投稿者 DC 日時 2001 年 9 月 02 日 15:38:42:
http://member.nifty.ne.jp/kanbei/pdfs1/tame116.PDF
『転換期の日本経済』(吉川洋氏)によれば、そもそも日本経済の需要不足は70年代初頭から続いている。そこで70年代には輸出に、85年以後はバブルによって需要を創出した。
90年代の低成長は、日本経済が新しい需要を作ることに失敗したことを意味する。この解釈が正しければ、日本経済が直面しなければならないのは過去10年ではなく、実に過去30年のツケだということになる。
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ところで一連のデフレ議論に対し、興味深い示唆を与えてくれるのが『これがデフレだ!』(吉野俊彦/日経ビジネス人文庫)である。吉野氏は日銀OBの「歴史派エコノミスト」。
本書によれば、日本は過去に4回のデフレを体験しており、それはいずれもインフレの後に生じている。すなわちデフレとは、インフレによって生じた経済の歪みを是正する期間であり、そもそもインフレがなければデフレも生じないはず、という。
○日本が体験した過去の4つのデフレ
松方デフレ (明治期)←西南戦争によるインフレ
井上デフレ (大正期)←第一次大戦によるブームの反動
ドッジライン (昭和期)←第二次大戦によるインフレ
平成デフレ (平成期)←バブルによる資産インフレ
こうした過去の経験が教えることは、単純ながら「終わらなかったデフレはない」ことである。また同時に、「インフレには限りがないが、デフレには限りがある」、つまり天文学的なデフレというものはあり得ない。当たり前の話だが、100円が1万円や1億円になることはあっても、0円になることは絶対にないのである。
今回のデフレ局面も、上記のような3つの調整が終わった時点で止まるはずだ。ゆえに需給ギャップの解消(需要の拡大と過剰施設の償却)、不良債権処理などを地道に行う必要がある。政策的な支援は望ましいが、それだけでデフレを終わらせることはできない。
過去において、大きなデフレが戦争や通貨の大幅切り下げによって鎮静化した例はあるが、今日の事態に対する決定打を示唆してくれるものはない。少なくとも、「公共投資の増額だけで(デフレを)脱却させたという実例はない」(吉野氏)。
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今回のデフレは、グローバル化やIT革命が背後にあるだけに「浅く、長い」ものになるだろう。これはたしかに痛みを伴うプロセスといえるが、2〜3%の物価下落によって日本経済が破綻するというのは、どう考えても大袈裟すぎる議論ではないだろうか。また、逆に2〜3%のインフレによって不良債権問題が片付くというのも、それでは数十年もかかる計算となり、非現実的である。
つまるところ、金融政策はデフレに対する痛み止めになることはあっても、特効薬になることはない。特効薬があるかのように振る舞うことも、賢明な態度ではないだろう。
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http://member.nifty.ne.jp/kanbei/books/shoshika.htm
『超少子化――危機に立つ日本社会』鈴木りえこ
集英社新書 (六八〇円)
現状のままで推移すると、百年以内に日本の人口は半減するという。これは日本社会の危機以外の何物でもあるまい。だが、
内容の重要さにもかかわらず、少子化問題は議論が今ひとつ盛り上がらないテーマである。
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http://member.nifty.ne.jp/kanbei/books/hyakunen.htm
『日本を決定した百年』吉田茂
中公文庫(七〇五円)
それと同時に、明らかに吉田自身が手を入れたと思われる部分も少なくない。たとえば終戦一ヶ月後に外務大臣に任命されたと
き、鈴木貫太郎首相から「戦争は負けっぷりが良くないといけない」といわれたという部分がある。実際、良き敗者たることは、そ
の後吉田が占領軍と交渉する際の基本原則となった。
ところで「良き敗者」という原則は、幕末の攘夷から開国への劇的な転換をも可能にした。明治から百年の日本人は、現実的で
変わり身が早く、勤勉で楽天的である。昔の体制にこだわったりはしない。
本書の誕生から四〇年近くが過ぎ、ここ十年は特に昏迷が続いている。バブル経済以後の日本に対し、「第三の敗戦」という呼
び方もある。もしもこの評価が妥当だとしたら、今回のわれわれの負けっぷりはなんと悪くなったことだろう。吉田茂が見たらなん
と言うだろうか。
明治百年の日本はたしかに恵まれていた。それはおそらく、日本人がすぐれた歴史の感覚をもち、勤勉に働いたおかげで与えら
れた贈り物のような幸運だったのだろう。
スランプに陥ったスポーツ選手は、調子の良かった時期を思い出して復調のきっかけをつかむという。本書には、迷走する現代
日本にとって有益なヒントが、たくさん隠されているような気がする。
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http://member.nifty.ne.jp/kanbei/books/chance.htm
『日本の大チャンス』 ピーター・タスカ
講談社(一六〇〇円)
では、タスカ氏は現状の日本経済をどう見ているのか。九十九年夏に出た最新作は、『日本の大チャンス』である。タスカ氏は
「日本は歴史的転換点を迎えた」と断じている。これは注目した方が良さそうだ。
なぜ日本にチャンスが巡ってきたのか。小渕政権の経済政策や、日銀のゼロ金利政策によるものではない。IT産業の将来性も
あまり関係ない。それは「"絶望"が本格的に仕事をはじめているから」だという。
「絶望」したとき、人は状況に耐えるのではなく、完全に抜け出して変わらなければならない。現在の日本の経済状況は、とても
我慢して切り抜けられるものではない。人々のビヘイビアを根本的に変える必要がある。そういう変化のエネルギーは、みずから
の内部から生まれてこなければならないのだ。
