昨年末に、「地方公共団体の議会の議員及び長の選挙に係る電磁的記録式投票機を用いて行う投票方法等の特例に関する法律(平成13年12月7日法律第147号)」が制定され、いわゆる電子投票制度が導入できることになった。
この法律は、衆議院はわからないが、参議院本会議では“全会一致”で可決した。
この法律の成立により、2002年2月1日以降の地方選挙から条例に基づき『電子投票制度』の導入が可能になる。
さらに、総務省は、2004年に実施される参議院通常選挙からの『電子投票制度』導入を画策している。
『電子投票制度』がすんなりと国会で成立したと言うことは、国会議員が、“IT”についてまったく無知であること、そして、国家権力機構の恐ろしさにまったく無知であることをさらけ出したものである。
参議院本会議に押しボタン式の採決方法が採り入れられたときにもびっくりした。
現在のように与野党の色分けと数の関係が明確であれば疑義が生じないかもしれないが、与野党伯仲状態や党議拘束なしとなったとき、押しボタン式の採決がどれほど“危険
な”ものであるか想像できないようでは「良識の府」とは言えない。
実際にボタンを押した色分けが、賛成125名で反対が127名であるのに、賛成127名で反対が125名と採決ボードに表示されたとしても、誰も疑義を感じず、そのまま通ってしまう可能性が高いのである。
『電子投票制度』は、参議院本会議に導入された押しボタン式採決方式をさらに進めて、議員や首長そのものまで、そのような“危険な装置”で選ぼうというものである。
公権力を委ねる選挙に『電子投票制度』を導入することは、代議民主制や首長公選制を形骸化し、「IT利用の独裁」への道を拓くものである。
現在の投票用紙を使った投開票による選挙制度でも、開票に疑義が抱かれ、票の数え直しなどが何度も行われてきた。
それが可能なのも、投票用紙という外見的に識別可能な媒介物があればこそである。
2000年のアメリカ合衆国大統領選挙では、投票システムの不備(仕掛け)だけではなく、ブッシュ現大統領が不利と予測されていた選挙区で投票箱の海洋投棄までが行われたことが指摘されている。
それでも、ブッシュ大統領の当選は無効にならず、9・11空爆テロから始まる「世紀の妄動」が続けられている。
『電子投票制度』を採用すれば、投票用紙の記載内容を「立会人」に見せさせたり(地方ではままあることだそう)、開票をごまかしたり、“嫌いな”投票箱を捨てるという苦労やヤバイ橋を渡らなくても、“ある意図”に従った選挙結果が得られることになるのである。
片山総務大臣が説明した『電子投票制度』のあらましは、
『 第一に、電磁的記録式投票機を用いた投票についてでありますが、市町村の議会の議員または長の選挙の投票については、不在者投票等を除き、市町村は、条例で定めるところにより、選挙人が、みずから、投票所において、電磁的記録式投票機を用いて投票を行う方法によることができることといたしております。
また、都道府県の議会の議員または長の選挙の投票については、不在者投票等を除き、都道府県は、電磁的記録式投票機を用いた投票を行う旨の条例を定めた市町村のうち当該都道府県の条例で定めるものの区域内の投票区に限り、当該都道府県の条例で定めるところにより、選挙人が、みずから、投票所において、電磁的記録式投票機を用いて投票を行う方法によることができることといたしております。
さらに、身体の故障等によりみずから電磁的記録式投票機を用いた投票を行うことができない選挙人に対する電磁的記録式投票機を用いた代理投票の制度や、みずから電磁的記録式投票機を用いた投票を行うことが困難な選挙人に対する電磁的記録式投票機の操作についての補助の制度を設けることといたしております。
第二に、電磁的記録式投票機についてでありますが、法律において、二重投票の防止や投票の秘密保持等の具備すべき条件を定めるとともに、市町村の選挙管理委員会は、条件を具備した電磁的記録式投票機のうちから、当該選挙に用いる電磁的記録式投票機を指定することといたしております。
