投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 9 月 12 日 15:42:15:
週刊文春9月20日号・株価一万円割れでIMF特別審査・日本はトルコ/アルゼンチン並み〜もはや一等国民生活は許されない
日本経済は悪化の一途を辿ってきた。七日の米国市場の大幅下げを受け、十日の東証寄付きは二百円超の下げで始まった。終値は一万二百円を割り、バブル後景安値を更新した。
昨年なら誰もが「ありえない」と一笑に付すような一万円割れが、今や「現実」となりつつある。
不良債権問題の貴任者である柳沢金融担当相は、今月初めからイギリスとアメリカを訪れ、両国の金融当局や政府首脳と会談。
「今回の目的は不良債権処理の進行状況を理解してもらうこと。外遊する直前に、不良債権を七年で半減という『柳沢シナリオ』で市場の反発を買ったこともあり、柳沢大臣は厳しい反応を予想していたようですが、意外にも温かい反応にホッとしていました。
その中で意見が対立したのは、ケーラーIMF専務理事との会談。IMFが八月に公表した『対日審査報告書』について柳沢大臣が『民間アナリストの見方に偏っているのではないか』と疑問を呈したのです」(金融庁担当記者)
IMFの報告書は、アナリストの推計をもとに邦銀の不艮債権を七十五兆円とし、邦銀が不良債権の査定や引き当てを厳格に行えば資本不足や債務超過に陥る、との内容。そしてIMFは、公的資金の再注入を提案している。
これに対して柳沢担当相は一貫して「株価が一万四百円になっても、自己資本比率に与える影響は〇・五パーセント程度」とし、再注入は不要だと言いつづけた。
「IMFの不信感を完全には解消できなかったが、以前から打診されていた金融特別審査を受け入れることでお互いに決着をみた」(同前)
特別審査はこれまで二十数カ国で行われ、先進国ではカナダが実施、英、独も受け入れを表明しているというが、「そもそも、英国やドイツの受け入れ表明は、いつでも見に来てくださいという余裕のポーズで、今度の日本のように、受け入れさせられたのとは違う。金融危機懸念で審査に入ったカメルーンやアルメニア、IMF体制下に入った韓国、タイと同等のイメージで考えるペきでしょう」(経済部デスク)
現地で取材した経済ジャーナリストの須田慎一郎氏も次のように語る。
「IMFの対日認識は米政府のそれとイコールと見るべきです。ホワイトハウスはIMF管理と同程度の厳しい認識で審査をさせるでしょう。今回の柳沢大臣の訪米について、米当局側は何の期待もしていなかった。その証拠に、ウォールストリート・ジャーナルもワシントン・ポストもほとんど報じていません。
その一方で、元米連邦預金保険公社総裁(日本の預金保険機構にあたる)のW・シードマン氏がホワイトハウスの要請で来日し、邦銀の不良債権の処理状況を調査しているのです。米政府は柳沢大臣の説明よりもシードマン氏のレポートに注目しています」
プッシュ政権は省庁横断的な課題に取り組むため、ホワイトハウス内に十七の常設委員会を設けている。
その中の一つに「国際金融政策調整委員会」がある。同委員会には、世界的な金融危機を引き起こす恐れのある三カ国についてそれぞれに作業部会が置かれているが、その三カ国とはアルゼンチン・トルコ、そして最後が日本なのである。
● 柳沢大臣はなぜ変節したのか
「アルゼンチン、トルコともに金融危機に陥り、IMFから支援融資を受けて経済を再建しようとしている国。先のジェノバ・サミットでも主要七カ国による経済声明の中で触れられています。この二カ国と同様に作業部会が設置されているということは、プッシュ政権が日本経済の混迷を非常に危険視している証拠ですが、簡単にいえば、アルゼンチン、トルコ並み国家と思っているということですよ」(経済ジャーナリスト)
その上、ムーディーズが日本国債(円建てのみ)の格付けを引き下げる方向で検討に入った。格下げはほぼ確実と見られ、ポルトガル以下、イタリアと並び先進国で最低となる可能性が高まった。日本の財政能力までもが疑われているのだ。
「アルゼンチンは千三百億ドル近い政府債務を抱え、破産寸前の国だし、トルコは一昨年末に百億ドルのIMF緊急融資を受けたのに、昨年春には通貨が対ドル五〇パーセント下落したほどの経済危機。カメルーンにいたっては、いまだに沿岸での奴隷貿易の疑いがあるほどです。そんな国々と同等に扱われるということは、日本は、すでに二等国以下と思われているということ」(同前)
日本が信頼を損なってきた最大の原因は、金融システムの危機を問題先送りでやり過ごしてきたからだ。
七日に明らかになった、大和銀行の持ち株会社に参入する、とあざひ銀行が経営統合を申し入れた件が象徴的な例だろう。
「今度の九月中間決算から時価会計が導入されるので、現在の株価水準だと、あさひ銀行は保有株の含み損で剰余金が枯渇し、配当不能に陥る。期末でも政府所有の優先株に配当ができなければ、来期から国が議決権を行使してくる可能性もある。それを避けるためにあさひは提携先を求めたが、横浜銀行にも東京三菱にも断られ、最後に残った選択肢が大和だけだったのです。金融庁が七月中旬に、持ち株会社なれば、法定準備金を取り崩して配当に回すことを容認したからです」(経済部記者)
