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日本経済開放の選択〜地価公示構造改革 〔立木不動産鑑定事務所〕 投稿者 PBS 日時 2002 年 5 月 07 日 23:27:45:

「トウモロコシの価格が高いのはトウモロコシ畑地の価格が高いからだと言うのは、本当は正しくない。実際には、その逆の方が真理に近い。トウモロコシ畑地の価格が高いのはトウモロコシの価格が高いからなのだ! 土地はその総供給が非弾力的であるから、常に競争によりあてがわれたとおりの利用のされ方をする。したがって土地の価値は生産物の価値から完全に派生するものであって、その逆ではない。」デーヴィッド.リカード (註1)


          フローとストックの関係
このリカードのトウモロコシの話はストックとしての畑地の価格が畑地のフロ−としてのトウモロコシの価格を決定するのではない、畑地のフローとしてのトウモロコシの価格がストックとしての畑地の価格を決定すると言っているのであって、これが伝統的な経済理論の考え方である。
経済理論は「土地の価格」とは土地の賃貸料で、フロ−としての土地サ−ビスを分析の対象として来た。
われわれ日本人が「土地の価格」と言う時にはストックとしての土地の価格を意識することが多い。(註2)
リカードから二百年経ったバブルの時代、東京の土地の価格が高くなった時、土地が高くなれば家賃もそれに連れて高くなるとわれわれ日本人は考えた。現実はそうはならなかった。
借金で土地を買った人は銀行に金利を払えなくなった。土地の価格が土地の収益を決めるのではないと言う経済理論が正しいことを日本人は漸く悟ったのである。
収穫が土地の価格を決める、フロ−がストックの価格を決めると言う関係からストックとしての土地の価格を考えれば、日本の土地価格を左右する地価公示制度に重大な問題が潜んでいることが解る。以下その問題を考える。

家賃や賃貸料は比較的安定していることは理解出来る。その安定的なフロ−である家賃や賃貸料がストックとしての土地の価格を決めるにも拘わらず、ストックとしての土地価格を示す不動産鑑定士が鑑定して国が公示した地価がバブルの時期何年間も暴騰し続け、その後十何年下落し続け未だに下げ止まらない。それには理由がある筈である
。このストックとしての土地価格の不安定な理由は何かを知ることから始める。

@ ストックとしての土地が取引されるのは全体の土地の極一部であり、その価格は公開されない。そのためストックとしての土地の価格は投機的な情報に支配されやすい。これがストックとしての土地価格が不安定な第@の理由である。

A 一部の投機的取引で」ストックとしての土地の価格が急騰しても、他の土地は殆ど何かに使用されているから、売却するには建物の建て替え等多額のコストがかかるので供給が急には増えず、投機的価格が波及する。
これがストックとしての土地価格が不安定な第Aの理由である。

B 税制上土地は長期間保有しなければ、キャピタルゲインに重課税される為、投機的にストック価格が騰貴しても供給が増えて価格が修正される障害となる。これがストックとしての土地価格が不安定な第Bの理由である。

C 借地借家法の為土地は自由に賃借出来ない。土地を使用するには土地ストックそのものを手にいれなければならない。
ストックとしての土地の価格は将来の土地の年々の収益と売却による収益(フロ−)がどうなるかで決まる。 将来の年々の収益と売却による収益が現在よりも上がると思えばストックとしての土地の価格は高く、現在より下がると思えば安く評価される。
コンピューターが進歩した現在でも将来の収益を予測することは人間の能力を超えるのである。
これがストックとしての土地価格が不安定な第Cの理由である。

D 20世紀の技術進歩は土地と資本と労働の間の収穫逓減の法則の効果、人口と食料の間のマルサスの法則の効果を減して、財産と労働の間の国民生産物分配割合を1対3の比率で1900年以降維持してきたのである。労働人口は幾何級数的に増え、財産のうちの土地の広さは限りがある。財産のうちの資本は労働よりも急速に増加して来た。
国全体として量の限られた土地と、急速に増加す資本とからなる国の財産は資本が増加する分だけ増加するが、労働と財産との3対1の分配割合は増加しなかった。このことが20世紀において先進諸国で見られたのである。収穫逓減の法則に根拠を置いた土地神話が期待する程土地の価格は上昇しないのである。
我々土地評価を職業とする者、銀行、企業、政策当局は総て資本主義先進国におけるこの技術進歩がフローとしての土地価格に及ぼす影響を見逃したと思う。
これがストックとしての土地価格が不安定な第Dの理由である。

E 資本主義経済は現実の経済がひとたび適正な成長率から外れると、その経済は決して適正な成長率に戻らず、逆に適正な成長率から離れて行こうとする(R.F.ハロッド)。これがストックとしての土地価格が不安定な第Eの理由である。