第三に、電磁的記録式投票機を用いた投票の開票についてでありますが、開票管理者は、開票所において、開票立会人とともに、投票の電磁的記録媒体に記録された投票を電子計算機を用いて集計することにより、各公職の候補者の得票数を計算することといたしております。 』
【『電子投票制度』で個々人の投票行動は保証できない】
● 集計プログラムの“不正動作”は防止できない
『電子投票制度』で使われる集計プログラムが、投票者個々人の投票行動をきちんとカウントするという保証はまったくない。
プログラムのソースコードを公開しても、その内容がコンパイルされたオブジェクトコードがそのまま動作しているという保証はない。
動作中のコードを表示させながら集計するという措置を採ったとしても、それを表示させるプログラムを作成するのもある人である。
プログラムを組み込む前に衆人環視のもとでコンパイルを行い、それで動作させるとしても、様々なテクニックで逃れることができる。(具体的な手法は書かないが)
コンピュータという機械は、きちんと動作するとしても、動作の命令を与えるのは人である。
集計プログラムの作成を管理するのは、作業は外注するとしても、究極的には“役所”であろう。
外務省・農林水産省・旧大蔵省(財務省)などの“犯罪的な所業”を見せつけられてきたのに、“役所”は信頼できるという人がいたら手を挙げて欲しい。
この理由だけで、『電子投票制度』は“犯罪的制度”である。
● 再集計の保証ができない
集計プログラムの不正が防止できないのなら、投票者個々人の投票行動が再確認できるシステムが保証されていなければならない。
総務省は、「投票の電磁的記録媒体に記録された投票を電子計算機を用いて集計する」と説明している。
「電磁的記録媒体に記録する」のもプログラムの動作であり、前述の『プログラムの“不正動作”は防止できない』という問題が生じる。
「電磁式記録媒体」と従来の「投票用紙」とはまったく異質のものなのである。
集計プログラムが仮に正しく動作しているとしても、「電磁的記録媒体に記録する」段階で不正が行われていれば、何度集計し直しても結果は同じである。
「電磁式記録媒体」は、磁気や力学的な損傷で、データが消えたり変わったりすることさえある脆弱な媒体でもある。
● 投票行動の最終的なチェックができない
『電子投票制度』で「開票結果」に疑義が生じたとき、最終的に確認する方法は、投票者個々人が誰に投票したかを調べるしかない。
選挙管理委員会が、投票者個々人に確認しても無駄である。不正であれ選挙結果が見えているのだから、「ああいう結果になるんだったら、A党じゃなくB党にするんだった」などの思惑も入るだろう。
じゃあ、「電磁式記録媒体」に投票者のIDを記録すればいいというアイデアも出るかもしれない。
これはとんでもない話である。
「誰が誰や何党に投票したか」が見え見えになるシステムである。“秘密投票”という憲法的原則が犯されることになる。
「投票用紙」という個々が物理的に識別できるものであれば、監視人と投票箱という閉鎖空間によって、誰のものなのかという特定はできなくても、総数レベルでチェックできる。(選挙に不正は付き物だが、電子式とはまったく違う“作業”で発覚しやすい)
● 不正が発覚してもバグで言い逃れる
困難を乗り越えて不正を見つけたとする。
しかし、総務省や選挙管理委員会は、「ソフトのバグだった。ソフトにはバグがつきものだ」で終わりだろう。
選挙をやり直すとしても、『電子投票制度』でやり直す限り、これまで書いたことの問題が繰り返されることになる。
● インターネット投票も画策されている
現段階の『電子投票制度』は、磁気式記録媒体を集計マシンにかけてというものだが、
ゆくゆくは“インターネット投票”まで持ち込みたいようだ。
インターネットでの投票が、データ改竄やデータ不達など、いかに危険なものであるかは言うまでもないだろう。
さらに、個人の端末(パソコン)を使ってもいいという話であれば、誰が投票したのか、自由意志によって投票したかわからない。脅迫や買収でそのような投票行為をしたかどうかさえわからない。
