(回答先: Re: レス1:論議の経緯を踏まえてください 投稿者 596 日時 2002 年 4 月 21 日 23:00:25)
『普通の人のための経済学』というサイトに「英国を見習おう」(英国の良い点/悪い点)というコラムがあります。
市場原理主義国家が行き着く先はどのような社会なのでしょうか。それはあなたが理想とする国家象と一致するものなのでしょうか。
作者の英国滞在経験から見たレポートはなかなか興味深いものがあります。一度、お読みください。
⇒http://www1.sphere.ne.jp/curio/economic/england.htm
普通の人のための経済学
わかりにくい経済問題も、普通の頭で考えればこんなに簡単?!
最終更新日 = 99年1月30日
--------------------------------------------------------------------------------
<特別編>英国を見習おう
--------------------------------------------------------------------------------
英国に住み始めてまだ半年しか経っていないので、本当の英国が理解出来ているとは言えないが、逆に日本の記憶もまだ薄れていないので日本との比較がしやすい点もあるだろう。英国に住み慣れてしまって英国の暮らしが当たり前に感じる前に、日本人として不思議に感じたこと、日本にも導入したら面白そうなこと、またその逆に日本は見習って欲しくないこと、等などをまとめていきたい。
但し、英国とは言ってもあくまでロンドン周辺のことであり、必ずしも英国全体で共通ではない点もあるし、また英国とは言っても英国人のことではなく、ロンドン居住者のことに過ぎないこともあるのでご留意いただきたい。
(補足:英国から帰国後に訂正や注意書きを加えた部分は青字で加えてあります。)
--------------------------------------------------------------------------------
英国の良い点
【キュー】
行列のこと。英国人はよく列を作るし、その順番をきっちり守ろうとすると言われる。それはその通りで、スーパーのレジでも駅の切符売場でも、トイレでも、ちゃんと列を作って待っている。エスカレーターでも右側に寄って立ち、必ず左側は急ぐ人用に空けている。それはどんなに混んでいるときでも守られていて、エスカレーターで左側に立つ人は明らかに外国人だけである。但し、この原則は地下鉄のホームで電車を待つ場合には当てはまらない。皆ホームの先端に立ち、ドアが自分の近くにあれば他人を押しのけて先に乗る。
【美術館・博物館】
国立の主要な美術館や博物館は今のところ無料で見られる。だから昼休みにナショナル・ギャラリーに行って自分の好きな絵を幾つかだけ見て帰ってくるなんてことが気軽にできる。実際に2年間で2-300回は絵を見に行ったなんていう人もいる。しかもそれが、決して2級品ではないのだから素晴らしい。但し、無料なのは国立美術館・博物館の一部だけであって、企画展をやっている場合は無料でなくなることもあるし、私立の美術館の入場料は結構高かったりする。また財政的な負担が問題になりつつあるので、今後は有料化しようという動きもあり、いつまで維持出来るかはわからない。
【公園】
ロンドンは空気のきれいな街ではない。排ガス規制も日本より緩いらしく、幹線道路の近くでは息が詰まりそうだ。ロンドンでは意外と自転車を見かけないが、その理由は自転車専用道がなくて車道を自動車と対等に走らなければならないこともあるが、もう一つの理由は空気が悪いからであろう。防毒マスクのようなものをつけて走るサイクリストもいる。しかし公園があるのが救いだ。街の結構至る所に大きな公園があり、木々が繁っていて季節の草花がきれいに植えられていることが多い。そこには鳩や鴨等の鳥の他にリスがいたりと、身近に自然が感じられる。
【街路】
ロンドンの道は結構入り組んでいて、また一方通行があったりと、車を乗るのには必ずしも便利とは言えない気がする。しかし、住所のつきかたには一定のルールがあるので、それを覚えてしまうと意外に目的地には辿り着きやすい。また、そこかしこに並木道があり、街燈に花篭が掛けられていたりと意外に風情のある道も少なくない。最近は街路を掃除する人もいるので、昔ほどは汚くなくなっているようだ。