F フローとストックの共通の評価の尺度としての円の価値の不安定性がストックとしての土地価格を不安定にする。円の不安定は基準通貨ドルの不安定が原因である。
フローは一ヶ月とか一年とかの限られた期間の収益をその期間の通貨価値で評価することが出来る。
ストックとしての土地の評価は半永久的な将来までの土地の収益を予測して評価しなければならない。
半永久的な将来の収益の物差しがゴムの様に伸び縮みする円ではストックとしての土地の評価は出来ない。
ニクソン政権は1971年8月15日以降ドルの金兌換を停止し、ドルの価値を保証する責任を放棄した。基軸通貨の価値保全から解放されたアメリカはどの政権も対外均衡を無視してひたすら拡大主義の道を進み生産量を超える消費を続けるので,国際通貨ドル価値は安定しない。
レーガンの大統領就任の1981年8月から間もなくドルレートは上がり始め米日の国内卸売物価の購買力平価(当時約200円程度、以下購買力平価と言う)より遙かに高くなり1985年には260円まで高騰した。
アメリカが積極的な財政政策をとる一方経常収支赤字を補うための資本流入促進する目的で高金利政策を取り、日本はアメリカの要請で低金利にして、日本の貿易黒字分をドルに投資したのでドル高となった。アメリカは日本からのその資本流入で輸入を拡大し、超過需要を賄って、インフレを抑制することが出来、冷戦に勝った。
その結果アメリカが、1985年純債務国になると、今までのドル高政策をドル安政策に大規模の介入によって急に変えたのがプラザ会議であった。
基準通貨国アメリカは、国際収支が赤字であればドルが市場で自然に安くなるのに任せれば好い。国際収支の赤字を改善してドルを安定させるには国内生産より過大な需要を少なくしてドルの安定を計れば好い。アメリカはそのドル安定の道を選ばず、ドル切り下げのため大規模の共同介入を持ちかけ、日本政府は積極的に協力した。
プラザ会議以前のドルレート240円はプラザ会議以後200円になるのに3ヶ月掛からなかった。そののち80円から100円台のドル安になり、購買力平価(国内卸売物価平価)約200円を遙かに下回ったのである。大規模なドル切り下げ介入が無く、ドルが市場で安くなるに任せればこの様に急激に且つ大幅に購買力平価をした回ってドル安になることはなかった。
ドル安でアメリカのドル借金の負担は切り下げた割合で軽くなった。アメリカの国債も不良債権の負担も軽くなったので財政赤字はなくなり、不良債権は整理出来、景気は拡大の方向に向かったのである。
反対に債権国日本はプラザ合意以後毎年ドル切り下げ分を何兆円から何十兆円の為替差損を被り、国内生産は採算がとれなくなり、第二次大戦の敗戦の損害以上と言われる経済的損失を蒙ったのである。
アメリカが円高を修正する介入に転じたのは1995年4月ドルが80円を切ってからである。それまでアメリカの円高政策は続いた。1994年12月メキシコ危機によるドルからの資金流出により80円を割る円高と言うよりドル安になってドル流出を防止するためであった。
どんな国でも相手国の通貨切り下げには反対するものである。
況や日本はアメリカの最大の債権者であった。
日本政府はプラザ会議で何故将来国民経済の安定を損なう様な合意に積極的に応じたのか?
通貨価値は自国が守るべきである事を認識しないでアメリカのドル切り下げの大介入に応じたことは日本国民にとって痛恨事であった。この事が経済敗戦の原因となったことを政府が明らかにして、今後はどうするかそのヴィジョンをはっきりと示すことが経済敗戦に始末をつけることである。このけじめをつけることで国民は初めて閉塞状態が何によって生じたかを理解し、これに対応する道を知り立ち直ることが出来る。
21世紀アメリカは対テロの戦いに入った。
昨年12月アメリカの格付け機関は日本国債を格下げし、まだ下げると言っている。国債の格付けが世界最高であるアメリカの純債務は約2兆ドル(2001年のGNP9兆3千億ドルの約20%)、個人貯蓄はマイナスで、経常収支は4千億ドルの赤字である。財政はやっと100億ドルの黒字である。
反対に日本は対外資産346兆円(GNP比70%)、経常収支は黒字を長年続けている。国債残高は666兆円GNP比136%と多いが、国債保有者は殆ど国内である。国債を子孫に残してもその何倍かの資産(社会資本、生産設備)を残すのに役立つ。国債支払いに税金を充てても納税者から国債債権者への所得移転である。1400兆円の個人貯蓄があり、対外資産高は世界で一位である。国民性は本来は勤勉で真面目である。貯蓄が国債に投資される条件を未だに備えているのであって、日本の国債の信用がアメリカより劣っているとは言えない。問題は政治が経済敗戦の真の原因を国民に隠している為真の対策が出来ないと言う意味で政治のリーダーシップがないこである。それが日本国債の弱点である。
基準通貨国アメリカはドル国債をドル紙幣を印刷すれば支払うことが出来る。だから他の国がドルを安全と信じて保有する間は、国債を発行し続けることができる。金がなくても貸すことが出来、外国の会社を買収したり、戦争することも出来る。それが理由で格付けが最上と言うのであろう。
しかしそれには限度がある。何故ならドル紙幣を印刷して借金を返すことはドルの値打ちを下げことであるからである。
アメリカは金本位を離脱した時からドル価値を維持する規範を解除した。日本は自分で円の価値を守り国民の生活を守るために米国に対しても対等に主張しなければならない。独逸はユーロ圏に入ってドル循環から脱しユーロの安定に挑戦しつつある。
ドルにのみ依存した日本経済は国債の格付けを下げられている。
日本はアメリカその他の外国にドル建てではなく円建てで投資すべきである。
現在日本の債券市場は円建て外債の規制が厳しく、発行額が少なく非上場であるため流動性が劣り売却出来ない。規制を少なくして、円建て外債を発行し易くし、円建て外債が増えれば、日本の格付機関は、債権者の格付けとして外国の債務者が債権者がする格付けに対抗できる筈である。
円建て外債の金利はリスクに見合った国際金融市場の金利となり、我が国の金利をドル循環を維持するため明らかに圧力を加えてゼロにまでしたドル循環の世界を出て、円の価値を安定させる方向に向かうことが出来る。その第一歩は円建て外債の規制緩和である。
人々が通貨、株式、債権の信用が低いと思えばその価値は市場で低くなる。格付け機関が低い格付けをすれば、実際は低くなくても人はその債券、株式の信用が低いと思い価値は低くなる。債券、株式の市場価値がさがれば会社は倒産し、国の経済は破壊される。
これ程の手痛い目に遭っても、その理由が不安定なドルに依存するからであることを理解しないのは何のせいか?そしてその対策がないのは何故か? 理解出来ない不条理である。プラザ合意に積極的に協力したアメリカ一辺倒の政治体制がその時からずっと続いており、保守政治家の多くは総理になるためにはアメリカに逆らってはならないと堅く信じているからである。 そのような時代は過ぎ、対等に自国の国益を守る主張をする時代である。独逸はユーロ圏でそれを実践している。
半永久的な年々の土地の収益予測をするには円の変動を予測しなければならない。我が国の政府が国益のために通貨価値を守らないならば、円の価値が他の国の利益の為に変動する。
国がストックとしての土地価格を公示し、それを土地取引の基準とせよとするのは、ストックとしての土地の評価は円の価値の変動の予測が不可避なるが故に、他国の利益のお先棒を担ぎ、我が国経済を不安定にすることである。
これがストックとしての土地価格が不安定な第Fの理由である。


