投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 9 月 18 日 12:31:51:
10%以上のダウ暴落も懸念されていた17日のニューヨーク。しかし,下落は予想より小さなものにとどまった。暴落はなぜ避けられたのか。証券市場はこれからどうなっていくのだろうか。
【国内記事】 2001年9月18日 08:44 AM 更新
積極的に買う要素がなにも見当たらない状況を考えれば,それは「好結果」と呼んでいいのではないだろうか。
テロ事件から約1週間ぶりに,ニューヨーク証券取引所が再開された。予想通り,マーケットは開始直後は売り一色の展開。ダウ工業株平均はいきなり600ポイントを超える下げで,9000ドル台を割り込んだ。
だが,そこから下げ渋る。証券記事風に言えば,「売り一巡後,下げ渋り,下値を探る展開が続きました。その後は,若干値を戻す場面も見られましたが,結局この日の下値圏で引け,ダウは9000ドルの大台を割り込みました」と,この日の商いは総括できるだろう。
ダウ平均は,684.81ポイント安と史上最大の下落幅で,8920.70ドル(-7.13%)。一方,ナスダック総合指数は朝方の安値から,昼にかけては一時盛り返す動きもあったが,午後はジリジリ値を下げ,結局115.75ポイント安の1579.55ポイント(-6.83%)と,こちらも1600台の大台を割り込んで引けている。
●万全を期した米当局
テロ攻撃の悲惨さを強調したいメディアの立場からすれば,ダウの9000ドル割れは,格好の材料だろう。日本の朝刊各紙にも,〆切時間の関係でNYの朝方時点の数字とはいえ,このようなタイトルが踊っている。
しかし,この日のNY市場の値動きには,関係者にとってはむしろほっとさせられるものであったに違いない。この日の大きな下げは織り込み済み。どこまで下げるのかに焦点が集まっていたからだ。
その意味では,若干割り込んでしまったとはいえ,ダウで9000ドルが一応の下値抵抗線と確認できたこと,パニック的な売りは発生しなかったこと――は,今後の米市場の動きを見ていく上で,見逃せない。
なぜ,相場は怖れていたほど下げなかったのだろうか。
もちろん,米当局が適切な手を打ったことが,一定の下支えの要因になったことは間違いない。予想されたことではあるが,取引開始前にFRB(連邦準備制度理事会)が50ベーシスポイントの緊急利下げを行った。連銀の流動性を高める方向でのオペも続いている。
SEC(証券取引委員会)も,この日,上場企業に自社株の買い戻しに関する制限を緩和している。通常,開始直後と引け直前の30分の自社株買いは禁止されているし,量的な制限もある。しかし,そうした制限を取り外したのだ。実際,Cisco,3Com,eTradeなど数多くの企業が自社株を買い戻している。
●売り浴びせは起きなかった
だが,投資家(とりわけ機関投資家)が売り浴びせに回れば,こんな対応策は何も役に立たない。しかし,彼らはそうしなかった。今,米市場,そして米金融市場全体を支配するムードを,CNET Investorの編集長であるラリー・ディグナンは,次のように表現している。
「端的に言えば,株を買うことは,今では愛国心の発露の1つの方法なのである(Simply put, buying stocks is now a way to be patriotic)」
証券市場では,(現時点では,余りに刺激的な表現であることを承知で言えば)時として金は人の命より貴いとされてきた。他人の不幸さえも,金儲けとしたのが,ウォール街だ。しかし,……。
ディグナンの記事では,2つのコメントが紹介されている。引用しよう。
「テロリストが目的を達することができなかったことを,我々が確固たるものにする1つの方法は,起こったことによる経済的な影響を最小にすることだ。月曜日には我々一人一人が1000株ずつ買い注文を出し,売り注文を出さないことも1つの方法だ」(個人投資家,ジョン・グロバー氏)。
「悲劇的な出来事から利を得るのは,テロ行為に利するだけだ。テロ行為に利してはならない。航空関連で空売りをしてはならない。ニューヨーク関連のREIT(不動産投信)で空売りしてはならない。米ドルを空売りしてはならない」。
