(回答先: Re: カネ余りの不思議 〔普通の人の経済学より〕 投稿者 PBS 日時 2002 年 4 月 22 日 22:55:07)
PBSさん、こんばんわ。
「普通の人」の金融資産に対する見方は、「レス1:マネーサプライの定義のついて」で書いた内容と関わりがあることですが、同じ貨幣が同時的に複数の経済取引に使われているという“危ない橋”に対する問題意識が希薄だと思われます。
経済学者のなかには、国債問題を「家庭内の貸借関係」と見立てたり、政府の資金運用部が半分ほど保有しているのだから心配は要らないと説明する人までがいます。
国債の経済効果は脇に置いて、国債の発行・引き受け・利払い・償還のサイクルを見ることで、そのようなもっともらしい説明が正当なものがどうか考えます。
国債が、30兆円の新規財政赤字向けと70兆円の利払い・借り換え向けで合わせて100兆円分発行されるとします。
これをうまく消化するためには国債引き受けに向かう貨幣が新たに100兆円なければなりませんが、経済学的には、新規分と借り換え分は意味が違うものと考えられます。
新規分の30兆円について、銀行などの引き受け手は金融資産を異なる形態に変えて保有しただけだと考えますが、経済論理的には、金融資産30兆円が歳出というかたちで“消費”されるものです。
言い換えれば、使うあてがない経済主体の金融資産を国家が代わりに使ってしまうものです。
政府のそうした消費のおかげで、売り上げを拡大したり、給与を受け取ったり、土地を売って金融資産を増やす人などがいることが重要であり、それが“使ってしまった”ということを意味します。
歳出で金融資産を増やす人がいるのですから、国債による歳出が消費ではないという主張は、100万円の束が200万円の束だと主張するようなものです。
そのように考えないことが、数多くの子会社をつくってありもしない厖大な資産を計上した「エンロン詐欺」やグローバルスタンダートと崇める米国会計基準のデタラメさを許しているとも言えます。
ここで問題になるのは、使ってしまったお金を返すことができるのかということです。
結論を先に言うと、預かって保管していたお金を返すことはできますが、使ってしまったお金を返すことはできません。
使ってしまったお金を返すことはマジシャンでも無理であり、錬金術師や真正の超能力者のみができることです。
この視点が抜け落ちると、国債問題をはじめとして経済の動きが見えなくなります。
では、借り換え債分の70兆円とは何なのでしょうか?
この70兆円は、新規分のような“金融資産の消費”ではなく、“金融資産の移転”として捉えられるべきものです。
すなわち、国債の利払いと償還は、株式や土地で得る利益と同じようなものとして考えなければならないということです。
政府債務が増大し借り換え分の国債発行が増えるということは、株価や地価が上昇していくことに似た経済現象です。
利子・借り換え分の70兆円が現金資産で引き受けられることで、かつての引き受け手が国債という形態で保有している国債金融資産に対して約束の利息が支払われたり、保有している国債が償還により元の現金資産形態に変わります。
しかし、日本国債の実態を冷静に考えれば、新たな借り換え国債の引き受け手と利払いを受けたり償還される国債の保有者はほぼ同じ経済主体です。
マクロ的には、保有されていた国債という金融資産が現金という金融資産の保有に変わったということを意味します。そして、新たに保有する国債については、保有していた現金という金融資産が国債という金融資産に変わったということになります。
日本国債のほとんどが、銀行・資金運用部・生保を中心とした機関投資家によって引き受けられています。
これは、預金・貯金・保険料といった金融資産が国債を引き受けていることを意味します。
新規分国債で預金・貯金・保険料の一部を政府が消費し、利払いや償還の期限が来たら、借り換え国債を預金・貯金・保険料の一部で引き受けることで、古い国債の償還や利払いを受け、元の預金・貯金・保険料の一部に戻るようにしているということです。
先ほど「使ってしまったお金を返すことはできない」と書いたように、財政赤字を埋めるために発行した新規分は使ってしまったものですから、預金・貯金・保険料の一部はなくなっています。
財政赤字が累積で300兆円であれば、たとえ、預金・貯金・保険料のマクロ的な残高数字は変わっていないとしても、そのうちの300兆円分は既に消費されてなくなっているのです。
借り換え国債分は、同じ預金・貯金・保険料の器のなかの話になるのでピンとこないかもしれませんが、預金・貯金・保険料全体の30%が借り換え国債の引き受けに使われているとしたら、30%は過去の預金者・貯金者・保険料支払い者のために金融資産が移転したことになります。