【ブラック・キャブ】
ロンドン名物の一つの黒い箱型タクシー(注:最近は黒くないタクシーも多くなってきたが、今でも一般的にはタクシーをブラック・キャブと呼んでいる)。住所を教えると略間違いなくしかも最短経路で目的地に連れて行ってくれる(注:残念ながら一部には観光客と思うとわざと遠回りしたりする運転手もいる)。タクシー運転手になるための試験も難しいらしく、誇り高い職人さんなのだ。しかも意外に料金は安く、ロンドン市内を移動する分には10ポンドかかることはまずない。この他にミニキャブと呼ばれるハイヤーっぽいタクシーや時に白タクも登場するが、こちらは料金は交渉次第で、運転手もピンからキリだ。中には刑務所上がりという人もいるとのことで、知らないミニキャブ等は利用しないに超したことはない。
【楽観的】
景気が良いせいもあるだろう。しかし彼らは自分の生活に関しては概して楽観的だ。会社は終身雇用の場ではないと考えているので、会社に対する忠誠心には欠ける面があるが、逆に自分の職業に対する意識は高い。自分の職能さえ確立出来ていると思えば(通常はそう思っている)、安心してバカンスのことを考えられるというものだ。
【コスモポリタン】
一時期日本も国際化したと言われたが、英国の比較にもならない。特にロンドン市内には英国人があまり住んでいないこともあって、外国人比率はものすごいし、ラテン系、ゲルマン系といった欧州大陸諸国人は言うに及ばず、インド系、アフリカ系、アラブ系の人々もかなり多く、見かける人種も幅広い。だから、電車の中で両隣の人々が話す言語が英語以外であることは当然のように起こるし、実際そうした英語以外の言語が話されていても何の違和感もない。日本人とか東洋人もかなりよく見かける。だから普段私達が生活していても特別な眼で見られることは少ないような気がする。決して排他的ではないので、そうした意味で外国人が住みやすい街と言えるかもしれない。但し、私達の眼から見てもロンドンで生活している人と観光に来ている人の区別がつくぐらいなので、旅行者に対する犯罪者の視線には気をつけた方がいいだろう。
【雇用対策】
英国の失業率は約5%と日本と変わらなくなってきているが、雇用の中には最低賃金に近い人々がかなり多く含まれている。そうした点でこの好景気でも必ずしも皆が裕福ということではない。しかしながら、失業したからと言って失業給付を喜んで受け取る大陸諸国とは違って、英国は最低賃金で雇用してでも働くことで生計を立てるように促し、労働に対するモラルの低下及び治安の悪化を防いでいる面がある。例えば市役所は街路を清掃する人や、公園の水遣りをする人など、様々なところで人を雇用している。また駅前でよく雑誌を売っている人を見かけるが、これは職に困った人に日銭を稼がせるために雑誌を安く供給してあげているということらしい。
【学習意欲】
勤務時間が一定していて自分の時間が確保されていることもあるのだろうが、英国人の学習意欲は素晴らしい。大学院やMBAといった直接学歴に影響するものだけでなく、プレゼンテーション能力向上のコースやら、第二・第三外国語のコース、あるいはパソコンのコースといったありとあらゆるセミナーに積極的に参加しようとしている。これらは自分に対する投資であるが、教養や趣味としての音楽を鑑賞するコースや美術館で解説を聞くコースとか、DIYや料理のコースなど、そうしたカルチャー・センター的なものも一般的だ。そうした意欲は熟年、壮年層でも衰えないらしいところが素晴らしい。
【骨董品】
近年日本でも人気のテレビ番組「アンティーク・ロードショー」を思い出すこともなく、英国は骨董品を非常に大事にする国である。ちょっとした街には必ず骨董品屋があるが、骨董品とは言っても必ずしも単なる飾りではなく、実用的な家具として使われるものも含まれているので古道具屋とでもいった方がいいのかもしれない。親子何代にも渡って引き継がれるこうした物がまさしく「遺産」であって、彼らが長年に渡って築き上げてきた「資産」なのだ。ある人の定義によると、「資産家とは家具を自分で買わない人」だそうだ。先祖代代の家具がなくて、自分で買った人は単なる成り金なのだそうだ。そう言えば、英国の一般住宅は収納が少ないが、これはこれで必要十分なのだそうだ。と言うのも、少ないものを使えなくなるまで徹底的に使い、また不要になった物は古道具屋に渡すので家の中には物が少ないのだそうだ。
