梶村太一郎:佐高氏は「東京のゲッペルス」になぜ反論しなかったのか(週間金曜日)

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投稿者 一刀斎 日時 2000 年 8 月 18 日 00:43:45:

週間金曜日2000/8/11
論争 梶村太一郎
佐高氏は「東京のゲッペルス」になぜ反論しなかったのか

まだ日本ではないようだし、『週刊金曜日』でやってみたら面白いので、読者に
も提案できればよいと、以前から考えていたことがある。ドイツでは年末になる
とメディアと言語学者らの関係者たちが集まり、その年の「最悪の言葉」を選
ぶ。
それが年明け早々に、発言した人物の氏名と、発言の背景と共に一斉に新聞に載
り、テレビのニュースにもなる。たいていが、人気政治家ら有名人か権威のある
学者の言葉であることが多い。たとえば来年の正月の新聞に「二〇〇〇年最悪の
言葉は石原慎太郎東京都知事の三国人』と森喜朗総理大臣の『神の国』が選ばれ
ました」といった具合に報道されるのだ。
政治家のいわゆる「失言」に事欠かない日本では、候補が多くて、選択に苦慮す
るかもしれない。実際に「三国人」と、「神の国」暴言のどちらの方がよりタチ
が悪いかを判断するのは難しい。そこで最終選考は読者の投票で決め、新年号で
発表するというのはどうか。
『週刊金曜日』らしい正月の恒例企画になると思う。
ところで、もし本誌の記事の中から、毎年「最悪の記事」を選ぶ企画があれば、
ぜひ推薦したいものが登場した。本誌322号(七月七日)の石原慎太郎、佐高信
両氏の対談「俺は政治家としての作品は書いていない」だ。佐高氏とは面識もな
く、なんの偏見もないが、この対談だけは、いくらなんでもひどすぎる。一読し
で、表紙を見直したが、確かに『週刊金曜日』とあり『文藝春秋』ではないの
で、改めて驚愕した。佐高氏は本誌の編集委員であり、「石原やめろネットワー
ク」の共同代表でもある。一体これはどうなっでいるのか?
「『週刊金曜日』まで変節する兆候ではないか」と疑われかねない。何度読み返
しても私の理解を総する対談だ。
冒頭で石原氏が、国家主義の語源でもある「ナチオ」というラテン語(出生、人
種、門地の意味をもつ)を引用したにもかかわらず、日本の伝統酌国家主義者の
人種主義を衝くこともできず、「三国人」、暴言の張本人の「私は被害者ですか
ら」との開き直りを指摘すらしない。あとは、「外人」という差別用語をたしな
めることさえせず「石原氏の言いたい放題に「一致点があります」と相槌をうつ
だけ。まるで青大将に睨まれた雨蛙が、捕って喰われるのではないかと脅えなが
ら、相手にすり寄るだけのような体だらく。
ついには「もう一回国政ということはないんですか」と『文藝春秋」のキャン
ペーン(「国民は「石原慎太郎」を選んだ」同誌八月号)のお先棒をかつぐ発
言。ここで、これはたいへんと編集部が代わって質問を始めたが後の祭り。
「『週刊金曜日編集委員の石原知事への無残な降伏対談」として終わっている。
今ごろは佐高氏が師とする元編集委員久野収氏も怒って、「お墓の下で寝返りを
打っている」(ドイツ的表現です)に違いない。
石原氏は「東京のハイダー」と書かれて、それが「名誉段損になる」と述べてい
る。これに反論もしない佐高氏は、「石原はドイツでは刑務所にはいるべき人種
差別の扇動者で、『東京のゲッベルス』である」という私の主張(『石原都知事
「三国人」発言の何が問題か』影書房に収録の拙稿「精神の放火犯」を参照)な
どとは、まったく無縁な人物であることだけは明らかだ。この対談は「佐高信な
る幻影」を立派に映し出しただけではないのか。
私は佐高氏を、批判はしても非難しようとは思わない。私にとって氏は石原氏の
ような「打つべき水に落ちた犬」ではないからだ。ただ、氏も多くを学んだであ
ろう魯迅の「遺言」の最後の一項の意味を、もう一度、じっくり噛みしめていた
だきたいと思う。「他人の歯や眼を傷つけながら、報復に反対し、寛容を主張す
る人間には、絶対に近づいてはならぬ」(魯迅『死』より)
(在ベルリシ・ジヤーナリスト・54歳)




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