治療法がない感染症「エボラ出血熱」のウイルス遺伝子を使い、無毒な「疑似ウイルス」を作り出すことに、東京大学などのグループが成功した。疑似ウイルスは遺伝子を持たず、毒性や増殖能力はないが、外見上はウイルスにそっくり。ウイルスの扱いが難しいため研究が進まなかった同出血熱の治療法、予防法研究に道を開く成果として、国際的に注目を集めている。
エボラ出血熱は、血液や排せつ物によって感染、高熱を発し、消化管などから出血する急性感染症で、死亡率が9割に達することもある。東大医科学研究所の河岡義裕教授と北大大学院獣医学研究科の野田岳志さんらは、ウイルスを構成する8種類のたんぱく質のうち2種類を利用して、同じ立体構造を持つ、無毒のたんぱく質の殻を作り出した。
疑似ウイルスは、内部が空洞状態でウイルスの遺伝子を持たず、毒性が復帰する恐れもない。細胞の表面にウイルスと同じように付着できるため、従来より安全な手法でワクチンや治療薬の開発に活用できる。世界的な生物テロ対策を進める米疾病対策センター(CDC)からも、技術提供の依頼が来ているという。
エボラウイルスなどを取り扱うためには、厳格な安全基準を満たした「P4」施設が必要。国内にP4施設はほとんどなく、住民の反対もあることから、河岡教授らはカナダのP4施設で、この合成法を開発した。
エボラ出血熱は、現在もアフリカのガボンとコンゴ共和国で患者が発生しており、約100人の患者のうち、70人以上が死亡した。
(4月11日03:04)