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投稿者 野田敬生 日時 2000 年 7 月 08 日 16:17:17:

日本弁護士連合会殿
平成12年6月15日

「市民団体調査」文書が,真正の公安調査庁文書であることについて

元公安調査庁職員 野田敬生

私こと野田敬生は,信義と公正に則り,公安調査庁在職時代の経験及び知識に基づいて,標記の件について下記のとおり証言いたします。

「近畿公安調査局」と右肩に記され,「現下の諸情勢にかんがみ、」で始まるA4版大の文書計12葉(以下「近畿局文書」あるいは「文書」)及び「市民オンブズマン運動の現状と見通し」と題するB4版大の資料計13葉(以下「オンブズマン資料」あるいは「資料」)は,いずれも公安調査庁作成に係る正規の行政文書の,全部または一部の写しである。
その根拠と理由は以下のとおりである。

1 「近畿局文書」の検討
(1) 「文書」の性格
「近畿局文書」は,冒頭「現下の諸情勢にかんがみ、当庁業務を充実・強化するために考慮すべき事項」との記述で始まるが,これは平成8年度の「公安調査局長・公安調査事務所長会議」における「協議事項」と同一表現である(添付資料1:公安調査局長 事務所長会議における協議事項(過 5年間))。
さらに,「文書」「1−1」3行目を見ると,「1 調査第一部業務の円滑な推進」との項目は,同会議における調査第一部関係の協議事項と同一表現になっている(添付資料1)。
すなわち,「文書」は,平成8年度の局・所長会議にあたって,近畿公安調査局が提出した答申(「協議事項意見要旨」)であることが明らかである(添付資料1及び資料2:公安調査局長・公安調査事務所長会議作業日程表(平成10年度))。
資料2にあるとおり,「協議事項意見要旨」は長官の決済を受けることとされており,紛れもなく,正規の公安調査庁行政文書である。
なお,局・所長会議とは,毎年,全国の公安調査局長・公安調査事務所長(8局43事務所)が霞が関の公安調査庁本庁に参集の上,法務省地下一階大会議室において開催される会議である。開会にあたっては法務大臣の訓示も行われている(添付資料3:公安調査局長・公安調査事務所長会議における議事進行予定表(平成9年6月18日))。
ただし,流出「文書」では,調査第二部関係の協議事項「新体制下における海外公安動向調査の在り方」の部分が欠落している。「文書」の項目で,「1」があって,「2」の部分が欠落し,不自然な印象を与えているのはこのためであるが,欠落の理由は不明である。したがって,本流出「文書」は,平成8年度,近畿公安調査局作成に係る「協議事項意見要旨」の写しの一部である,ということができる。

(2) 全体の内容から見た「文書」の信憑性
ア 業務・機構改革の経緯と概要
まず「文書」の全体的な内容について検討するにあたって,公安調査庁の業務・機構改革の概要について説明を加えたい(以下,ア,イ)。
すなわち,公安調査庁に対しては,従前から左翼勢力を中心に,その存在意義と活動に疑問が呈せられてきたところであるが,冷戦構造の崩壊を背景に,直接的には平成2年の大嘗祭の際に,革共同中核派に対する破壊活動防止法の適用を見送ったことから,政府・与党からすらも公安調査庁廃止論が取り沙汰されるようになった。
平成4年6月には,総務庁行政管理局から法務本省を経て,入国管理局への定員100名振替の要求を突き付けられ,行政レベルでも組織縮減の動きが具体化した。この動きに危機感を覚えた公安調査庁は,以後「業務・機構改革」への本格的な取り組みを開始することとなった。
庁中枢での検討を経て,平成6年末ころまでには,改革の最終案が策定され,平成7年度から実質的な内部機構改革が実施された(添付資料4:総務部長説明資料 H8.1.10 業務機構改革問題の経緯と概要)。
ただし,近畿局においては,平成7年1月の阪神・淡路大震災以降,「国内公安動向」調査のリーディング・ケースとして,被災地におけるボランティア運動調査等を行った経緯があり,業務・機構改革は,年度始めの4月をまたず,すでに導入されていたといえる(添付資料5:「政府,自治体の阪神・淡路大震災復興計画・推進に対する阻害行動」調査方針について)。
上記,業務・機構改革の概要は,

@ 日本共産党調査の合理化→左右のイデオロギー対立や,団体規制に必ずしもとらわれない,幅広い「国内公安動向」の把握を重点課題に設定
A 海外公安情報収集・分析体制の強化
B 情報の対外活用