G 人口13億の共産主義中国の労働と広大な土地が新たに自由経済圏に参加することが世界の生産を拡大し、我が国の物価を下げ、双方の生活水準を上げることが出来ることは比較優位論が明らかにする処である。
あらゆる商品を安く生産出来る国も、高い生産コストの国も、比較優位の商品を生産することで双方の経済を豊かに出来る。
比較優位な生産に進化するのが双方を豊かにする道である。現在日本はこれによって生ずる物価下落をデフレスパイラルと見て、円安にすることくい止めようとしている。
この矛盾はいつか爆発しなければ解決出来ない問題を生む。
これがストックとしての土地価格が不安定な第Gの理由である。

結論 我が国の不動産鑑定制度は以上の不安定なストックとしての土地価格を国が公示し、不動産鑑定はその公示価格を基準とすることが法律で義務付けられている。 そのことこそが不動産鑑定の根本的
問題である。
不安定なことが明らかなストックとしての土地の価格を国が安定的なものの如く国民に示しそれに従わせることが土地神話を支えたのである。
バブル崩壊により土地神話の虚構は明らかである。
経済は自動的安定化装置を有する。我が国はストックとしての地価公示制度がある故に、自動安定化機能が働き難く、バブルは他の國より大きく、恢復は他の國より遅れる。
土地神話を支えたストックとしての土地価格の公示制度は以上の政策矛盾を曖昧にしたまま、過った他国の利益の為の経済政策の実行を助け、国民生活を破滅に導く。
地価公示の制度の問題点をこれ以上閉じこめてはならない。
現在この日本の地べたに生きて苦しんでいるすべての人はこの自分たちが抱える苦しみが何によって生じたかを理解し、勇気を奮って力を結集して制度を改めさせ解決しなければならない。それが日本の21世紀の自立の戦いになる。
閉じこめられた問題は何回でも必ず大きなあくびをする。
その度に経済社会は困窮の度を深め、ついには社会を破壊するに至る。そうさせてはならない。


提言 
 ストックとしての土地価格の不安定を克服するため不動産情報公開、固定資産税改革、地価公示改革による不動産鑑定の構造改革を次の通り提言する。
T 不動産売買価格及び賃貸借料を当事者間の秘匿扱いとすることをやめ価格届け出を義務化し、すべて台帳に登録し一般に公開する。
アメリカでは州によってことなるが売買価格を登録することが義務化されていると聞く。
これによって土地市場が透明になり需給を正常に反映するようになる。
U 固定資産税をストックとしての土地の価格に賦課することをフローとしての土地の収益に賦課することに改める。
現状は秘匿された不透明な条件のもとで成立する不安定なストックとしての土地の価格を公示しこれを基準
にして課税し、年毎に評価額を上げ下げして経済を不安定にしている。
V 地価公示は不安定なストックとしての土地価格ではなく、安定的なフローとしての土地の収益を公示することに改めるべきである。
ストックとしての株式も土地も両者とも将来の収益と売却利益が上がると思えば高くなり、下がると思えば安くなるのである。 ストックとしての株式も土地も国が公示した価格を基準とせよと言う根拠がないのは同じである。このような価格を国が指示するのは市場主義経済では筋の通らないことである。
フローとしての土地の価格は一ヶ月とか一年とかの限られた期間の収益であり、確定的に求められる。その土地のフローが公示されれば、ストックとしての土地価格は市場参加者が収益を尺度として判断し、バブル発生をなくすることが出来る。
ストックとしての土地価格を公示することを止めない限り、我が国の不動産鑑定基準が収益価格を重視する建前に変わっても、公示価格が経済を混乱させることは今後も防げない。

リカード他の先人に導かれこの結論に至りました。上記のストックとしての土地価格が不安定な理由@からGまでを今少し詳細な説明を次に致したい。

ストックとしての土地価格が不安定な理由第1
フローは実際に取引されたものの価格であるのに対し、ストックの価格はそうではない。土地について言えば、年間に取引される土地は、全体の土地ストックの極一部で、その価格は当事者以外には公表されることなく、それぞれの取引は限られた価格情報の下で価格が成立し、他の土地は取引されることなく横並びで評価される。そのためストックとしての土地の価格は需給に正常に反応し難く、一部の投機的な行動によって、大きく変動する。地価公示もすべての対象地が取り引きされ、市場で評価されたわけではなく、極少数の取り引き事例で全体の地点が評価されているのである。(註3)
これがストックとしての土地価格が不安定な第1の理由である。
・・
ストックとしての土地価格が不安定な理由第2
株式の場合はある証券会社が株価の引き上げを図ったとすると、一時的には上昇しても、すぐに売りを誘い、低下する。
土地の場合、一部の投機的な取り引きでストックとしての土地価格が急騰しても、他の土地は殆ど居住用や、事業用になっているから、市場で売却するには他に移転、建物を建て直す等で多額の費用を要するため、供給が制約されるので、投機的価格が短期間で波及する。
このため供給が増えて上昇した地価を調整するには長年月を要するのである。
これがストックとしての土地の価格が不安定になる第2の理由である。(註4)

ストックとしての土地価格が不安定な理由第3
土地は長期間保有しなければ、キャピタルゲインに重税がかせられる
制度があって、投機的に地価が急騰しても、供給がすぐに増えて価格が修正される障害になる。
これがストックとしての土地の価格が不安定になる第3の理由である。

ストックとしての土地価格が不安定な理由第4
現在の日本では土地については借地借家法等の影響で、賃貸借されるよりは土地ストックそのものが取り引きされるのが普通である。その場合土地ストックは資産として価格付けされることになる。つまり、土地所有から得られる利益として、土地の利用収益の他に売却益も考慮される。
ストックとしての土地の価格は将来の土地利用収益、売却益により変動する。(註5)
つまり、ストックとしての土地を取り引きする人は土地の将来の収益や売却益を変動させる諸要因を判断して、土地が将来値上がりするか、値下がりするか考える。値上がりすると人々が考えればそれだけで実際に地価は上昇してしまい、地価が将来下がると考えればそれだけで地価は下がることになる。コンピューターが大容量化し、高速化し、情報技術が究極まで進んだ現在でも将来の収益を予測することは人間の理性を超える。これがストックとしての地価が不安定になる第4の理由である。



