投稿者 8月16日付・読売社説(1)[通信傍受] 日時 2000 年 8 月 17 日 06:43:27:
十五日に施行された通信傍受法は、組織犯罪の指揮・命令系統の解明を目指すものだ。
資金面を締めつける犯罪収益の没収(二月施行)とあわせ、組織中枢に迫る車の両輪でもある。
成立当初、反対派に「盗聴法」などと言われたが、正式名称が示すように「犯罪捜査のため」であり、国民の正当な日常活動を対象にしたものではない。
傍受対象は、組織的に行われる殺人、薬物、銃器、集団密航の四分野の犯罪に限定される。市民や企業社会をむしばみ、暴力団などの資金源になり、国際的な犯罪組織との連携が進むなど、いずれも安全社会を脅かす典型的な組織犯罪だ。
国境を超えて横行するこれらの犯罪やテロは、国際的な共通の悩みだ。
組織の中枢は奥に隠れ、コンピューターなどの多様な通信手段を駆使して謀議や指示を重ね、全体を操っている。犯罪収益はマネーロンダリング(資金洗浄)で合法資金を装い、新たな犯罪に投入される。
実行犯や末端組織を、いくら摘発しても中枢はほとんど無傷という現実がある。
欧米先進国は、早くから傍受法や犯罪資金の没収など、厳正な法規制を整備している。しかし、国際的な犯罪組織の摘発には各国の連携が不可欠だ。犯罪や資金は規制の弱い国に流入する傾向を強めている。
わが国も傍受法の施行でようやく、国際的な責任の輪に加わることになった。
施行された傍受法は、電話やコンピューター通信の傍受を、一定の犯罪が行われる高度の疑いがあり、捜査を尽くしても他に手段がない場合に限定している。その上で犯罪に使われる疑いの強い電話番号などを特定し、裁判所の令状を得て、NTT職員など第三者の立ち会いで行われる。
犯罪捜査のためとは言え、運用を誤れば通信の秘密やプライバシーなどの基本的人権、報道の自由にかかわるだけに、きわめて厳密な要件を明示したものだ。
さらに実際の運用にあたる警察、検察は規則や通達で厳しい傍受手続きを決めている。傍受令状の請求は、警察本部長や検事正の事前承認とし、取材のための通信は原則的に傍受対象にしないとしている。
法の構造、手続き両面から乱用の危険に厳しい歯止めがかかったと言える。
ただそれも、捜査官らが法と規則を守ることが大前提だ。特に一連の不祥事で国民の信頼が揺らいでいる警察には、細心の注意が求められる。日常的な教育、研修を強化するのと同時に、警察本部長らが常に厳しくチェックしなければならない。
警察活動や捜査は、国民の信頼と協力なしには成り立たない。基本的人権に直接からむ傍受問題で、万が一不祥事を起こせば今度こそ取り返しがつかない。
だが、警察は必要以上に身を縮め、ひるむことがあってはならない。組織犯罪は手をこまぬいていられる状況ではない。与えられた法の透明、厳正な運用を心がけ、敢然と組織中枢に挑んでもらいたい。
それが、国民の信頼回復にもなる。
*コメント
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