後者は,Pacific Equityのアンソニー・エルギンディのリサーチノートでのコメントだ。これはもはや,リサーチノートとは言いがたいが……。
●セリング・クライマックス
米金融市場は17日,システムが機能していることを世界に向けて証明してみせた。この最初の反応は,欧州で見ることができる。フランクフルトのクセトラDAXは118.57ポイント高の4234.55(2.88%),ロンドンのFT100は143.23ポイント高の4898.9(3.01%)と,いずれも急反発。
米市場の下落が予想の範囲内であることに加えて,FRBの利下げに続いてECB(欧州中央銀行)や欧州各国の中銀が追随する利下げを行ったことが好感された格好だ。後は,日本を含めたアジア市場の反応がポイントだが,少なくともテロに端を発する恐慌は避けられたと見ていいだろう。
今後については,市場は強弱2つの見方に分かれている。世界的な実体経済の地合いの悪さはなんら解決されておらず,市場が今後,テロから実体経済に目を向けるに従って,一段安があるというのが,弱気派の主たる論拠だ。
しかし,筆者は当面は神経質な商いが続き,一時的には一層の安値の局面があるとしても,ほぼ底値は見えており,中期的に見ればようやく反発しうる環境が整ってきたと見ている。
米企業の7-9月期の業績は相当に悪く,10月は酷い決算シーズンになると予想されていた。しかし,そこでの下落分が今回の急落ですでに“先行実施”されてしまった。そのうえ米市場はもはや個別企業の決算に一喜一憂されるムードではない。不幸な出来事は,セリング・クライマックスになる可能性が高い。
日本市場にしてもそうだ。筆者は日経平均の1万円割れは避けられないものと考えていた。だが,それは,米市場が有力企業の下方修正で急落,それを受けて日本市場もズルズルと値を下げると言うシナリオだった。その意味で10月が底になると考えていた。
確かに,日経平均は1万円を割り込んだ。しかし,それは「誰にも納得できる理由」だった。パニックを起こす人もいなかった。「急落を受け入れるしか仕方がない事態」だったからだ。
だが,日本経済がたとえ酷い状態だとしても,日経平均がこれ以上どんどん下げると見るべきなのだろうか。心理的に追い込まれていた17日の日本市場は,日経平均が底値圏で上下するなかで,もうまもなく底があることを投資家に見せつけたのではないだろうか。
これから発表される各企業の上期決算や下期のアウトルックが酷い内容であるとしても,それはもうたいした「材料」ではない。一番酷いことは,すでに「起こってしまった」のだから。
●新しいゲームの始まり
欧米諸国や日本などの政府・中銀は,今後,「戦時モード」に入るだろう。経済恐慌は「許されない」。それはテロに屈したことを意味するからだ。バランスをとってきた欧米の金融当局者も,当面はかなり強い「金融緩和」のメッセージを出すだろう。
個別の金融システムの安定より,国際金融システム全体の安定が優先される,そして,金融システムの安定はそれ自体だけではなく,政治・軍事といった外部要因によってもたらさる状況に至ったからだ。昨日までとはまったく別のゲームが始まったのだ。
米国が軍事行動で大敗するという,現時点では想定しにくい事態が起こらない限り,中期的には景気は回復に向かうだろう(日本ではようやくインフレターゲットをどうするかという議論が現実味を持つはずだ。それともう1つウォッチすべきなのは,消費者信頼感指数の動きだ)。
オニール米財務長官はCNNのインタビューに対し,米経済は回復途上であり,リセッションにはないと考えていると述べた。その上で,ダウ平均が今後12〜18カ月で史上最高値に近づく可能性について,「想定しうる」と答えている。
(本稿執筆にあたっては,Lally Dignan,Tiffany Kary,Michelle Chanの協力を受けた)
[中川純一, ZDNet/JAPAN]
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