【日本より安い物】
今の為替レートで日本より安く買える物を見つけるのは至難の技だが、幾つかは存在する。一つは写真フレームだ。家族の写真を家に飾る習慣があるからだろうか、値段的には3ポンドくらいからあってピンキリだが、種類は豊富だ。(補足:日本帰国後に雑貨屋を覗いていたら、日本でもなかなかセンスのいいものが安い値段で手に入るようになったようだ。)日本では行政的に保護されている保険関連もこちらは規制が緩いので種類が多くて安い。例えば海外旅行保険は1年間有効で50ポンドくらいからある。食品の中ではワインが安い。もちろんフランスとかイタリアの方がより安いのだが、日本よりは低価格ワインが豊富にあり、テーブルワインなら3ポンド程度から、少し高級品でも5-6ポンドから見つけられるし、レストランで頼んでも普通のものなら10-15ポンドで済む。但しスコッチ・ウィスキーは日本のディスカウンターより高いし、シャンパン等のブランド物は安くない。
【おいしい食事】
昨今の英国ブームの中で、英国の食事が美味しくなったという話が言われていたが、それはやっぱりかなり限定的な気がする。一般の英国人がする食事はまだかなりワンパターンで美味しくもない。外食もイタリアンや中華、インディアン等はそこそこの店もあるが、安くはないので毎日食べることはできないし、恐らく本場に比べたらやっぱり美味しくないだろう。そんな中で敢えて比較的美味しい英国料理を上げるとすれば、私はポテトを薦めたい。ジャケット・ポテトという蒸かしたジャガイモにチーズやら好きなものを詰めたり挟んだりする単純なものだが、これはポテトの味が活きていて素朴に美味しい。また、こちらの人の大好きなクリスプス(ポテト・チップス)も色々なフレーバーがあって、我が家は夫婦ともにウォーカーズ社のチーズ&オニオン・フレーバーに中毒となっている。
--------------------------------------------------------------------------------
英国の悪い点
【物価】
言うまでもなく、物価高は英国の頭の痛い問題だ。かつては日本の物価が問題になったが、今の為替レート(約230円)では英国の方が高いと言える。殊に日本人が望むような品質のものは英国では数少なく、かなり割高だ。大凡の感覚で言うとマクドナルドは日本で500円以下のバリューセットが、英国では650円くらい(スイスだと900円くらい)。自動車は最低装備のリッターカーが150万円くらいからで、日本の1.5倍から2倍。パソコンやらカメラやらの精密機械の値段は約2倍。日本に比べて安いのはジャガイモ等の基礎食料品、ワイン(1本500円くらいから)、海外航空券(パリ往復2万円弱)くらいだろうか。それでもなお、好景気で物価は着実に上がり続けている。特に公共交通機関や家賃の上昇は年間10%近い。(先日の調査では英国は西洋諸国中物価が一番高く、スーパーの食料品価格は米国の40%以上だということだった。一般に1ドル=1ポンドぐらいが最も感覚的に合うと言われているので、今の為替レートはドルに対して60-70%高いことになる。)(注:各通貨の換算レートは全て記述時のものを利用。1ポンド=約230円。)
【治安】
近年の好景気は治安面で貢献している。それにアメリカ等とも違って銃を使った凶悪犯罪も決して多くはない。しかしながら、それでもかっぱらいや泥棒は多い。だから街角では決して目立たないような地味な服装が好まれ、指輪やネックレス、高級時計等も身につけないようにする。当然現金は小額しか持たず、カードの類には盗難保険を掛けておかなければならない。家の扉は二重三重に鍵を掛け、不法侵入された場合に近所や警察に知らせるアラームが年中どこかで鳴っている。車にもこうしたアラームがつけられている。車のウインドウを壊して中のラジオ等を盗むのも当たり前なので、自動車保険でも窓ガラスの交換は年に数回まで無料という契約が一般的で、窓ガラスをすぐに交換してくれる専門業者もある。性的犯罪に巻き込まれる女性も多いので、夜間は決して電車やバスには乗らないという女性もいる。バス停から自宅までのわずかな距離でも狙われることがままあるのだと言う。特に日本人は金持ちなのにその辺の認識が甘く、しかも犯罪をしても訴えられないと言うので格好の標的になっている。