という三点にまとめれる(添付資料4)が,その趣旨は,政府・与党・民間企業から現実に需要のある情報について収集・分析し,積極的に対外提供することで,庁の存在意義のアピールを目論むというところにある。
公安調査庁は地下鉄サリン事件以前,オウム真理教を破壊的団体であると認識しておらず(調査対象団体への指定は平成7年5月16日),平成6年当時は破防法適用が当面あり得ない治安情勢にあると考えられていたため,公安調査庁としては,団体規制業務に替わる日常業務として,情報提供業務を確立しなければならない,という背景事情があった。

イ 専門職制の導入と法務省組織令の改正
アの業務・機構改革に対応して,組織体制については,平成7年度から新たに「専門職制」が導入された。課長以下のライン組織に替えて,スタッフ組織を導入することで,新たな公安動向にも柔軟に対処することをその趣旨としている。課制の廃止,管理官・専門職制の全面的な導入は,平成8年5月の法務省組織令の改正をもって正式に行われたが,専門職制については平成7年度から部分的に導入されていた。
添付資料6『公友』の 平成8年3月30日発行第39巻第1号(通巻106号)27頁20〜23行目には以下のとおりの記述があり,以上の事実を裏付けている(下線野田)。

今回の「改革」で調査部門には全面的に「専門職制度」が導入されることになったのは、上記のような状況を改善する絶好の機会と考えられるので、従来の慣行に捉われず、個々の職員は発想の転換を、また管理者はその運用に十分なご配慮をお願いしたい。

なお,『公友』とは,職員の親睦を図るために毎年発行されている部内誌であり,本庁総務部人事課の求めたテーマに対する職員等の寄稿によって成っている。しかし,まったく自由な寄稿ができるわけではなく,原稿については,上司の指導を仰ぐのが原則である。発行人は,歴代,本庁人事課長である。

ウ 全体的な内容の検討
一方,「近畿局文書」は,平成7年来実質的に導入された諸改革が,実際のところどの程度実施されているのか,とりわけ,新たに導入された国内公安動向調査がどのような取り組み状況にあるのか,一年間を振り返った内容となっており,まさに,ア,イで述べた現実の動きと符合したものとなっている。
「近畿局文書」は,公安調査庁の業務・機構改革の動きと内容を踏まえたものとなっているが,この間の事情・機微については,とうてい公安調査庁職員以外の部外者が,“作文 ”できる性質のものではなく,本文書が公安調査庁職員によって作成されたことを決定付けている。
たとえば,「文書」1頁目「1」頭書きには,「機構改革後の一年間は、第一課の現場においては混迷が目立ったといえよう。これは改革の意義が十分浸透せず、新規業務に対する戸惑いや不慣れなどからきているものと思われるが、これらの問題点と対応状況は次のとおりである。」とあるが,この記述は,平成7年度当時の状況,すなわち

〇 業務・機構改革は,本庁職員課(当時)や総務課企画調整室を中心とする一部の部署で秘密裏に策定され,平成7年始めころまで,現場の末端職員レベルまで内容の示達がなかったこと
〇 新規業務の「国内公安動向」調査(一部一課担当)と,従来本庁調査一部三課が所掌し,現場の局・事務所で行われていた日本共産党系市民団体調査との異同が,現場職員にまで徹底されておらず,取り組み方法如何について混乱がみられたこと。つまり,本庁の意図としては,「国内公安動向」として,従来の日本共産党系市民団体の枠内にとどまらない幅広い対象を射程に入れていたにもかかわらず,現場の調査官にまで改革の趣旨が伝わらず,現場の調査官は未だ“日本共産党調査第一主義”の残滓に捕われていたこと
〇 「国内公安動向」の調査権は,破防法で認められた調査権を逸脱している可能性があり,仮に紛争事案が発生した場合,直接トラブルに対処するのは現場の調査官レベルとなるが,この点について本庁からの指示は不明確であり,本庁や局・事務所の幹部に対して,現場の調査官の間に不信感があったこと
〇 職員の多くは,「業務・機構改革」の本質は,組織・定員の縮小の理由付けに過ぎない,と受け止めて,業務に取り組む士気がかなり低下していたこと

などの実態を表現したものである,と指摘できる。
さらに,添付資料6『公友』の平成10年2月27日発行第41巻第1号(通巻108号)14頁8〜13行目には(下線野田),

最近は、国内外の情勢の変化に伴い公安調査業務の在り方も変化し、流動的な内外情勢の変化に即応した情報収集を図るため、調査第一部に国内公安動向調査を,調査第二部に海外公安動向調査を導入し、それに伴う業務機構を改革し時代に即応した公安調査庁への脱皮を図ったが、未だ時間的に短いこともあってか、一部ではあるが、業務に対する取組姿勢に、戸惑いや易きに走る傾向が目について仕方がない。

