投稿者 付箋 日時 2001 年 11 月 18 日 15:12:56:
狂牛病、ぬぐえぬ不安・全頭検査1ヵ月 [日本経済新聞] 2001/11/18
食用牛に対する狂牛病の全頭検査が始まって18日で1カ月。これまでに約7万6000頭の牛が検査を受けた。心配された“2頭目の牛”は見つかっていないが、関係者は薄氷を踏む思いで推移を見守っている。感染源とされ、流通禁止となった肉骨粉も焼却が追いつかず、処理は進んでいない。牛肉の消費量は回復の兆しが見えるものの、不信感をぬぐうのは容易ではなさそうだ。
判定
「半年から1年は検査を続けないと評価は下せないのではないか」。16日に全頭検査後の状況をまとめた厚生労働省の高谷幸・監視安全課長はこう指摘した。10日までに簡易検査で「感染(陽性)の疑い」と判定された牛は北海道、東京、神奈川、愛知、三重などで計13頭。いずれも確認検査で陰性と分かった。ただ、検査開始後に出荷された牛の5割強は狂牛病を発症しないとされる生後30カ月未満の牛だった。
年間に処理される食用牛のうち、30カ月未満の牛は2割強に過ぎない。「“2頭目の牛”を出した牧場になりたくないから、若い牛を優先的に出荷しているのでは」という憶測もあるが、高谷課長は「検査前の出荷制限の影響で、30カ月未満の牛が出荷の適齢期になっているのでしょう」と否定する。
「感染牛が1頭だけで済むはずがない」というのは専門家の共通の見方。汚染の実態を正確に把握するため、食肉処理場より狂牛病の発見率が高いとされる牧場で死んだ牛は抽出検査にとどまっているが、「全頭検査すべきだ」という声も出ている。農水省は検討しているが、具体的な対応は決まっていない。
肉骨粉
全頭検査の開始で処理頭数が増え、解体の際に出る骨なども急増したが処理は滞っている。
1日百トンの肉骨粉を生産する北海道では、札幌市が8日から1日当たり十トンを一般廃棄物として焼却処分を始めたほか、函館市や根室市などが受け入れを表明。しかし合計しても焼却可能量は1日当たり30トンにとどまる。道内の肉骨粉の在庫量は10月末で3200トンで、現在も増え続けている。
今月1日現在で約1万6000トンの肉骨粉の在庫を抱える鹿児島県。県内の市町村の焼却施設で実際に焼却処分をするのは二施設のみ。1日当たり計三トン弱で、県が見込んでいた1割にとどまる。県は「焼却炉は有機物を多く含み高温になる肉骨粉を処理する構造になっておらず、一般廃棄物として公営の焼却施設で処分する見通しが立たない」と困惑する。
県内のある肉骨粉業者は「倉庫はいっぱい。野積みにすると風で粉が舞うし、雨が降ると異臭がするし……」と頭を抱える。「セメントの原料などに回さなければすべてを処理しきれない」と環境省は指摘。農水省とセメント会社が実証試験を予定しているが、どの程度の量を処理できるか、メドは全く立っていない。
精肉店
国内最大の東京都中央卸売市場食肉市場(港区)は17,18日に「東京食肉市場まつり」を開催。牛肉の試食や格安販売のほか、牛肉の検査態勢を説明する展示も設置し、消費の復活に期待を込めた。
神戸牛の本場である神戸市東灘区の「サカエ屋精肉店」の海崎孝さん(68)は、16日から3日間で5-2割引きの牛肉大売り出しを実施したところ、売り上げが大きく伸びたという。9月以降、販売量はがた落ちで「つらく、泣きたい日の連続」だったが、全頭検査以後は少しずつお客が戻ってきた。海崎さんは「そろそろ牛肉を食べたいというお客さんが来るようになった」と話す。
しかし消費者の不信感はまだ強い。「食べる必要がないならば、あえて食べなくても」と何となく牛肉を敬遠する人も多い。
「お客様にここまで育ててもらった。ぐっとこらえなければ……」。東京都江戸川区で40年以上精肉店を営んできた猪瀬悦孝さん(66)は常連客が遠のく状況に我慢の日々を送る。
今でも売り上げは以前の5割程度のまま。「回復を信じたいが、転職もちらつき始めた」と打ち明ける。業界関係者は「安全に安心が付いていっていない。このままだと年末年始が勝負になる店が多いのでは」とみている。
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