投稿者 記事転載 日時 2000 年 8 月 10 日 19:17:44:
個人情報守れぬ住民台帳ネット 山田 宏 東京都杉並区長
「昨年八月に成立した改正住民基本台帳の運用について、杉並区は極めて慎重に対応せざるを得ない」
私は、六月十四日の区議会本会議で、そう答弁した。同法によって構築され、二〇〇二年に稼働する予定の住民基本台帳ネットワークに、場合によっては参加しない選択肢もあり得ることを意味する。
それは、自立した自由社会を愛するゆえの発言だった。法改正前の昨年二月には、特別区長会として同法の改正に否定的な申し入れを自治大臣に行っている。改正住基法に対して、いま私がどのような疑念を抱いているのか、真意を尽くしておこうと思う。
まず費用対効果の問題だ。自治省によると、すべての国民に十けたの住民票コード(番号)を割り当て、全国の区市町村の住民基本台帳関連事務をコンピューターで結ぶこの計画の初期経費は約四百億円、別に約二百億円の年間維持経費を要するという。
希望者に交付されるICカードを用いれば全国どこでも住民票が取れ、転居の際にも転入届だけで済むというが、財政逼迫の折り、巨額の費用を投じる見返りにしてはあまりに小さすぎないか。
住基ネットは住民の居住を確認するための利用に限定するという条文は法案を通す方便で、いずれ再改正して納税者番号や運転免許証番号、金融機関の顧客番号などほかの個人番号と連動させようというのなら、行革や企業支援の経済効果は費用を上回るだろう。ただし、それでは国民総背番号制度にほかならず、今度は政府や企業による個人のプライバシー侵害が拡がる危険が生じてくる。
住民番号を納税者番号としても利用しているスウェーデンでは「人は個人でなく第一に個人識別番号(PIN)だ」と、同国のデータ検査院長官が嘆いたことがある。一九九六年に来日した彼女は、こうも警告した。「PINはプライバシーに対する脅威のシンボルとなった。導入はお薦めしません」
中川正暉前建設相が、吉野川可動堰をめぐり約束していた地元住民との対話を、相手の逮捕歴を理由に拒否した一件が記憶に新しい。国民総背番号制度が動き出し、個人情報が広範囲に洩れ始めれば、この種の差別は珍しくなくなるかもしれない。
国家安全保障上の懸念はさらに強い。住基ネットで集積された個人情報が、万が一にも日本を敵視する外国に流出したらどうなるのだろう。
米国防省や米情報中央局(CIA)のシステムがハッキングされたニュースさえ耳にする。わが国の区市町村ネットがそれらより強固なセキュリティーを維持できるとは考えにくい。一月にも、総務庁など中央官庁のホームページが不正に書き換えられる事件が発生したばかりだ。
コンピューター・ネットワークを活用する電子政府の構想に、私は反対しない。時代の要請であり、積極的に推進すべきだと思う。
だからこそ、拙速は避けなければならない。個人番号を安易に一元化せず、目的別の限定番号にとどめておく方がリスクは軽減され、かえって効率的な運営が期待できるのではないか。地元自治体でしか住民票が取れない程度は、自由と民主主義を守り、国民の安全を確保するためには最小限必要なコストととらえるべきではないのか。
住民基本台帳の管理は、自治事務の中でも最も重要な領域の一つである。私の発言以来、区民の皆さんから、たくさんの意見が届いている。賛否の前に、「そんな法律だとは知らなかった」という方の実に多いことか。
マスコミを含め、この問題は、重大さの割に議論が乏しかった。不透明な部分も多すぎる。自治相は当初、住基ネット上には基本四情報(氏名、住所、生年月日、性別)だけが流れると説明していたが、実際には戸籍や年金の種別など十三情報が載ることが後で明らかとなった。
今からでも遅くない。未来を取り返しのつかないものにしてしまわないうちに、少し立ち止まり深く考えてみる勇気を持つことが、後々の世代への責任である。
[朝日新聞 7/15 論壇]
<コメント>
勇気だけでなくある程度の知識や思想がないと。
それにしても、IT化のデメリットを正面から論じる「知識人」や政党や報道は少ない。(「IT戦略会議」を見ただけでも、ある程度の勘ぐりはつきそうなもの。)お役所専用回線でなくインターネットを用いる以上は、原則的にいかなる秘密も存在しない、と考えて然るべきだと思うが。
それにしても、黙示録型植民地支配を財政破綻の日本国と日本国民に対しても、なぜ無理強いするのだろうか?
黙示録を読んでいて気持ち悪いのは、「しるし」が現代の科学技術においてはじめて実現可能な領域に突入したらしい、という点です。
そしてある日、あなたの名前が長い数字列になる。
あなたの人生も、命の価値も、もはや意味を失った。
あなたのすべては一個の数字列であり、低コストで生かされる肉でしかない。
一個の数字肉が地球支配者に死ぬまで奉仕させられるユートピア世界が到来する。
数字肉すべての言動、一挙一動、緯度経度が無慈悲に監視されていくのだ。
すべての数字肉一生涯の全生存情報は、海を隔てた「獣」のもとへと注がれていく。全能の「獣」はそれらを常に記録し、分析し、命令し、飼育コスト上不利な数字肉に対しては、これを迅速に廃棄していく。
聖なるスキャナーの獣像を拝まなかったあなたの友人数字肉No.XXXXXXXXXXXXXXXXXXは、ある日、清潔にいなくなる。