ストックとしての土地価格が不安定な理由第5
 
地球上の土地は限られ、収穫は逓減するから地価は限りなく上昇すると多くの人が信じたが20世紀の技術進歩のせいでそうならなかった。
技術進歩は、それが国民生産物中の労働の相対的分け前を減らすか、財産の相対的分け前を減らすか、それともこれらの分け前を不変に保つかに応じて、労働節約的、資本節約的、または中立的というふうに、定義される。(註6)
労働節約的技術進歩の効果
労働節約的な例は、人間労働の手足や頭を使う作業の何でも出来るロボットを、人手を全然必要としない機械で生産することを可能にする技術革新がそれである。このような発明は賃金を大幅に下げる。


技術進歩の労働節約的効果
(1) 競争的な市場で一定の資本財に労働が結合して生み出される生産物の分配は、つぎつぎと加えられる労働に対する需要曲線が収穫逓減の法則によって右下がりとなり、労働の供給曲線と交わり、最終の労働者の限界生産物に等しいだけの生産物が、すべての労働者に労働の対価として支払われる。最終の労働者の限界生産物を超える部分で、それより前の労働者が作りだしながら賃金の形で受け取らなかったものの合計は資本財に分配される。
       
   第1図 国民生産物の分配(労働節約的技術革新前)(註7)
    一定量の資本財と労働が結合して生産するモデル

横線: 労働の量
左の縦線: 賃金率
右の縦線: 労働の供給
斜線: 労働の需要線(限界生産物線)
斜線下の三角形: 資本財への産出物の分配
下の矩形: 労働への産出物の分配
総産出物: 斜線下の三角形+下の矩形
社会はこの一定量の資本財と総労働量で最大量の生産物を得ることになる。

     

 

(2) 労働節約的技術が土地と労働と資本への国民生産物分配に与える影響


  第2図 労働節約的技術の影響を次の図で説明出来る


縦線、横線の意味は第1図と同じ
捻れた斜線は労働の需要線 IT革命の効果で限界生産物が増える為技術進歩前の需要線より右上に移るが、一面省力効果でリストラ圧力で下に捻れる。
捻れた斜線で囲われた台形は資本財への分配量で、その下の矩形は労働への分配量である。


第1図と比べると技術進歩で労働生産性が高まり総産出量が増え、資本財への分配割合が増え、労働への分配割合が減る。それは生産過剰を意味する。
サムエルソンはこのことを次のように言っっている。
「極端な労働節約的な発明は労働の分け前を現在の75%乃至80%の水準から50%以下に下げるだろう。」(註9)

(3)労働節約的技術の土地価格への影響
 第3図

縦線: 賃金(労働人、日あたり)
横線: 土地の収益(単位面積あたり賃料)
中間の横線: 最低生存賃金の労働の供給線
斜線: 土地に対し労働人口が増えれば賃金が低下することを示す労働の要素価格線が2本ある。左の線は技術進歩前の価格線。 右の線は技術進歩のお陰で要素価格線が右に移ったことを示す。 線上の黒点の位置は賃金を示す。左側の要素価格線上の黒点が示す賃金よりも右側の線上の黒点が示す技術進歩後の賃金が低下する事を示している。
下の横線上の黒点は斜線上の賃金に対応する土地収益を示し、右側の黒点は技術進歩のお陰で土地収益が増加することを示す。


技術進歩で労働の生産性が上昇し、労働者が余り、失業が増え、労働の分け前が相対的に減る。
各労働者の賃金率と労働者数を掛け合わせ、GNPから引いた残りは誰が受け取るのであろうか? 資本が存在しない前提では、残りは土地に分配され土地の収益(フロー)が増える。ストックとしての土地価格は土地の収益の現在割り引き価値であるから、土地価格が賃金比で相対的に高い状態は改善されず継続する。

技術進歩の資本節約的効果
資本節約的な例として企業が在庫量をはるかに少なくすることを可能にするコンピュウターソフトが上げられる。
資本節約的技術進歩は国民生産物の財産への分配を減らし、労働への分配をふやし、ストックとしての土地価格を下げる。
第4図 資本節約的技術進歩の効果を次の図で説明出来る。
左側の縦線 利子率
右側の縦線 資本供給
下の横線 資本の量
上の斜線 資本の限界生産物線
下の斜線 資本節約的発明後の資本の限界生産物線
資本節約的発明前の労働への分配は上の斜線と縦の資本供給線の交点を通る横線で囲まれた三角形。
その時の資本への分配はその三角形の下の最下部の資本供給の横線までの矩形
資本節約的発明後の労働への分配は下の斜線と縦の資本供給線の交点を通る横線で囲まれた三角形。
その時の資本への分配はその下の矩形

上の図で資本節約的発明後は労働への分配は増え、財産への分配は減るのでストックとしての土地価格は下がる。

経済史上の事実 
20世紀にアメリカの実質賃金は顕著に上昇している。技術進歩が労働の生産性を高め、資本節約的技術変化と資本の増加が労働の分け前を増やしたからである。
アメリカでは1900年以降、人.時間数(能率単位労働力)は3倍になり、物的資本のストックは8倍以上になったが、労働所得と財産所得の国民生産物の分配は労働所得ほぼ4分の3、財産所得4分の1と言う比率を1900年以降維持して来ている。(註10)
技術進歩が土地不変による収穫逓減の効果をほとんど相殺してしまったからである。
近代経済学者の多くは資本産出高比率(資本係数、K/Q)を殆ど技術的不変数値とみなし、産出高の年々の成長に必要な量を超えて資本を蓄積しようとしても、、それは間もなく不成功に終わるだろうと考えている。設備から得られる利潤なり、賃料なりは、資本投資の集中があった後はいつも、大幅に下がってしまう。その結果、過剰能力が生じ、1929年や1973年に続いた不振の何年かに見られた様に利潤の低下でその過剰能力は削減されたのである。日本でもバブル崩壊で削減された過剰能力が不良債権の名で残っているわけである。
長期の理論では資本産出高比率は不変とみなさねばならない。(註11)
資本産出高比率、K/Q比率……K,資本財はさまざまのものからなる、例えば機械、工場(建物と敷地)、住宅(建物と敷地)、……この中には土地も含まれる……原料や生産過程の途中にある財貨等。……Q,総国民産出高。……アメリカの1900年から1990年までのK/Q比率は3年という数値に驚くほど近い。言い換えれば、資本財全体の現在価値を貸借対照表的に計算したものは、3年分の総生産物にほぼ等しかったことを示している。
以上のアメリカの歴史は技術革進の労働節約的、資本節約的効果、生産性増加効果は国民生産物の配分を必ずしも変えるものではないと物語っている。日本、ヨーロッパ等の先進資本主義国の場合も同様と考えられる。
サムエルソンはこのことを次の様に言っている。
偶然によるのか、反対に作用する趨勢の相殺効果によるのか、もっと調査を要するような経済的メカニズムの帰結であるのか、いずれにせよ結果的には、発明の出現は、資本にとっての収穫逓減が利子率や利潤率に及ぼす影響をほぼ相殺した。そして発明は労働節約的でも資本節約的でもなく、したがって労働および財産の相対的分け前をたいしては変えない結果に終わっている。(註12)

