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http://www.mri.co.jp/TODAY/UCHINO/2002/0717UT.html
人間は造物主になったか? ウイルスの人工合成報道に思う。
コメンテータ
資源・循環研究部 主任研究員 内野 尚
7月12日の各紙で、米国でポリオウイルスが人工合成されたことが報道された。一部の見出しや解説には「人造生命へ第一歩」、「バイオテロ」、「生命倫理上の問題」等の言葉が並んでおり、生命科学がまた危険な方向に踏み出したかのような印象を受ける。これをコラムで取り上げ、人間が多くの生物を絶滅させたことと併せて、人間を「とんだ造物主」だと結論づけた新聞もあった。
しかし、今回の研究により、人間は本当に造物主になったのだろうか。また、生命科学が誤った方向に踏み出したのだろうか。冷静に実験の意味を考える必要があるだろう。
DNAやタンパク質等の分子からどのように生物が作られるのかという問いは、生物学の根本的問題であり、現代の生物学はその解明に向けてゲノム解析や遺伝子の研究等を進めている。ウイルスは最も単純な自己複製系であることから、この問題のモデルとして研究されてきた。ウイルスを試験管内で複製させる実験は既に1970年代から行われている。今回、ウイルスの全DNAを化学合成したことは特筆すべきだが、決して人類が突然「造物主」になったわけではなく、こうした研究の積み重ねがもたらした成果と言える。また、この結果がバイオテロを特に誘発するとも考えられない。病原微生物の研究は従来から行われており、今回の方法を使わなくとも、生物兵器の開発は可能である。
一方、ウイルスの人工合成は、今注目されているナノテクの一分野でもあり、基礎科学だけでなく、医療等の応用面でも成果が期待される。
以上のことから、今回の実験の否定的な側面をいたずらに強調し、一般市民の不安を助長するような報道は正しくない。実験の正負両面をバランス良くとらえた報道が必要であろう。