いま、日本では古くて非効率なものが次々と舞台から消えていき、新たな機会や学ぶべきことが急速に出現している。だからこ
そ、現在の日本は「買い」なのだという。
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http://member.nifty.ne.jp/kanbei/books/haiin.htm
『金融行政の敗因』西村吉正
文春新書(七一〇円)
「バブルの発生・崩壊を近頃はやりの第二の敗戦にたとえるならば、私はミッドウェー海戦の頃に戦線に加わり、ついぞ勝ち戦を
知らず専ら退却と敗戦処理を重ねてきたことになる」
護送船団の元司令官ともいうべき著者は、冒頭でここまで言い切ってしまう。本書はこういう知的正直さを土台としている。
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それにしても一読して痛感するのは、「誰が銀行局長でもおなじ結果になったのではないか」ということである。ミッドウェー以後
の太平洋戦争のように、今もなお勝ち目のない戦いが続けられているのではないか。なにしろ、問題はこの国の制度自体にある
らしいのだ。
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http://member.nifty.ne.jp/kanbei/books/dutch.htm
『オランダモデル』 長坂寿久
日本経済新聞社 (一七〇〇円)
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http://member.nifty.ne.jp/kanbei/books/cia.htm
『秘密のファイル(上・下)』 春名幹男
共同通信社 (各一八〇〇円)
CIAという情報機関は、スパイ小説になるくらいだから、とかく大袈裟に見られがちである。しかし本書から伝わってくる姿は、あ
くまでもひとつの官僚組織である。彼らは悪辣な意図を持って、日本に陰謀を仕掛けたのではない。米国の国益に沿って、真面
目に仕事をしたに過ぎない。おそらく今日も、仕事を続けていることだろうが。
読み終えて感動を覚えるのは、米国法に基づいて過去のファイルが公開され、ほとんどの情報へのアクセスが可能になっている
ことだ。情報を記録し、公開することへのアメリカ人の熱意は、いつものことながら頭が下がる。そしてそれを読み込んだジャーナ
リスト・春名氏の熱意には、心から拍手を送りたい。
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http://member.nifty.ne.jp/kanbei/books/daraku.htm
『通貨が堕落するとき』木村 剛
講談社 (一八〇〇円)
「百歩譲って、法律論としてはお前の言う通りだとしよう。しかしな、この瑕疵担保理論には致命的な欠陥がある。―(中略)―
それは買い手に資産価値を下げるインセンティブを与えるということさ。―(中略)―三年間に二割以上値段が下がれば、その分
はありがたいことに日本政府が面倒を見てくれるんだ。こんな馬鹿な契約はない」(本書二七四頁)
大手百貨店そごうの破綻を予言するかのように、この小説は今年五月に発刊された。その後の騒動は、あらかじめ予想ができ
たという何よりの証拠である。
著者は元日銀マンで、現在は金融コンサルタント。金融検査マニュアルの検討委員も務めた。いわば金融政策のインサイダー
である。その木村氏が警告しているのは、瑕疵担保特約の陥穽だけではない。
この小説は二〇〇三年、公的資金七〇兆円がきれいさっぱり使い果たされるところから始まる。主人公の言によれば、「九九
年一二月二九日にペイオフ延期を決定したときからわかっていたことだよ」―とは聞き捨てならない。
問題銀行はどんどん赤字を垂れ流すが、金融監督庁は断固として市場からの退場を命じることができない。かくして三年後に
は公的資金枠が足りなくなってしまう。つまり壮大なモラルハザードが進行するのである。
あいにく、こういう事態を絵空事だと笑い飛ばせるような状況ではない。金融不安の再燃が噂され、金融担当相は頻繁に交代
し、株価は下落し、財政赤字は増大している。
このままいくと、本書のラストが示すように、超インフレによる解決を待つしかないのだろうか。本書が少しでも多くの人の目にと
まり、現下の議論に一石を投じることを祈りたい。
ところで本書には、実在の人物が数多く仮名で登場する。そのへんを推測しながら読むのも一興であろう。サマーズ財務長官
とおぼしき人物は、赤坂の料亭でダイエット・コーラがないといって怒り出す。笑えるエピソードである。
一方、リチャード・クー氏とポール・クルーグマン教授の扱いはやや公平さを欠いているようだ。お二人が読めば気を悪くするだ
ろう。総じて劇中の議論は勧善懲悪的で、いつも片方がきびしく断罪される。その当たりが小説としては不満が残る。
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http://member.nifty.ne.jp/kanbei/books/wana.htm
『日本経済の罠』 小林慶一郎&加藤創太
日本経済新聞社、(二〇〇〇円)
著者の二人は経済産業省の若手官僚で、いずれも米国の大学で博士号を取っている。ここで展開されている議論は、中身も
スタイルも新鮮であり、官僚的な部分はみじんも感じられない。著者はいずれも入省が九一年というから、バブルの時代にはま
だ学生だったという若さである。
さて、本書が提示する四つの解決策については、文芸春秋四月号にも登場したのでご存知の方が多かろう。著者は「現状維
持の持久戦」や「調整インフレ論の誘惑」の選択肢を排し、「市場メカニズムによるバランスシート調整」戦略を推奨している。
読後の素直な印象としては、もう一つの選択肢である「バンク・ホリデーによる強制的不良債権処理」の方が賢明ではないかと
思う。この戦略を取り得ない理由として、著者は実現可能性の低さを指摘している。だが小泉政権には、それくらい思い切った外
科手術を期待したい。なにしろ支持率八割という政治的資源を有しているのだから。
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