ストックとしての土地価格が不安定な理由第6
資本主義経済に内在する短期的な不安定性と長期的不安定性(註13)
R.F.ハロッドは資本主義経済は現実の経済がひとたび均衡から外れ異常な歩みをはじめると、その経済は決して均衡に戻らず、ますますそこから遠ざかると主張する。我が国の経済が停滞から抜け出せない状況は正にこのハロッドの理論に合致する。
ハロッドは経済を分析する用具として、現実成長率、適正成長率、自然成長率と言う三つの成長概念を用いる。

現実成長率: これは文字通り現実に生じた産出量成長率を意味する。
 人々は貯蓄を行い、企業者は投資を行うが、これらの貯蓄と投資は長期的にはケインズの理論が述べている様に国民所得が貯蓄と投資に一致する点で決定し、事後的には必ず一致する。
国民所得をY、貯蓄をS、投資をI、現実の産出量増加分を △Y、で表すと貯蓄と投資は、
S=I  
であるから
左辺と右辺に1/Yを掛け、右辺に△Y/△Yを掛けると
S/Y = I/△Y.△Y/Y  (1)     

と言う恒等式が導かれる。

 S/Yは平均貯蓄性向、I/△Y は資本と増加産出量の割合(資本係数)を、△Y/Yは産出高の増加割合(成長率)を表している。                          

平均貯蓄性向をS、資本係数をC、現実成長率をGで表すとこの式は、
S=C・G  (1)’ 
と書き直すことが出来る。この式をハロッドは現実成長率に関する基本方程式と呼んでいる。
 
適正成長率: 人々がその所得の中から行った貯蓄と、企業者が需要の動きを予想して計画した投資とが、ちょうど等しく、その結果、資本設備が最適操業度で使われていて、企業者が諸事情に変化が無い限り次期も同じ産出量成長率で生産したいと考える産出量成長率を言う。この成長率が実現した場合には、人々が行った貯蓄がすべて投資に振り向けられ、しかも資本設備になんら過不足が無いわけであるから、これは企業者の均衡を表す産出量成長率と言える。
現実成長率と同じ様に、、国民所得をY、貯蓄をS、投資をI、そして資本設備を最適操業度で使ったときの適正な産出量増分を△Y’で表すと、

S/Y= I/△Y・△Y’/Y  (2)   

という式が導き出される。
この式も(1)式と同じ様に、貯蓄と投資の一致と言う関係を含んでいるが、(1)式の場合は事後的に一致すると言う事であるが、(2)式の場合は計画貯蓄と計画投資が一致するという点が違う。
そこで、平均貯蓄性向をS、必要資本係数つまり適正な資本、産出量比率をCr、適正成長率をGwで表すと、この式は、
 S=Cr・Gw   (2)’ 
と書き直すことが出来る。これをハロッドは適正成長率に関する基本方程式と呼んでいる。
この式は、計画貯蓄と計画投資が一致した時には、ケインズは均衡産出量が決まる(静学的立場)とするが、ハロッドは均衡産出量成長率が決まると(動学的立場)する。ハロッドは(1)’と(2)’の成長率概念を使って、まず、経済の短期的な不安定性の問題を解明しようとする。
資本主義経済においては、現実成長率が適正成長率に一致するということ、つまり現実の経済が適正成長率という名の一種の均衡成長率で成長するという事は、まったくの偶然を除いて殆ど期待できないといって好い。
そこで、今仮に、現実の経済の成長、現実成長率が適正成長率を上回ってしまった、とする。
(1)’式と(2)’式を比較する。両式は共通のSであるから、
 G>Gw∴C<Cr。
Crは適正な資本、産出量比率であるから、現実の資本係数がそれより小さいという事は、資本設備の増加分(投資)に比べて産出量の増加分が大きすぎることを意味している。そこで企業者は、自分達の資本設備が不足してきたと考え、投資をさらに増やしてこの不足分を埋めようとする。しかし投資が増えれば有効需要はさらに増大するから、現実成長率はますます大きくなり、適正成長率との差はますます開いて行く。そして、それがさらに資本設備の不足感を増幅させる。このように、ひとたび適正率を上回った現実成長率は、決して適正率に戻るのではなく、逆に適正率からますます遠く離れて行こうとする。この経過は正にバブル期の経済の動きを説明する。


今度は、現実成長率が適正成長率を下回ったときのことを考えて見る。
この場合にはG<Gw ∴ C>Crとなる。
このことは、現実の資本係数が必要資本係数より大きい、つまり産出量の増加に比べて資本設備は最適操業度で使用すると過剰であるということを意味する。そこで、企業者は、自分たちの資本設備が余っていると考え、設備を抑制しようとする。しかし設備が減れば有効需要が更に減り、産出量が少なくて済み、現実成長率はますます小さくなり、適正成長率との差はますます開いて行く。そしてそれがさらに資本設備の過剰感を増幅させることになる。こうしてひとたび現実成長率が適正
成長率を下回ると、決して適正率に戻るのではなく、逆に適正率から遠ざかって行こうとする。この経過は正にバブル崩壊期の経済を説明する。