【天候】
霧のロンドンと言えば聞こえがいい。実際は「一日の中に全ての天気がある。」と言うように、目まぐるしく天候が変り、晴れたかと思うと曇ってきて雨が降り、また止むといった繰り返しで、すっきりと晴れる日は少ない。また昼時間の短さ(太陽は朝9時頃から夕方3時頃までしか出ない)と曇天が重なるので冬は本当に陰うつな雰囲気になる。もっともこればかりは直しようがない。慣れてしまえばこんなものかとも思う。だからこそ英国人が太陽を愛し、夏のアウトドアを精一杯楽しもうとするのだろうと理解できる気がする。
【水回り】
昔からよく言われているが、水回りは最低だ。建物が何百年も前のものだったりするから仕方がないといえば仕方がないが、何年か住んでいると水漏れの一回や二回は覚悟すべきなようだ。我が家は大怪我に至っていないが、半年のうちに、上の階からチョロチョロと水が落ちてきたのが一回、下の階から水漏れの苦情を受けたのが一回、ラジエターの水漏れが一ヶ所(未だに直っていない)といった感じだ。でも水を使う場所のタイルがいい加減だし、やっぱりシャワーの水が周囲に飛び散ることもあるから、少しづつ床下が腐っていくのも仕方ない気がする。
【街の汚れ】
ロンドンはかつてに比べてかなり綺麗になったと言われている。確かに朝早くから自治体の清掃員が掃除をしていたりする。しかしながら、マナーの悪さには追いつかず、夕方の街を歩くと至る所ゴミ屑が散乱している。日本人と同様に歩きタバコをして投げ捨てたり、空缶をポイ捨てする輩が多いし、こちらでは犬の糞もやりっぱなしだ(注:こちらではゴミを落とすと清掃人の雇用が増えるので社会のためにもなっていると考えているようだ)。加えて空気の汚染もひどい。もともとスモッグで知られたロンドンではあるが、排ガス規制の弱さと渋滞が輪をかけている。地下鉄は昔の蒸気機関車時代の遺物だろうか、壁面が真っ黒で息がつまりそうだ。
【マナー】
よく欧米人は肩が擦れ合っただけで「Excuse me.」と謝ると言われるが、それは嘘だ。地下鉄での混雑は結構日本並みであるが、英国人は自分から他人のために詰めてあげようとか、出入りしやすいように道を開けてあげようなどとはしないので、ドアの近くはぎゅう詰め状態だ。そんなところでいちいち謝っている人はいない。ついでに列車内のマナーもひどく、脚を組むのは当然だし、対面式のシートで反対側の席に靴のまま足を載せるのも当たり前だ。地下鉄などはそこら中にゴミが散らかっているので大変汚い。最もこれでも近年改善されているらしいから、昔のすごさが偲ばれる。
【It's not my fault.】
英国人の基本は決して簡単に謝らないということだ。謝ると、その途端に100%が自分の責任になって賠償問題が襲ってくるので簡単には謝れないという理由もある。自動車事故がその典型だ。そのせいだろうか、一般の生活でも決して謝らない。例えばレストランでお客のスーツにソースをこぼしても一言もお詫びを言わない。せいぜい「Are you OK?」ぐらいなものだ。OKなはずはない。こちらが怒涛の文句を言って初めて謝るのである。あるいは、商品とか会社の対応に文句を言った場合には、「It's not my fault.」とくる。日本だと会社の同僚の誰かが犯した間違いは会社全体の責任として他の人でもキチンと対応してくれる。だが、英国では間違いを犯したのは自分ではないからと言って、何もしてくれないことも多い。一流企業の中には社員教育をするところもあるようだが、先日4大銀行でもこう言われた。
【サービス】
英国ではサービス料という概念がはっきりと確立されている。だから、人手がかかるものは全てかなり高い料金となってしまう。例えば食料品をスーパーで買えば大した金額ではないが、外食すればどんな軽食でも一人5ポンド(1000円強)以上してしまう。家の修理でも人を呼べば大変高い。しかもその人達は呼んでも決してすぐには来てくれないし、いい加減な作業しかしないことも多い。(おかげで我が家の暖房のラジエターは半年経ってもまだ直っていない。)これに対する対策は、とにかく大声で何度も叫ぶことと、自分で修理することの二つしかない。だから英国ではDIY(日曜大工)は一般人の必修項目だ。