全員が預貯金を引き出したり保険を解約する(保険金を受け取る)わけではないので、問題は表面化していませんが、預貯金の引き出しや保険の解約が徐々にでも進んでいけば、この問題が表面化します。
どういう問題かといえば、株式や土地と同じで、誰がババを掴まずに済み、誰がババを掴むのかということであり、「バブル崩壊」のように、一気に多くの人がババを掴む事態が発生すると日本経済全体がとんでもない状況に陥ることです。
(ババを掴む人を出さないまま、日本経済全体をとんでもない状況に陥れることもあります)
株式市場や不動産市場も、それらに流入する資金が増大しているあいだは多くの人が自覚しませんが、流入する資金が減少に転じると価格が下落し始め、問題が自覚されるようになるのと同じように、国債発行額と預金・貯金・保険料といった金融資産の余裕額とのバランスが狂うようになれば、「国債問題」が表面化します。
「金融資産の消費」と「金融資産の移転」による国債のやりくりというサイクルを維持しやすい条件は、実質給与の上昇とインフレを伴う経済成長が継続していることです。
国債利子率とインフレ率が同じであれば、利子と償還で価値的には同額の金融資産を移転すれば済みます。
実質給与が上昇していれば価値的な税収も増大し、インフレのなかで税制変更を遅らせばそれによっても税収が増大させることができます。
また、経済成長と実質給与が上昇することで、預金・貯金・保険料も増大しますので、金融資産の余裕額も増大します。
赤字国債の発行で財政支出を増やし、実質給与の上昇とインフレを伴う経済成長を実現していけるのなら、“国債のサイクル”を破綻させないで続けることができます。
現状の日本経済は、“国債のサイクル”が破綻しないようなものでしょうか?
実質給与は減少しています。
デフレが続いています。
経済成長はマイナスです。
デフレのなかでも国債には1.5%程度の利子が付いていますから、実質価値としては、利子と償還でより多くの金融資産を移転させなければなりません。
実質給与がデフレ率以上に下降しているので実質価値での税収も減少します。
また、経済成長がマイナスで実質給与も下降しているので、預金・貯金・保険料もそれほど増大しないため、金融資産の余裕額もそれほど増えません。
そして、失業者の増大や大幅な円安などであるターニングポイントを迎えると、金融資産が減少することになります。
(将来への不安や企業の投資が不調などの理由で貯蓄は増大していますが、インフレ時と違って、それは、消費(需要)を削って達成されるものですから、経済成長を下押しすることになります。その結果、さらに失業者が増え、貯蓄も、増大ではなく減少するようになります。円安で原材料や製品の価格が上昇すれば、同じ規模の生産や販売を行うためにより多くの資金を使わなければならないので、企業の貯蓄が減少します)
“金融資産の移転”で「国債のサイクル」が維持できなくなったとき、政府が実行できる手段はいくつかに限られます。
米国債のように過半数が外国の投資家によって買われていれば、米国政府が「対外債務のデフォルト」を行うことで米国経済への衝撃を“少々”緩和することもできますが、日本国債の場合は、95%が国内投資家(前述の内容)に保有されていますから、利払いのデフォルトはあっても償還までしないデフォルトは行われないと見ます。
いくつかの対応策を考えてみます。
● 日銀が国債を引き受ける
これは、表立ってそうなったとは説明されないでしょう。
なぜなら、今現在も、実質的に日銀引き受けといえるかたちで国債を消化しているからです。
日銀が商業銀行にじゃぶじゃぶ日銀券を貸し出し、商業銀行は、その日銀券で国債を引き受け、日銀券が必要であれば国債を日銀に売るという取り引きが行われています。
現在のところは、この手法が商業銀行の資産構成“改善”のために使われていますが、商業銀行が国債を引き受けられなくなったときにも“応用”できるものです。
日銀の月間国債買い切り額を1兆円から5兆円に増やせば、60兆円の“余力”が生じます。
この手法は、政府債務の増大とともに、否応なく日銀の月間国債買い切り額を増やしていくことになります。
これは、生産的な資金需要という価値的な裏付けのない日銀券が大増発されることを意味しますから、日銀当座残高が異様に膨らまない限り、ハイパーインフレをもたらすことになります。
利払いや償還にのみこの手法が使われればまだ“救い”がありますが、財政赤字を補うためにこの手法が使われれば、実体経済に生産的な価値の裏付けがない日銀券が出回ることになり、ハイパーインフレに結びついていくことになります。
(他の対処策も併用されると思いますが、これがもっとも可能性のある対処策だと思っています。失業者の増大→所得税や各種保険料の減収が進むなかで、生活保護受給者の増大・年金受給者の増大に対応するための財政赤字が膨らみ、ハイパーインフレへの道を歩み始めると考えています)