こういうインチキな選挙制度が、2001年の11月に予定されている広島県知事選や2002年6月に予定されている岡山県新見市の市長選・市議選での導入が考えられているのである。
『電子投票制度』を推進したい人たちの言い分も書いておいたほうが分かりやすいだろう。
<新見市の主張>
電子投票を導入することにより
1 有権者の投票意思の正確な反映ができる
(無効票・疑問票の大幅な減少)
2 選挙結果の迅速な公表ができる
有権者に迅速に選挙結果を知らせることができる
事務従事者の健康管理面で改善が図られる
人件費の縮減ができる
3 投票率の向上が期待できる
若者を中心とした政治に対する無関心者が増え
ているが、電子投票制度は、若者にも積極的に
受け入れられることが期待できる。
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1 有権者の投票意思の正確な反映ができる
(無効票・疑問票の大幅な減少)
※ タッチパネルを間違って押した場合はどうするんだろうね。
無効票や疑問票は、「投票用紙」を使う方式でも改善はできることである。
さらに言えば、無効票や疑問票は、それを投じた有権者の“自己責任”である。
2 選挙結果の迅速な公表ができる
有権者に迅速に選挙結果を知らせることができる
事務従事者の健康管理面で改善が図られる
人件費の縮減ができる
※ 早く結果を知りたいのは人情だが、任期満了までに新しい人たちが決定していればいいのである。早く知るために、「正しさ」を犠牲にしてもいいのか。
「事務従事者の健康管理面で改善が図られる」も、即日開票にこだわることはないのであり、翌日まで開票作業がかかっても問題はない。
「人件費の縮減ができる」のは確かだろうが、マシンなどの新しく発生する費用を触れていないのは詐欺である。
『導入を検討してきた高知市が試算したところ、電子投票機導入のための市の支出は九千万円。これに対し、人員削減によるコスト減は百万円程度だったため、高知市では、今年秋の市長選での実施を断念した』のである。
総務省は、このような動きにあわてて、電子投票機の導入費用の半額を補助して自治体の電子投票化を進めようとしている。それでも、市の負担が9千万円が4千5百万円になるだけであり、公金が9千万円−人件費削減分だけ余分に使われることには変わりない。
3 投票率の向上が期待できる
若者を中心とした政治に対する無関心者が増え
ているが、電子投票制度は、若者にも積極的に
受け入れられることが期待できる。
※ 「インターネット投票」で投票率がアップすることは考えられるが、現状ではあてにならない話である。
投票率が高いことが一概に“良いこと”ではない。
無理に投票率を高めることはない。総選挙や通常選挙で投票しなかった人にも、法律は等しく適用されるのである。(されないのは、政治家や官僚など一部の特権階級)
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このような『電子投票制度』導入を黙って見過ごしていけば、“最後の抵抗線”である選挙までが無力化されることになる。
導入された後にできる“抵抗”は、「すみません!手が滑って押し間違ったんで修正したいんですが」の連発や「投票所出入り口に人を動員して、従来の投票用紙式投票をやってもらい。結果があまりにも違うと疑義を提起する」くらいかもしれない。
それらに対して、「いったん押してしまったら修正できません。あきらめてください」と言われたり、「勝手に集めた紙といういい加減なものが根拠になるものか」と罵倒されるのがオチだろう。
※ 国政選挙などで主要メディアが“出口調査”をやっているが、虚偽情報を流し、事実情報を秘匿しているメディアのデータがあてにならないことはわかりきったことである。
これから行われる「地方選挙」・「国政選挙」では、ほかの政策はさておき、『電子投票制度』に反対か賛成かで投票行動を決することにした。
それくらい重要な問題をはらんでいる制度変更だと考えている。
(国政選挙に『電子投票制度』が導入されたら、真顔で日本脱出を考える)
みなさんのご意見と“ささやかな反対運動”を期待しています。