【接客態度】
全てをいっしょくたにし過ぎるのは問題があるので少し限定をつけた方がいいかもしれないが、ロンドンの小売店やレストランの接客態度は概して非常に悪い。特に雇われている若い人の態度が悪いことが多い。物を売ってやるという態度が強く、特に閉店間際に買物に迷っていようものなら、「買わなくていいから早く帰れ」といった態度が鮮明になることもままある。笑顔を期待してはいけないし、丁寧に物を渡してくれると考えてもいけない。ムスッとしたまま、投げつけるように物を渡す店員も決して少なくない。最近は日本の若い店員もこうなりつつあるが、マニュアルの徹底したマクドナルドならばスマイルが期待出来るだろう。でもロンドンではマクドナルドでさえそうはいかない。但し、これがスコットランド等に行こうものなら、とっても顧客フレンドリーになるから、やはり英国は一つではないと感じる。
【食事】
昔から英国料理はまずいことで有名だが、近年日本では見直しの機運がある。確かに好景気で欧州大陸から若手シェフがロンドンに来ており、イタリア料理やフランス料理等は味が改善しているとも言われる。しかし一方で、一定の水準の料理を食べるには高い代金が必要で、高いお金を出したからといって必ずしも美味しいものに当たらないというのも悩ましいところだ。さらに悩ましいのは内食で、日本人好みの味にするには材料がなかなか手に入らない。特に魚は種類が極めて限定的(基本はタラ、マス、サケ)で味のバリエーションができない。肉も牛肉を食べないことにすると種類が限られるし、薄切り肉がないので苦労する。日本食品スーパーもあるが、価格は日本の約3倍するので多用すると生活苦に陥る。但しお米はコシヒカリ等のカルフォルニア米が輸入されていて値段的には日本と殆ど変わらない。
【交通渋滞】
ロンドンでは交通渋滞が慢性的な問題になっており大気汚染もひどいため、車の保有コストを高めようとしたり(車の価格は日本の1.5倍以上だし、ガソリンも1.5倍以上する)、ロンドン市内への車の乗り入れを制限しようという案も出ている。だが、公共の交通機関を使おうにも、交通費は自家用車の二倍近くかかるし、年中止まったり時間も不正確だし、子供を一人で登校させてはいけない法律があるし、女性が公共機関で外出するのは危険も多くて問題が多い。公共機関の整備には莫大な費用がかかってまた料金が上がってしまうという悪循環にあるので、いつまで経っても問題は解決しない。
【駐車場不足】
英国では駐車場の絶対数が足りない。ロンドン等では普通の家に駐車場はなく、路上駐車が一般的だ。通常は自分の家の近くに路上駐車する権利を自治体から買う(年間2万円くらい)のだが、道路にはほとんど隙間が残っていない。それに外出先では駐車権もないので、一時的に駐車出来る場所を見つけるのが大変だ。そうした駐車に関する取り決めは厳密で、警察に委託された民間の駐車違反摘発会社(クランパー=輪留めをする人と呼ばれている)が真面目に仕事をしているために、あっと言う間に駐車違反で捕まることになる。テレビでは「クランパー」というこの摘発会社と摘発された人の紛争状況を伝えるドキュメント番組も放送されているほどだ。
【地下鉄】
要するにインフラストラクチャーが古いせいなのだろうが、地下鉄は狭く汚く、快適ではない。別名チューブと呼ばれるように小さな筒型のトンネルしか掘れなかったので必然的に電車は小さく、背の高い英国人は頭をかがめて乗っている。また、かつて蒸気機関車が走っていたせいかトンネルは真っ黒で、汚い話で恐縮だが、地下鉄に乗った後に鼻をかむと鼻水が真っ黒になるときがある。言うまでもなく、今後補修工事が必要なので費用を賄うために料金は高く、初乗り1.3ポンド(約300円)。しかも毎年必ず値上げされる。それから、列車や信号、発電設備等あらゆるものが故障する上に、テロによる爆弾予告だとかストだとかでよく列車が遅れたり完全に運休したりする。全く当てにならない。(補足:英国を弁護してあげると、最近は日本の鉄道もかなり当てにならない。悪名高いJR中央線は帰国後1ヶ月の間に3回の人身事故と2回の故障を起こして大幅な遅延を起こしている。)
【ダブル・デッカー】
ロンドン名物二階建てバス。観光客の憧れではあるかもしれないし、地下鉄よりは若干料金が安いこともあって、庶民の貴重な足でもある。しかしながら、概して運転は荒く、乗り心地は良くない。老人が乗っても座る前に構わずに出発するので、老人が怪我しないのが大変不思議。
