IP電話が飛躍的普及の兆し 企業が次々採用、個人にも
インターネット技術を使った格安料金の「IP電話」が一気に普及する勢いをみせている。通信費を削減したい企業で採用が相次ぎ、ADSL(非対称デジタル加入者線)高速ネットサービスの浸透に合わせて家庭でも導入の動きが出てきた。NTTなど大手通信会社が築いてきた交換機を使う電話回線網は近い将来、IP電話にとって代わられそうな雲行きだ。
●コスト節減の切り札
証券準大手の新光証券は国内の98本支店の電話計約8000台を02年度中にIP電話に交換する。今夏までに本支店を専用インターネット網で結び、米シスコシステムズ製のIP電話に切り替える。約25億円かかるが、これまでの専用線を使った内線電話の維持費に比べ通信費が1割以上安くなる。新生銀行も約3500台をIP電話に順次切り替えている。
通信設備の保守・コンサルティングを手掛けるNTTエムイー(NTT−ME)は、この1週間で約120社とIP電話導入の契約成立にこぎつけた。企業向けに昨年12月から本格的に販売を始めたが、中小企業などからの問い合わせは約5000件に達したという。
●ADSLが後押し
IP電話には複数の方式がある。国内一律3分20円で「IP電話」の名を一気に普及させたフュージョン・コミュニケーションズの場合は、自社保有の専用ネット網と電話機までの接続にNTT東日本、西日本の回線を使う。
ソフトバンクグループのヤフーが今春から市内・市外ともに3分7.5円で開始する予定の「BBフォン」は、自社のADSLサービス加入者が対象。回線を家庭内に設置するターミナルアダプターで分岐してIP電話機で通話し、ADSL上に音声をのせる。自社のADSL利用者同士なら電話は無料。相手がADSL利用者でなくても、NTT回線への依存は相手先の市内部分だけとなり、NTTへ支払う回線接続料が通常の半分で済む分、通話料を低くできる。
ADSLの利用者数はすでに150万人を超えており、IP電話の潜在的市場が拡大。ベンチャー企業が相次いで参入に名乗りをあげている。
ほかに、パソコン間の音声通話サービスとしてNTT回線を通さず公衆インターネット網を利用する例もある。
●6月に番号割り当て
IP電話には現在、電話番号がなく、「アドレス番号」やIDを指定することで相手先を特定している。このため、ネット網と直接つながるIP電話では、一般加入電話へは電話番号で発信できても、一般の加入電話からの着信ができない。
そこで総務省は6月をめどに、IP電話に専用の電話番号を割り当てる方針だ。現在使われていない「030」「040」「050」のいずれかで始まる11ケタの番号をつけ、IP電話への着信を可能にする。
本格的な普及のカギを握るのはNTTだ。市内回線をほぼ独占するNTT東西などは、これまでに築いた電話交換機の資産を「不良資産」にしてしまいかねないIP電話には踏み出しにくい。とはいえ、IP電話への流れは止まりそうになく、どのタイミングで本格参入するかが焦点になりそうだ。
◇IP電話 インターネットの通信基準(IP)でデジタル化した音声をパケットと呼ばれる細切れの単位に分けてネット網で伝送、受信側で復元する方式。ネット網で効率的に音声をやり取りするため、通信料金を安くでき、市内や市外といった通話区分の意味がなくなる。(01:11)