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『ネイチャー』誌が遺伝子組み換え作物汚染の論文を撤回、関係者の間で激しい論争
Kristen Philipkoski
2002年6月12日 2:00am PDT 一流科学雑誌が今年4月に、メキシコのトウモロコシが遺伝子組み換え品種に汚染されているという内容の論文を撤回したことは、バイオテクノロジー業界のイメージ戦略にとって大きな勝利だった。
しかし今、バイテク業界がこの勝利をどうやって手に入れたかということが、激しい論争の的になっている。
事の発端は、カリフォルニア大学バークレー校で環境科学、政策および管理を教えているイグナシオ・チャペラ助教授が書いた論文だった。内容は、メキシコのトウモロコシのさまざまな在来種が、遺伝子組み換え作物に汚染されているというものだ。
この論文は、イギリスの科学雑誌『ネイチャー』誌の2001年11月29日号に掲載されたが、これに対してバイテク業界から非難の嵐が巻き起こった。とくに、農業分野のバイテクを推進する『アグバイオワールド』のメッセージボードでの批判は激しかった。
論文が発表された日、メアリー・マーフィーと名乗る人物がメッセージを投稿し、チャペラ助教授は遺伝子組み換え作物に偏見を持っていると非難した。また、アンデュラ・スメタセクと名乗る投稿者は、同助教授のことを「まず第一に活動家」であると評した。
2人の投稿が引き金となって、他にも論文を批判する人が続出した。アグバイオワールドは、論文には「根本的な欠陥」があると述べて陳情を開始した。
だが、これは論争のほんの始まりに過ぎなかった。イギリスの『ガーディアン』紙のコラムニスト、ジョージ・モンビオット氏が、火に油を注いだのだ。モンビオット氏は、遺伝子組み換え作物の大手である米モンサント社が、チャペラ助教授の研究を貶めるためにメッセージボードのメンバーをでっち上げ、広告会社の米ビビングズ・グループ社を使って大々的な広告キャンペーンを繰り広げていると非難したのだ。
モンビオット氏は2つの記事で、マーフィー氏とスメタセク氏という人物はビビングズ社の創作だとほのめかした。
ビビングズ社は疑惑をすべて否定し、これらの記事は「とんでもない」ものだと主張する手紙をガーディアン紙の編集長へ送った。この手紙は12日付けの同紙に掲載された。
「ガーディアン紙の最近の2つのコラム――『でっち上げられた説得者』(2002年5月14日付け)と『企業の幽霊』(2002年5月29日付け)――で、ビビングズ・グループ社に関して書かれたことは、全く事実に反する」と同社は手紙に書いている。
ネイチャー誌の編集長、フィリップ・キャンベル博士は4月、同誌のウェブサイト上に、論文はそもそも掲載されるべきではなかった、と書いた。
この件について、キャンベル博士とチャペラ助教授に電話で取材を試みたが、返答は得られなかった。
チャペラ助教授の研究にはいくつか問題があるという研究者もいるが、研究結果について科学者の間で意見の相違があるのはよくあることだ。
遺伝子組み換えトウモロコシがどのようにメキシコのトウモロコシに侵入したのかはまだわかっていないが、米国から輸入されたトウモロコシが原因である可能性もある。また、ブラジルなどのように、メキシコの農家が収穫高を上げようと遺伝子組み換え品種を密輸入した(日本語版記事)可能性もある。
ガーディアン紙上でのモンビオット氏の批判が正しいとすれば、口コミをねらった非常に狡猾なマーケティングが行なわれたことになる。だが決定的な証拠があるというわけではない。
モンビオット氏は、メアリー・マーフィー氏なる人物が送った、バイテク反対派を皮肉るメッセージを1件見つけたが、そのメッセージの送信者情報には「bw6.bivwood.com」という、ビビングズ・グループ社のドメイン名が含まれていた、と記事に書いている。
だが電子メールのヘッダーは簡単に変えられるし、問題のメールは2年前のものだ。
またモンビオット氏は、スメタセク氏なる人物についてはあまり情報が得られなかったが、この女性は、遺伝子組み換え作物反対派の「テロリズム」について話し合う『食品および農業研究センター』をしばしば宣伝している、と書いている。同センターのサイトの登録先は、ビビングズ・グループ社傘下のビビングズ・ウッデル社で「渉外担当責任者」を務めるマニュエル・セオドロフ氏になっている、とモンビオット氏は記している。
ビビングズ社は、ドメイン名に関するモンビオット氏の主張にはコメントしなかったが、マーフィー氏およびスメタセク氏という人物については、全く知らないと手紙に書いている。
「記事に出てきた『でっち上げられた説得者』――メアリー・マーフィー氏とアンデュラ・スメタセク氏――は、ビビングズ・グループ社の従業員でもないし、仕事の依頼先でもない。また、従業員や依頼先の偽名でもない。それどころかビビングズ・グループ社は、メアリー・マーフィー氏もアンデュラ・スメタセク氏も全く知らないのだ」とビビングズ社。
モンサント社は、遺伝子組み換え作物のキャンペーンのためにビビングズ社を雇っているという疑惑を否定している。
「ガーディアン紙で書かれたような行為を、われわれはビビングズ社にしてほしいとは望んでいない」とモンサント社は述べた。
ビビングズ・グループ社はモンサント社のウェブサイト開設を手伝っているが、従来型の企業広報活動は手がけていない。
「ビビングズ社はPR活動を手がけてはいない」とモンサント社。「わが社は、自分たちの問題については自分たちで広報を行なう」
遺伝子組み換え作物の表示を義務付けているのは19ヵ国。また、欧州連合(EU)は1998年以来、遺伝子組み換え作物を使った新しい製品の販売を禁じている。
EUによる販売禁止は米国の輸出業者の怒りを買うとともに、ヨーロッパの農業バイテク企業の成長を妨げている。EUは今年、この禁止措置の解除を検討すると見られているが、表示は義務付ける可能性がある。
一方トロントでは、バイテク業界最大の会議『バイオ2002』が開かれた。米厚生省のトミー・トンプソン長官は会議の席上で、遺伝子組み換え作物の表示に反対の意を表明した。
「強制的な表示は消費者を怖がらせるだけだ」とトンプソン長官は、10日(現地時間)の朝食時のスピーチで述べた。「表示をすると、バイテク製品は安全ではないとほのめかすことになる」
だが、「バイテク製品は安全でない」というのは、あながち間違いではないと言う専門家もいる。
9日、トロントの公園でバイテクに反対する集会が開かれ、遺伝学を教えるカナダ人のデビッド・スズキ教授が次のように語った。「この科学はあまりにも未熟で、われわれは自分のしていることがわかっていない。『U2』からボノを抜き出してトロント交響楽団の中に放り込み、音楽を演奏しろと言ったら、とりあえず音は発するだろうが、それがどんな音になるかは知りようがない」
http://www.hotwired.co.jp/news/news/culture/story/20020613203.html