投稿者 一刀斎 日時 2000 年 9 月 03 日 12:47:46:
週刊朝日9/8「週刊図書室」
『オウム帝国の正体』一橋文哉
評者 安原顕
『闇に消えた怪人グリコ・森永事件の真相』『三億円事件』(いずれも新潮社)の
著者・一橋文哉の労作『オウム帝国の正体』を読んだ。一九九五年から九六年に
かけて計九回の連載原稿に加筆したものとあるが、単行本化に、なぜこんなに時
間がかかったのか不思議な気がする。「二千年帝国の全貌」「国松長官を撃った
男」「村井刺殺事件の『闇』」「坂本弁護士一家殺害事件の真相」と全四章から
成るが、このうちの三件は未解決、未解明である。
「一連のオウム事件の背後にも、日本の政財界、暴力団から、ロシアや北朝鮮な
どの工作員、宗教団体、マフィアまでが奮いており、こうした〃オウムの闇〃を
暴くのが本書の狙いしと「あとがき」にある。そして読み進むと、「え?まさ
か。嘘でしょう」といった記述の連続で、読後、背筋がぞっとする筈だ。オウム
の度しがたい狂気はむろんだが、オウムの金に群がる政治家、暴力団、外国人マ
フィア、さらには、諸々の圧力から見て見ぬふりの警察、総じて日本の危機管理
のなさに、われわれは改めて怒りを新たにする。
危機管理皆無の一例を挙げれば、防衛庁、警視庁、郵政、建設、文部の各省庁、
NTT、三菱商事、住友銀行、新日鉄、松下電器、共同通信、日本経済新聞ま
で、百四十件余の基本システム設定を教団の関連企業、コンピューターソフト開
発会社が受注。そのため防衛庁は、幹部の住所などドッブシークレットが筒抜
け、看視庁は警察車両百十五台分のナンバーや車種、極秘扱いの配置場所が教団
側に流れた。
また、オウムの「ロシア進出」にあたり、エリツィンの側近、国家安全保障会議
書記オレグと麻原を引き合わせたのは当時の自民党代議士山口敏夫と言われ、最
終的に麻原は一千万ドルもの大金をロシアに送金(オレグ個人にも十万ドル献
金。本人は否定)、ロシアでの布教のため年間八十万ドルでロシア最大のラジオ
放送局の枠を買い取り、あっという間に三万五千余の信者を獲得した。オウムの
ロシア進出の狙いは教団の武装化で、早川はそのため「死の商人」として暗躍し
た。オウムの最終目的は核兵器の保有だが、オウムがウラジカフカスを最後まで
動かなかったのは、そこに核兵器があったからと
CIAの報告書にあるようだ。
その早川をロシア政府高官に引き合わせたのも政界、右翼、暴力団など幅広い人
脈を持つ、笹川良一の「対ソ連窓口」の男Jだった。元駐日公使のボリゾフが、
狙撃された国松長官と同じマンションに入居していたが、保証人はこのJだっ
た。早川はまた、ロシア経由で北朝鮮に十四回以上(公判では「一回も行ってい
ない」と否定)、ロシアには二十一回、その他、東南アジアもしばしば訪れてい
る。世界的偽ドル札偽造グルーブと、「よど号事件」の田中義三と早川、北朝鮮
籍から帰化した林泰男等々、みなどこかで繋がっていると著者は書く。
麻薬や覚醒剤の密造を、暴力団がオウムに委託していた可能性も極めて高く、北
朝鮮から麻薬を密輸していた疑いも大いにある。村井はそうした極秘情報を握っ
ていたにもかかわらず、口が軽かったこと、教団内での権力聞争もあって消され
たとは、著者の見解である。「坂本弁護士一家殺害事件」の犯人はオウム側数人
と、二人の極道である。理由は坂本がオウムと極道の関係に気づいたからだっ
た。しかし殺害後、極道二人は破門、うち一人は覚醒意中毒で廃人、著者は会い
に行くが、取材不能人間になっていた。坂本宅にオウムのバッジ、プルシャを置
いたのも、「そ、つすることで、極道の実入りの額が違ってくるからだ」と、極
道に取材した.著者は教えられる。最後に著者は、九四年六月「松本サリン事
件」の約一週間前九五年三月「地下鉄サリン事件」の約二週間前いずれも「防毒
マスク」製造会社二社の株価が高騰、それも十万株、百万株単位で買われたと書
く。買ったのはオウムを操った連中である。
本書を読んで痛感したことは、売買対象の休眠宗教法人も含め、新興宗教の徹底
的洗い直しの必要である。しかし創価学会.公明党に組ってまで政権維持に拘る
クズ政治屋に、そんなこと出来るわけもないとの、例によって空しい結論となっ
た。