経済の長期の不安定性

この問題を考えるためにハロッドはもう一つの成長概念、自然成長率を導入する。
自然成長率: 「能率単位」(自然の労働単位に各人.時間の技術的効率における増加を仮定した分だけ加算したもの)で表現されたその労働供給の年あたり百分比成長率のことである。人口の増加と技術の進歩(労働生産性の上昇)によって可能となる産出量の極大成長率である。
均衡成長の条件として、産出高と資本のいずれもがやはり年あたりこの同じ自然率で成長しなければならない。
例えば、人口が年年1%の速度で増大し、労働生産性が年々2%の速度で上昇している経済では、産出量は、労働の完全雇用を維持しているかぎり、年々約3%の速度で成長することが出来る。この速度が自然成長率と呼ばれるものである。
自然成長率は、労働が完全雇用されている時の産出成長率であるから、労働者にとっての均衡成長率である。
この3%の自然成長率でGNPが着実に成長するためには貯蓄=投資もこの3%の自然成長率で増加しなければならない。
したがって、国民所得をY、貯蓄をS、投資をI、そして所与の人口増加率と労働生産性上昇率の下で労働を完全雇用し続けたときに可能な産出量増分を△Y”で表はすと、

  S/Y =又は≠ I/△Y’・△Y”/Y (3) 

                                    
という式が導かれる。 ここで、右辺第一項の資本係数が
I/△Y”でなく、I/△Y’になっているのは、企業者としてはこの場合も資本設備を最適操業度で使用するであろうことを示している。そこで、平均貯蓄性向をS、必要資本係数をCr、自然成長率をGnで表はすと、(3)式は、
 S=又は≠Cr・Gn      (3)’
と書き直すことが出来る。 これが第三の自然成長率に関する基本方程式である。
これらの概念を使って、経済の長期的不安定性を説明出来る。  
いま、経済が急速な拡大を遂げ、現実成長率Gが適正成長率Gwを超えた(G>Gw)とする。短期の説明での通りで、企業者は資本係数を過小(C<Cr)に感じ、投資を更に増やし、成長の度を高め経済は好況期を迎える。このような高い成長率は、産出量増加のためにますます多くの労働者を必要とするから、無限には継続し得ず、やがて完全雇用に達すると、その後は自然成長率Gn、つまり人口の増加.時間の技術的効率における増加の範囲でしか成長しなくなる。経済が完全雇用に達した時自然成長率の方が適正成長率より大ならば(Gn>Gw)そのことはG>Gwを意味するから、C<Crであるから企業者は設備を増やし、経済は繁栄を続ける。この場合も完全雇用状態で成長が長く続くと、インフレが生じ、利潤に有利な所得配分となる。その結果社会の貯蓄性向は増大し、適正成長率Gwを高める。やがてGwが現実成長率以上にまで高まれば(G<Gw)、資本係数Cは過大に感ぜられる様になる(C>Cr)。そこで投資は削減される様になり景気は逆転する。
また、経済が完全雇用に達した時、すでに自然成長率が適正成長率を下回っていたとすると(Gn<Gw)、この時は同時に現実成長率が適正成長率を下回ってしまう訳(G<Gw)であるから、資本係数は過大(C>Cr)に感ぜられ、すぐに、景気は下降局面に転ずる。資本主義経済では、完全雇用を伴った成長率、つまり自然成長率が、企業者にとっての均衡成長率つまり適正成長率に等しい、という保証はない。そのため、経済は、完全雇用の実現に成功し、自然成長率での成長に到達したとしても、早晩景気後退から不況へと落ち込まざるを得ない。

我が国の経済の現状
バブル経済の時代のGNPの現実成長率Gは適正G成長率Gwを超えていた(G>Gw)。そこで企業者はCバブル崩壊の時代 暴騰を続けていた地価が不動産業向け融資の総量規制(平成2年4月)を契機として下落に転じ、現実成長率は適正成長率を下回り(G<Gw)、資本.産出量比率は過大と感ぜられることになり(C>Cr)、投資は減少し、それが更に現実成長率を適正成長率より低くし(G<Gw)、現実の資本.産出量比率を適正資本産出率より更に過大に感じさせ(C>Cr)更に投資を減少させるので景気は下降を続け、これを繰り返している。その景気が上昇に逆転するのは何時か。産出高が急速に減少して行く過程では、加速度原理はそれ以上の早さ投資を減少させ、累積的なデフレ螺旋状現象の中に入り込むかも知れない。そして結局企業がその資本ストックを国民所得の低い水準に見合った水準に見合った水準まで行く。そこまで来ると加速度原理が投資食いつぶしに終止符を打ち、とたんに上へ浮き上がって来る。そのようなどん底まで行くのを防ぐための再三の金融緩和、財政出動、公共投資等のマクロ政策にも拘わらず景気は好転しない。情報非公開、寡占、非合理な社会経済構造(その内の一つがストックとしての土地を対象にする地価公示制度)、政治家、官僚、経営者のモラル低下が社会を沈滞させているからである。
これがストックとしての土地価格が不安定な第六の理由である

ストックとしての土地価格が不安定な第七の理由
フローは一定の限られた期間の土地の収益をその期間の通貨を尺度として評価する。
ストックとしての土地の評価は半永久的な土地収益を予測して評価する時の通貨を尺度として評価する。
その通貨の価値は一定の長さを有する物差しであって、伸縮するゴムの物差しでは評価出来ない。


不安定な基準通貨
米ドルは嘗ては金に兌換可能の基準通貨であったから、主要国通貨は対ドル固定相場を維持出来た。ニクソン政権の1971年8月15日以後不換紙幣となり、アメリカはドルの価値維持の規範を放棄した。
基軸通貨の価値保全から解放されたアメリカは対外均衡を無視してひたすら自国の拡大路線の道を進んだので経常収支赤字が続きドルは次第に減価し続け、カーター政権からレーガン政権になる1981年1月頃は嘗ての固定相場360円は200円位であった。