● 増税を行う
増税で対処しようとして起きる問題は、増税すなわち増収ではないということです。
所得税にしろ、法人税にしろ、増税することでさらに不況を悪化させる可能性が高いのです。所得税の場合であれば、全所得階層に増税を行えば、間違いなく不況が深化します。そうなれば、失業者が増大するので、所得税収が増えるどころか減ることも考えられます。
企業も、利益が減少したり赤字になったりするので、法人税も増えるとは限りません。
増税をしたことで、経済をさらに悪化させるのみならず、税収まで減らしてしまう可能性が高いのです。
唯一意味のある増税は金融資産課税です。
一定額以上の預金・株式・土地などに対する課税を強化すれば、株価や地価は下落しますが、実体経済にそれほど打撃を与えないで歳入増をはかることができます。
しかし、国債は預金などの金融資産の余裕部分に依存しているので、その余裕額が減少することで影響を受けます。
増収になるかどうかは別として、増税策は採られると思います。
● 財政赤字をなくして新規国債発行を0にする
これは選択できる対処策ですが、それまで30兆円の財政赤字があったとすると、その分の歳出が減ることになるので、やはり経済が悪化します。
それは、上述のように歳入減少につながるので、経済がどんどん縮小していくことになります。
このようなことから、財政赤字を減らすことはあっても、0にする政策は採られないと思います。
● 借り換え国債の引き受けが足りなければ利払いのデフォルトを行う
その時点で700兆円の政府債務があり、国債の平均金利が3%だとすれば、21兆円の歳出を“節約”することができます。
まじめに考えれば、違うかたちで採られるべき政策だと思います。
5年を超える前に発行された国債には高い利子が支払われていますから、それを現状の低金利国債と“差し替える”べきです。
銀行は、このデフレ時代でも、かつて高金利で貸し付けたものから厖大な利子を得ながら、赤字を出しているのです。
銀行保護を第一と考えている政府は、このような政策を採らないのではと思っています。
● IMFから特別融資を受ける
財政・金融の主権喪失につながるこの働きかけも行われる可能性があると思います。
IMFの特別融資を受けることで、これまで書いた“対処策”の自立的な決定はできなくなります。
● 戦後の「新円切り換え」のような手段で政府債務を部分的に切り捨てる
「新円切り換え」は戦時国債の切り捨てとハイパーインフレの鎮静を目的としたものですが、敗戦でボロボロになった状況で通用したことが、悪化しているとは言え、世界第2位のGDP規模を誇る近未来の日本に適用できるのかという問題が提起できます。
敗戦から半年後に行われた「新円切り換え」は、経済的にはどん底から這い上がろうとしつつハイパーインフレに苦しんでいた状況で行われました。心理的にも、戦争が終わり平和を迎えたことで国民の多くがそれなりの希望を抱いていた時点に行われたものです。
繁栄から「バブル崩壊」を経てもがき続けているとは言え、日本経済は、多くの人が今日明日をどうしのぐかを考えるようなどん底にはありません。
そして、インフレではなくデフレに苦しんでいます。
さらに、ここをしのげば明日に希望が持てるという状況でもありません。
政府にとっては債務切り捨てという側面で誘惑に駆られる政策で、現実としても検討している政策だと思いますが、国民(経済主体)にとって資産切り捨てと通貨量の縮小につながるこの政策は、経済的にさらなる悪化をもたらすものであり、政治的にも受け入れられないものだと思います。
何よりも、銀行救済を第一に考えている政府が、敗戦後の混乱期ならいざ知らず、大量の国債保有者である銀行にも打撃を与えるような政策は採らないと考えています。
※ 国債と銀行貸し出しの類似点
「国債のサイクル」問題は、銀行の預金と貸し出しの問題にも通じるものです。
銀行の貸し出しは、預金者の金融資産を第三者に“消費”させるものです。
(自己資本率が8%だとすると、雑ぱくに言って、銀行は自己資本の12倍もの貸し出しができます。そして、自己資本以外の原資は預金です)
話が簡単になるように、第三者は“土地投機”で融資を受けたとします。
第三者が貸し出しを受けたお金を土地購入で消費し、返済期限までに貸し出しを受けた金額+利息以上でその土地を売却できれば、お金が銀行に戻ってきます。
第三者は、ババを掴まずに土地を媒介にして別の人の金融資産を移転してもらったことになります。
しかし、返済期限までに貸し出しを受けた金額+利息以上でその土地を売却できなければ、返済が不能になります。
銀行貸し出しも、国債と同じく、“金融資産の消費”と“金融資産の移転”がスムーズに行われているあいだはうまくいくものです。