【バリアフリー対策】
かつて福祉の国と言われた英国も今では小さな政府になってしまった。というよりもやはりロンドンのインフラストラクチャーが古いせいだろう。老人には大変厳しい環境が待ち受けている。デコボコの街路や公共交通機関は車椅子や老人には大変使いにくい。家の中の様々な設備も便利ではない。この面では歴史の浅いカナダの方がはるかに進んだ社会と言える。英国では盲人が歩く姿をあまり見かけないが、車の運転が乱暴な上に、道が整備されていないので、盲人が一人で道路を無事に渡れるのは奇跡に近い。
【電気製品】
英国の電気製品は概して壊れやすい。逸話としては、日本人が洗濯機が壊れたといって大家に苦情を言ったら、「毎日使うから壊れるんだ」と逆に怒られたとか。日本では当たり前のことをやってもこちらの機械では耐久性が足りないのだ。大きさもとても大きく重い。上述の洗濯機は1メートル四方くらいの大きさがあるが、シーツを一つ入れるといっぱいで、一回に二人家族の一日分の洗濯物を洗うのがやっとだ。また、掃除機は20年くらい前の日本の掃除機のような、角張っていて重く取り回しが悪いくせに吸い込む力も弱いものが現役だ。
【電流】
英国の電気は220Vで、日本より電圧が高い。そのせいだろうか、電気湯沸かし器などもあっという間に沸騰する。しかし、電気工事がいい加減なせいだろうかスイッチボードが帯電することも多い。また、電流が安定していないのかもしれないが、過電流が流れて電球が切れるようなケースも多い。一般に電球の寿命はかなり短く、3ヶ月-6ヶ月で突然切れる。(例えば我が家のシャンデリアは60W電球が5つ付いているが、半年で既に全ての電球を替え終った。電流を安定させるためには、各自の家で整流器をつけることが必須かもしれない。(パソコンにはかなり不安。)
【文房具】
英国はなぜか文房具が貧困で値段も高い。例えばセロハン・テープ。こちらでは一巻150円以上するが、しかもヘロヘロで、糊が手にへばりつく。輪ゴムもすぐ切れる。大学ノートみたいなものは200円以上する。(一般に紙製品は特に高い。ティッシュ・ペーパーは1箱150枚入りで安売り時に150円くらい。トイレット・ペーパーは4巻500円弱。)だが、それだけに持っている文房具でその人の身分が分かるとも言われていて、上流階級は日本で言う100円シャーペンやボールペンを人前では使わないそうだ。
【保険】
欧米、ことに英米は法律社会であるので、契約に際しては分厚くてよくわからない契約書を隅から隅まで読むことが肝要だ。そこに書いてある通り、多くの事柄は彼らの責任範囲から除外されている。だから、自分を守るためには自分でその分をカバー出来る保険に入ることだ。保険の種類は日本に比べてかなり幅広く、概して安い。例えば旅行保険でも、交通機関の遅れで飛行機に乗り遅れた場合の保険等も一般的になっている。しかしながら問題は、その保険もよく契約書を読まないと除外規定が多いということだ。
【外出時の疲労感】
外出するということはかなり労力がいることだ。その理由は3つある。まずは日本に比べて治安が悪い分、常にある程度周囲の安全に眼を配らなければならない。当然地下鉄の中で居眠りするなんてことは恐ろしくてできないし、夜間の地下鉄や路上はとにかくかなり身構えて行動する必要がある。二つ目には車の運転が乱暴である。キチンとした横断歩道の他では自動車が優先されるため、ボヤボヤと歩いていると自動車に轢かれそうになる。三つめには常に戦う姿勢を持っていなければならない。他人に何かされたときに、あるいは店員がキチンと対応しないときに、つまりほんのささいなことでも大声で文句を言わないと被害を被ったままに終わってしまう。決して彼らから謝ってきて何か対処をしてくれるということはない。だからいつでも文句が言えるようにテンションをあげておかなければならない。
【児童保護】