レーガンのプラザ合意
レ−ガン政権発足後深刻な景気後退期に入っていたが、景気刺激のため財政は放漫政策をとり、金融は反対にインフレ抑制の為、高金利政策をとり、フエデラルフアンドレートは低いときで8.6%、高いときは11.6%と高レベルであった。日本はアメリカの圧力に屈し、アメリカより低い金利を維持して、ドルを買ってアメリカに資本投資をし、これがドル高を実現したのである。
アメリカはドル高で輸入を増やし、国内供給力を上回る需要拡大が可能になり、しかも物価上昇率の加速を伴わなかった。これが冷戦を遂行するアメリカレーガン政権の強いドル政策であった。
卸売物価購買力平価が200円の時ドルのレートが250円であれば、日本で250円で売られる生産物が200円しか価値のないドルと交換されるからである。
アメリカからみれば日本国民の働きを購買力平価より15%〜25%安く買い取ることになる。レーガンの強いドル政策の効果であったが、他面強いドルは収支の甚だしい悪化と国内産業の衰退となった。アメリカの財政は借金が増え、対外的には1985年に第二次大戦後初めて純債務国になった。この為、同年2月を境にドルレートは下落に転じた。
基準通貨国アメリカとしては需要が過大なため対外収支が輸入超過になったのだから、超過需要を取り除くことで国内のインフレ圧力と対外赤字をいずれもなくすることが出来、ドルは安定し、日本他世界経済が安定した筈であった。
その道をアメリカは選ばなかった。ドルを切り下げて借金を負けさせることにしたのである。
西独は79年1月EMS(欧州通貨制度)の盟主としてドルに依存しないで、統合ヨ−ロッパと通貨を共にすることが決定していた。アメリカは日本を専ら通貨戦略に利用することを考えた。
アメリカが日本を狙ってドルを安くする長期戦略に転換したのが1985年9月22日のプラザ合意であった。
合意の内容: 近い将来に、ドルを現行水準から10〜12%下方調整させる。(実際は240円から200円に下がるのに3ヶ月掛からなかった。その後80円まで下落した。)
ドル切り下げの介入資金:180億ドル、各国の分担
アメリカ30%、日本30%、西ドイツ25%、イギリス5%、フランス10%
会議では金融政策は話されなかったが、アメリカは日本の金利引き下げにしばしば圧力を加え日本は国内の経済状態よりアメリカの金利に合わせて金利を下げ続けた。(註13)
プラザ合意前後の日本の公定歩合
1983.10 5.0%   
1986.1  4.5%
1986.3  4.0%
1986,4  3.5%
1986.11 3.0%
1987.2  2.5%
アメリカの公定歩合(日経金融年表)
1984.12 8.00%
1985.5  7.50%
1986.3  7.00%
1986.4  6.50%
1986.8  5.50%
1987.9  6.00%
為替介入と利下げでドルは小判の質を落とす様に安くなり、借り手にとって元金と金利がだんだん軽くなり、貸手はそれだけ損を蒙った。アメリカの財政赤字と銀行の不良債権はそれにつれて整理された。
日本はドル高の時に円安で少ないドル対価で製品を売り、好景気の恩恵を受けたが、アメリカへの債権に振り代わった対価は、プラザ合意以後安くなったドルになったのである。購買力平価を下回るドル安、円高は日本企業が国内でいくら生産しても赤字になる不況をもたらした。
プラザ会議では日本の政府はこのことを何故か予測しなかったのである。考えれば円高誘導の介入資金を30%も負担し、利下げもし、その代償に日本企業に打撃を与える様な大介入に積極的に協力した筈はない。日本はアメリカの最大の債権者である。日本は経済競争上の最大の競争相手と考えられていたからアメリカの通貨戦略の狙いは日本を撃つことであった。日本政府はそれに協力した。
日本の金融組織がおかしくなった最大の原因はプラザ会議で政府が国民全体の立場に立たないでアメリカの利益を考えてドルの切り下げに協力したからである。
政府がこのような判断をした背景は日本の保守政治家のかなりの部分はもし総理の座を狙うならば、決してアメリカに逆らってはならないと堅く信じていることにあった。アメリカが何を望んでいるか、が重要ななのでアメリカはその情報を宣伝すれば日本政府は交渉はするが基本的にはそれに合意すると言うのが一般に認識されている日米交渉の構図である。(註14)
政府のプラザ合意の於ける以上の判断の過ちの跡は次の経済白書の購買力平価の図を見れば歴然としている。
購買力平価と実際の為替レート概略 (経済白書平成12年版より。因みにこの図は平成12年迄毎年白書は記載していたが13年からは記載しなくなった。)

レーガン プラザ合意 
政権発足
図面の説明: 縦軸 ドル/円レート 横軸レーガン政権発足後
200年1月までの推移
1番上の斜線 消費者物価購買力平価
2番目の斜線 卸売物価購買力平価
3番目の斜線 製造業購買力平価
4番目の斜線 輸出物価購買力平価
曲線 実際の為替レート