「国債のサイクル」がうまくいかない経済状況では、「銀行のサイクル」もうまくいかないのです。
[対応策の提言]
政府は、「バブル崩壊」後にもう少ししたら地価も株価も上がるのでは夢見るだけで何ら有効な政策を打ち出さす、10年にもわたる大不況を続けてきたように、政府債務=国債問題も、もう少しで景気が良くなりデフレも解消されるのではと夢見るだけで、まともな対応策を採っていません。
「不良債権処理」や「活力ある税制改革」はさらに“デフレ不況”を悪化させるものであり、同時に政府債務問題をさらに悪化させるものです。
貿易収支黒字(経常収支黒字)の段階で合理的な経済・金融政策を採って経済を立て直さなければ、政府債務問題も、書いたような結末を迎えることになります。
何度か書きましたが、経済の立て直しに着手するために残された時間は、1,2年ほどしかないと思っています。
経済の立て直しは、新規分の国債増発を伴わないものでなければなりません。
● 「低中所得者減税」と「高所得者増税」がセットの所得税制変更
低中所得者は消費税で実質増税になる標準家庭で年収800万円未満
● 「雇用」と「投資」を促進する法人税制の導入
雇用(支払い給与増加)や設備投資を行うと現在よりも減税になる税制
逆に、利益のみを拡大した企業は増税になる。
● 株価と地価の下支え政策の放棄
株式も土地(不動産)も、経済論理で想定される価格を下回れば自然に反転する。
このような動きを政策的に抑え込んでいることで、「デフレ不況」が長引いている。
愚かな政策のために、年金資金や郵便貯金など公的な資金を株式市場に投入して、それらを目減りさせている。
● 公定歩合の緩やかな引き上げ
低金利=物価上昇促進・高金利=物価上昇抑制という誤った経済理論から脱却し、公定歩合を2%程度まで徐々に引き上げることで、「低中所得者減税」と相俟ってデフレ状況を解消できる。
● 工場の海外移転を抑える
国難にある日本国の首相は、経済団体や大手企業に土下座してでも、工場の海外移転を抑えなければならない。
これからの政策を“時限”でもいいから実施すべきである。
これからの政策が銀行に及ぼす打撃に対しては、用意している15兆円+α(5兆円くらい)を利用する。これは、基本的に、金利上昇に伴う国債価格下落問題に対応する。
このまま「デフレ不況」が続けば、新たな「不良債権」が発生し、不況脱出の切り札と考えられている「不良債権処理」もモグラ叩きになるだけである。
「不良債権処理」は、景気の回復によって「通常債権」になるというのが、唯一かつ最も効率的な処理方法である。
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※ 政策に関する参考書き込み
1)総体的なもの
『ささやかながら少しはましな経済状況を』
http://www.asyura.com/sora/dispute1/msg/119.html
『「不良債権問題」と金融政策』
http://www.asyura.com/sora/dispute1/msg/135.html
『Re:政府はデフレ解消を願っているが政策はデフレを進めるものばかり』
http://www.asyura.com/sora/dispute1/msg/154.html
2)資産デフレ問題
『デフレの論理と「資産デフレ」罪悪説の問題点』
http://www.asyura.com/2002/bd17/msg/216.html
『「資産デフレ」の問題点と「不良債権」罪悪説』
http://www.asyura.com/2002/bd17/msg/217.html
3)株価買い支え政策の問題点
『Re:「公的年金基金」と「株式投資」− PKO政策は地獄への道 −』
http://www.asyura.com/2002/hasan7/msg/966.html
4)公定歩合引き上げ
『【大間違いの経済理論】 “超低金利政策”はデフレを悪化させる 《金利引き上げがインフレを誘発し「デフレ不況」から脱却するための一つ方法》』
http://www.asyura.com/sora/dispute1/msg/302.html
『Re: 2chの「★阿修羅♪ 国家破産について語ろう」』
http://www.asyura.com/sora/dispute1/msg/336.html
『原油価格の高騰は「デフレ不況」に悩む日本経済の“神風”になるか』
http://www.asyura.com/2002/hasan8/msg/955.html
『米国金利の反転と原油価格(ロスチャイルド投資顧問レポート2002/03/13)』
http://www.asyura.com/2002/hasan8/msg/145.html