英国では、11歳未満の子供を一人にすると違法になって罰せられる。だから子供を置いて外出するためにはベビーシッターを雇わなければならない。また、学校への登校も必ず大人の監視が必要なので、スクールバスがなければ親が送り迎えしなければならない。これは児童保護の面からはいい制度とも言えるし、実際に子供が一人でいると事故や事件に遭う危険が大きいので仕方ないとも思う。しかしながら、街で子供同士が遊ぶ光景を見ることはほとんどなく、子供の行動半径が狭まっている上、親にべったりで自立出来ない子供を作っている面もある。また逆に自由に行動出来るようになる中学生以降に急激に大人ぶった行動をしたがって不良化を招いているんだという人もいる。アメリカでもよく児童を一人残して近所に買物にいった母親が違法とされて子供の養育権を失うなどという本末転倒(子供にとってかえって悲劇)な事件も出てきており、一長一短の法律だと感じる。
【教育】
一概に言うことはできないが、子供の自主性を重んじると言う良い点がある一方で、それはわがままな子供(そして大人)を助長している面がある。例えば、昔の日本の学校では給食は残してはいけなかったが、英国では何を食べようと何を残そうと勝手だ。その結果食わず嫌いの偏食傾向ができてしまう。それは給食だけではなく、生活の全ての面に及び、嫌いなものは頭から拒否し、自分の好き勝手に振る舞うようになる。親もそうして育ってきているので子供のことをしからない。だから街にはマナーを知らない傍若無人な子供(そして大人)がはびこっているように見える。もっとも近年の日本では、アレルギーの子供が多いので給食は残してもいいことになったし、欧米流の自主性が尊ばれているので、英国と同じ道を歩んでいるのかもしれない。ちなみに、上流階級のお坊ちゃまやお嬢様が通う寄宿学校は規律を重んじるので、そこに通う子女はさすがに非常にマナーがいい。
【階級社会】
英国では今でも階級社会の名残が強い。実は上に書いたようなマナーの悪さは多くは下層階級の人々の問題であり、いい家庭で育った人々は紳士淑女なのかもしれない。(残念ながら、そういう人々はわずかであり、ことに普通の街角では見かけることがない。)一部の貴族は郊外の豪奢なマナーハウスに住み、先祖から受け継いだ資産を利用して生活している。我々日本人が英国に来ると彼らの遺産を見ることが多く、英国は豊かだと感じることになる。だが、多くの国民が最低所得近辺でギリギリの生活をしているのも事実だ。名目上は当然階級制はなくなっているが、彼らの日常には厳然と生き続けている。彼らが日頃使うお店も階級である程度分化している。上流階級は安いスーパーには行かない。逆にハロッズとか高級デパートには下級階層の人々は行かない。使う言葉も違うし、受ける教育も違う。こうして階層はまた受け継がれていくことになるのだ。これが果たしていいのか私は疑問だ。
【改善意欲】
英国は得てして保守的だと言われる。もともと現状を打破したいと思った人はメイフラワーに乗って米国に移住したはずなので、残っている人は現状維持でもいいと考える性向があるのだと論評して見せた人もいる。それは古き良き伝統を大事に守りぬくという点では非常に良いことでもあるが、商品開発の面では何の進歩ももたらさない。従って、英国の物は使いにくいものが多い。傍から見ていると、もう少し工夫のしようがあるだろうと思うのだが、彼ら自身にそうしたニーズが生まれないので、一向に改善されないようだ。
【健康管理】
実は英国でも近年健康に気を使う人が増えている。例えばオーガニックの野菜を売る店も出てきたし、ロー・ファットのヨーグルト等も多い。スポーツ・ジムも多いし、昼休みにテムズ川縁をジョギングする人も見かける。しかし、根本までは浸透していないように見えるのは、タバコの消費が多いこと、アルコールの暴飲が多いこと、ポテトチップやチョコレートを間食しながらコカコーラ(最近はダイエット・コークも多いが)を飲む人が多いこと、食品添加物の規制が緩いこと、排ガス規制が緩いこと、等を考えていくと仕方ないような気がする。やはり中年になるとお腹の辺りが出っ張ってくる男性が多いのも肯ける。もっともこうした不健康のおかげで(寿命が長くならないので)高齢化社会の心配が薄れている面もあるから、皮肉なものである。また、国民健康保険の赤字が何とか限度内におさまっているのは、当然のことながら英国人が健康だからではなく、国が提供してくれる医療が余りにも最低限でしかも長時間待たされるために普通の人は民間保険に自分で加入して私費医療を頼むからだとも言える。
--------------------------------------------------------------------------------