナスについては春に夏冬一括で決まったとおりです。組合員平均で、冬は114万9500円。これは前年冬の102万円からアップしています」(広報部)とのこと。激震に見舞われるのは、来期以降ということになりそうだ。
●もはや2割カットは当たり前
●〈銀行型カット〉
10月30日、UFJグループの三和、東海両銀行は、「この冬と来年夏に支給するボーナスを2割削減する方針」と組合に伝えた。三井住友銀行も、「1割削減する方針」と伝えている。
銀行は依然として巨額の不良債権を抱え、中間決算でも、三井住友と住友信託以外は軒並み赤字を出した。三井住友の30代後半の行員は言う。
「合併前、40歳の住友銀行行員の冬のボーナスは、平均約190万円でした。さくら銀行は約170万円。個人差こそあれ、今年は、40歳で190万円もらえる人はごく一部だという見方が有力です。だいたいみんな、20万円前後はカットされそうです。
ウチは一応黒字でしたが、時価が簿価より50%以上下回った保有株式でも『株価回復の見込みあり』として、評価損として計上していなかった。だから中間決算では損がそれほど多く出ず、黒字になったに過ぎないんです。
しかし、今度の3月期の決算では、それを清算しなければならない。ボーナス20万円カットではすまないほど、厳しくなるはずです」
また、来年4月に最終統合するみずほフィナンシャルグループの場合、今回が、第一勧銀、富士、興銀の3行別々にボーナスを決める最後の機会になる。
「昨年冬のボーナス平均額は、40歳の管理職で、興銀は約200万円、一勧と富士は約180万円でした。しかし、今年上がることはないでしょう。みずほが抱える不良債権のことを考えると、1〜2割のカットは当然でしょうね。
以前から好業績の会社について、『あそこにはこっそり融資を増やしてやって恩を売り、そのうち転職させてもらおう』なんてジョークがあったのですが、あながち笑えなくなってきました」(一勧の40代後半副支店長)
どの業種のサラリーマンも懐は寒くなるばかりだが、そんななかで、いかに自分の資産を守り、着実に増やすか。三和総合研究所金融本部主任研究員の山崎元氏が簡潔で的確なアドバイスをしてくれた。
山崎氏は三菱商事や住友信託銀行、メリルリンチ日本証券など11回に及ぶ転職を経験しつつ、長年ファンドマネジャーとして活躍してきた。また、さまざまなメディアで金融の情報や知識をわかりやすく解説している、資産運用の第一人者である。
山崎氏が「マネーのシンプルなルール」と名づけた二十数個の項目のうち、いくつかを挙げてみよう。
(1)わからない金融商品には手を出すな
(2)ビギナー向けの運用商品などない
(3)長期投資をしてもリスクは減らない
(4)デフレ、インフレ時の投資法を正しく理解せよ(右の二つの表を参照)
(5)できるだけ生命保険には加入するな
(6)投資よりローン返済を優先せよ
(7)「ものすごく儲かりそうな気にさせてくれる本」の中身を真に受けるな
――といったポイントだ。
山崎氏は言う。「詳しくは私の新著『お金がふえるシンプルな考え方』(ダイヤモンド社)に書いたのですが、まず、投資の初心者にもわかる基礎中の基礎で、しかもおカネを増やすのに一生役に立つルールをわかっていただきたいんです。
昨年大量に売られてトラブルが頻発した『EB』(他社株転換権付き債券)というのがあったでしょう。あれで、どれだけ手数料を取られるのかを知るには、非常に高度な金融の知識が必要で、普通の人はなかなかわからない。みんな『よくわからないから買うのをやめておこう』と考えれば、あんなに多くの被害者は出なかったはずです。だから私は最初に、『わからない金融商品には手を出すな』と書いたんです。
それは生命保険も同じ。ああいう損得判断の難しい商品が、売り手側の粗利を開示せずに売られているというのは、消費者保護の観点から大問題だと私は思います。できるだけ加入しないことです」
ただでさえ財布が軽くなっているのに、うまそうな投資話に引っかかって損したのでは泣きっ面にハチ。なけなしのボーナスは、「シンプルなルール」に従って大切に増やしたいものだ。