まず「持ち株会社」という逃げ道を作り、中間配当ができなくなると、国が所有する優先株に議決権を発生させたり、普通株への転換は行わない、との見解まで示した金融庁とはいかなる官庁か。
明治大学政経学部の高木勝教授が語る。
「株価下落で優先株への配当ができないのなら、普通株に転換するのが当然です。公的資金を注入する際のルールなのですから。しかし柳沢さんはそうしようとしない。私は彼を評価していたのですが、変節してしまったようです」
かつては「鬼の柳沢」とも称され、香港誌「アジアウィーク」の「アジアで最もパワフルな五千人」特集でも賞賛された柳沢大臣は、なぜ「変節」してしまったのか。
「柳沢氏は金融再生委員会で長銀、日債銀の破綻処理を行ったんですが、彼は大蔵省主税局出身だから、破綻処理に国民の税金を何兆円も使っていいものなのかと衝撃を感じたようです。破綻処理には時間も労力もカネもかかるし、長銀問題では瑕疵担保特約で叩かれて懲りた。現在の状況では、拓銀のように流動性危機からの破綻はありえない。あるとすれば金融庁が引き鉄を引くケースのみ。しかしそれ以降、破綻処理をするのは大変だというスタンスになってしまった。本人も周囲に『もう辞めたい』と洩らしています。柳沢氏からの残暑見舞には『童女きて閑なる日の昼寝かな』という一句があり、やる気をなくしているようにも思えます」(金融ジャーナリスト)
● 危機脱出の秘策はあるのか
「骨太の方針」で最重要課題を担う金融庁のトップがこの調子では、処理が進まないのも無理はない。
「問題なのは経済閣僚の間で不一致が生じていることです。特に竹中平蔵経済財政担当相に対する他の経済閣僚の目は厳しいですね。当初は八月末に取りまとめるはずだった『改革工程表』が九月下旬にずれこみ、塩川財務相は、『各省庁が権益の確保を目指し、改革のピックアップが遅れとる。竹中さんも、ようさばかへん』と怒りをぶつけていました。柳沢さんも、不良債権の実態もよく把握しないうちに『二、三年で最終処理』とした竹中さんを苦々しく思っているでしょう。そんな雰囲気を察知してか、九月七日に兵庫で行われたタウンミーティングは三者揃い踏みの予定だったのですが、竹中さんは欠席することにしたんです」(経済部記者)
経済閣僚が一丸となって経済危機に立ち向かうムードさえない中、俄かに注目を集めているのが「国債三十兆円問題」の議論だ。失業率や成長率の悪化を受け、小泉首相は景気対策を講じるために補正予算の編成を命じたが、国債発行額を三十兆円以内に抑えることを公約としているため、十分な予算がない。
「与党からは山崎幹事長も三十兆円の枠にこだわる必要はないとの意見を出しており、一時は竹中経済財政担当相も同調するなど、政府内でも足並みが乱れてます。いっばう野党はこの不一致を国会で追及しようとしており、小泉改革の進行が妨げられる恐れもある(官邸担当記者)
そこで小泉首相は、政府でも与党でもない、新たなスタッフを求めた。
内閣府特命顧問に島田晴雄・慶応大学経済学部教授、内閣特別顧問に樋口広太郎・アサヒビール名誉会長、首相補佐官に牧野徹・元建設省事務次官を置いたのだ。
六日、財界人らでつくる「十一の会」の昼食会に出席した小泉首相は、こう語った。
「秘策はある」
「秘策」の一つと思われるのが、樋口内閣特別顧問が提唱した「産業再生委員会」。
この構想の原案は、七日に渡辺喜美代議士が官邸に持ち込み、首相に説明したものだ。渡辺代議士が語る。
「総理は真剣に聞いておられました。それで『内閣特別顧問の樋口さんとよく相談してくれ』と言われました。これはデフレから脱却するための秘策です。デフレの原因は企業の過剰債務にある。これを処理するために民間主体で公的な第三者機関の産業再生委員会を創設し、企業から提出された再建計画の可否を判断する。可能と判断されれば、日銀からの資金援助を受けられるようにする。経営責任は明確にしながら、債権放棄を通じて企業の再生をはかるものです。金融と産業は一体のものですから金融だけをやってもダメなのです。これは省庁横断的に官邸主導でなければできない。改革工程表にも織り込まれるはずです。ぜひ秋口には実行態勢に入りたい」
これが特効薬かどうかはさておき、実行に移すまでのハードルは、まだまだ高い。
「断行するとしても法的整備が不可欠で時間がかかる。最大の問題はファイナンス。日銀からの資金援助が盛りこまれているが、日銀は政府保証を要求するし、インフレ懸念もある」(経済部デスク)
構造改革の必要性を疑う国民はいないだろうが、小泉首相に疑念が持たれているのは、彼がどこまで危機を認識しているかが不明だからだ。
「欧米が特別審査という、具体的な手段で改革を迫ったのに、まだ小手先だけの変更で乗り切れると思っているなら、日本は本当に中南米、アフリカ並み経済国に落ちぶれてしまいます」(同前)
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