長いテロとの戦いに入った21世紀のアメリカは2兆ドルの純債務を抱え毎年4千億ドルの経常収支の赤字である。拡大主義のアメリカは財政を縮小することでで借金を返済することは出来ないだろう。とすれば、円は基準通貨ドルにのみ依存出来ない。
日本の国債はアメリカ他の格付け機関によって格下げされ、更に下げると言われている。これに引き変えアメリカの国債は最高のランクである。
アメリカの2000年末の純債務と経常収支は以上の通りであるが、日本は対外資産は黒字で346兆円、GNP比で約70%である。経常収支はずっと黒字をつづけている経済力がある。
国債残高は666兆円GNPの136%にも達するが、国債は借金を子孫に残すだけでなく、その何倍もの生産設備、社会資本を残す為でもある。日本の国債は殆ど国内で買われた国民の財産で、国債返済の時は納税者から国債所有者へ所得移転されるもので、国民の財産が減るのではない。
個人貯蓄は1400兆円あり国債の消化は続けられる。
にも拘わらずこの日米の格付け逆転している理由は何だろう?
日本の政治はプラザ合意の真の意味、バブルとその崩壊がそれによって生じたこと、それが政治の責任であることを明らかにしない。それでは経済が立ち直る事は出来ない。この不況の真の原因を伏せることで政治にリーダーシップが欠けることになり、日本の国債の信用を低くしているのではないのか?
基準通貨ドルの国アメリカはドルの国債をドル紙幣を増刷さえすれば支払うことができる。アメリカはかねがなくても、かねを貸すことが出来、外国の企業を買収し、戦争をすることも出来る。
アメリカは軍事、政治的の覇権国でドルが最も安全と他の国が信じて保有する間は双子の赤字でも赤字国債を発行し続けることが出来る。
しかしそれには限界がある。ドルの際限のない垂れ流しやアメリカの政策が世界に受け入れられなければドルが信認されなくなって市場はドルの評価を下げる。このことが現在世界経済を不安定にしている。
日本政府はデフレを食い止める為円安に介入し、労働価値と国債、円資産の価値を切り下げる実質上の大増税を強行しつつある。政府は国民にそのことを国民に明らかにしないで実行している。
今や世界の金融市場で一日に取引される外国為替は一兆ドルから一兆5千億ドル。円に換算すれば200兆円位になる。日本のGNPが年間5百兆円だから、その半分位が一日で取引される。一方実物経済である貿易取引は、一日5百億ドルのレベルである。
1997年のタイ、インドネシア、韓国、日本のアジヤ金融危機は投機的資金の流入、流出によって起こった。既存の国際金融システムはまだこれに対応出来ず新しい不安定要因となっている。(註15)
アメリカは基準通貨ドルを安定させる義務はない。アメリカはドルをアメリカの利益のために変動させ得ると考えて実行して来たことははっきりしている。このような不安定な基準通貨に振り回される円を尺度として半永久的将来の土地の収益を予測してストックとしての土地価格を公示しそれに従えとすることは他国の利益のために経済を不安定にすることである。
これがストックとしての土地価格が不安定である第七の理由である。


ストックとしての土地の価格が不安定な第八の理由
中国の変化
現在日本が直面する経済的困難は、大きな変化に日本の経済構造が対応出来ていないことに起因する。
変化の第1はアジヤ諸国(特に中国)の工業化、第2は情報通信技術の変化である。
第2の情報通信技術の変化等が国民生産並びにその分配に及ぼす影響がどのようなことであるか?そしてそれが土地神話を崩壊させバブルの崩壊の原因となったこと。我が国はその対応を過ったこと。のそれぞれについてはストックとしての土地価格不安定理由の第6で既に分析した。
中国の共産主義経済が一部解放され、自由経済市場に加わると言うことは中国にとっては自由経済圏の資本が、自由経済圏にとっては膨大な労働力と広大な土地が利用可能になり、相互の生産物の増加により相互の生活水準が上がる可能性を意味する。
二国のうちの一方が他国よりもあらゆる商品を安く生産出来る時でさえも、国際貿易は相互に利益をもたらす。1時間あたり賃金が日本で千円、中国で三十円のときに、日本は中国との貿易で利益を得ることができるであろうか、比較優位の理論は、この問いにたいして「できる」と答える。(註16)
現在日本は中国との貿易による物価下落をデフレとし、金融緩和、円の減価で対応しつつある。
中国はデフレ、失業、農村の貧困、国有企業の赤字、元の相場が安く固定されている等の問題をかかえている。しかし2002年12月WTOに加盟し、経済自由化の流れは加速の方向である。中国との貿易で日本の生産物の価格、賃金、土地のフローとしての価格も低下する。
このような経済の実物的な変化に対し実物的な対応は日本の経済構造を実物的に変えることで、それは日本の産業を比較優位な産業に進化することである。金融緩和により円安にしバブルを発生させれば将来の中国参加の世界の生産増、世界の価格低下によって破滅する。
調整インフレ、円安等で問題を先送りするのでなく、中国等アジヤ諸国の自由経済圏参入を受け入れて実物的構造改革をすることが今の歴史にあった道である様に思う。
この政策矛盾がストックとしての土地価格が不安定になる第八の理由である。
以上、ストックとしての土地価格は将来の不安定なフローを日本政府がコントロール出来ない変動する通貨価値で評価して求めざるを得ないこと、予測出来ない将来のフローを予測出来るものとして評価するストックとしての土地価格を政府が公示し、市場をこれに従わせることは日本経済の将来を破壊することを見てきた。
これと異なり土地のフローは一月とか一年とかの直近の期間の価値をその期間の通貨価値で評価すれば足りる。政府が公示して市場に基準とすることを求めることが出来るのは土地のフローでありストックではない。市場は公示されたフローから合理的自主判断でストックとしての土地価格を取引することは自由である。それが市場主義であり、本来の土地市場になる。


我が国の不動産鑑定基準は取引事例重視から収益還元法重視へ転換しても公示するのがストックとしての土地価格であれば国は旧態依然の不安定で誤った物差しを国民に提示し経済混乱に導くことになることを明らかにした。
この地価公示の危険な問題点を地価公示に携わるものの中に閉じこめてはならない。
危険に満ちた地価公示の制度の問題点を明らかにして、開かれた議論をしなければならない。(終)

註1 サムエルソン経済学 11版  第28章(P.598)  
註2 野口悠紀雄 土地の経済学 第3章(P.64)
註3 野口悠紀雄 土地の経済学 第3章(P.67)
註4 同上               第3章(P.74)
註5 同上               第3章(P.70)
註6 浅野栄一  都留重人編経済学講義下(P.127)
註7 
サムエルソン経済学 11版 第37章(P.789)
註8 サムエルソン経済学 9版 第27章(P898)
註9 同上              第37章(P.1250)
註10 同上              第27章(P.910) 
註11 同上             第37章(P.1249)
註12 同上          11版 第37章(P.791)
註13 船橋洋一 通貨烈々         (P.34)
註14 榊原英資 国際金融の現場      (P.128)
註15 同上                (P.184)
註16 サムエルソン経済学 11版 第34章(P.712)


以上は野口悠紀雄、浅野栄一、船橋洋一、高橋乗宣、都留重人、サムエルソン諸先生の著作に学び、私見をまとめました。 立木秀夫

http://www2.justnet.ne.jp/~tatuki/index.html

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