との記述があり,やはり「近畿局文書」の内容を裏付けるものとなっている。

エ 本「文書」が組織的に作成された行政文書であることについて
なお,本項(1)に記した事実を踏まえると,本「文書」は,一職員が個人的に取りまとめたメモ的性格の文書ではなく,幹部職員の指導のもとに作成された正規の行政文書であることが明らかである。
公安調査庁においては,保秘を徹底するため「区分の原則」なる不文律があり,自分の担当外の業務については,通常,内部職員であっても知り得ない仕組みになっている。
「文書」は,「オウム調査」「国内公安動向調査」「従来業務調査」と,調査第一部関係の業務を網羅する内容となっており,この点でも,組織的に作成された文書であることを裏付けている。

(3) 細部についての検討
「文書」の細部にわたっても,以下のとおり公安調査庁職員でなければ知り得ない事実が網羅されており,公安調査庁作成の文書であることが明らかである。私が近畿局在任中に経験した事実と照らし合わせて指摘すると,概要,次のとおり列挙することができる(なお,私の職歴については本文書「4」に記す)。

〇 頁「1−1」の1(1)ア「主たる作業は、調査第一部第二課で進めることになり、」
オウム調査は,日本共産党,過激派,右翼,朝鮮総聯調査など,従来業務の延長線上にはないことから,本来ならば,新規に導入された「国内公安動向」調査の範疇に入るものであって,実際,地方局の中では,「国内公安動向」を担当する一課(現調査第一部第一・三部門)が担当したところもある。
しかし,近畿局においては,オウム調査開始時,一部二課の職員が率先して調査に取り組んだという経緯から,その後も,過激派を担当する二課が主としてオウム調査にあたり,事務局が置かれた(添付資料7 平成7年12月15日 近畿局「オウム真理教規制請求調査本部」事務局体制)。
〇 頁「1−2」の1(1)イ(ア)A「具体的には、管内事務所を含めて約1740人の信者について、」
上記資料7にあるとおり,私は近畿局一部二課のオウム調査事務局においてデータ班に所属し,信者の格付け・集計などを行った。平成7年当時の近畿局管内(京都・兵庫・奈良・滋賀・和歌山事務所を含む)の信者総数について,現在のところ,正確な記憶はないが,「文書」に挙げられた概数については,概ね私の記憶にも合致している。
なお,平成7年度末とりまとめ当時,近畿局が直接に管轄する大阪府下の信者総数は600名弱であったと記憶している。
〇 頁「1−2」の1(1)イ(イ)@「大阪支部・・・・・に対しては、平成7年12月から監視アジトを設定し、」
当時大阪市中央区久太郎町にあったオウム大阪支部に対しては,地下鉄サリン事件以降,説法会や幹部信者の出入りがある時などに限って,当初,車両からの散発的な監視活動が行われていた。平成7年のAPEC大阪会議の前後には,ローテーションを組んで,車両からの監視活動を集中的に行っていたが,未だ定点の監視アジトは設定されていなかった。
近畿局が,定点アジトを設定したのは,意外にも遅く,文書のとおり平成7年暮れからである。監視アジトは,大阪支部通り向かい側,民間業者の倉庫2階に設定され,固定カメラを設置して24時間のビデオ撮影が行われた。添付資料7にある「拠点監視」がこれに当る。ただし,同図に記された4名は映像の分析にあたり,実際の撮影・監視は,近畿局職員全員を対象にローテーションを組み,2,3名が監視アジトに駐在して対応した。
〇 頁「1−3」上から2行目「監視・追尾作業や作業を実施しており,」
作業とは,調査対象者・団体が出すゴミを収集し,分析することで,端緒情報等を得る作業を言い,公安調査庁における隠語である。G作業(garbageの意)などとも呼ばれる。
〇 頁「1−3」(2)「国内公安動向調査」
「国内公安動向」調査は,一般的・抽象的な用語ではなく,平成7年度から事実上導入された新規業務を指す特殊な概念である。
資料6『公友』においては,「国内公安動向」調査及びその背景について次のように言及されている(下線は野田)。

・ 現在はリストラの真っただなか、しかも共産党を除く他の政党はオール与党という現象を呈し、我が庁にあっても、かつてのように「規制官庁」という一枚看板だけでは通用しなくなり、平成7年度からは「機構改革」が本格的にスタートしようとしている。(平成7年3月30日発行『公友』第38巻第2号(通巻105号)17頁6〜9行目)
・ 時、あたかも 機構改革の年である。多くの調査官は、「情報機能の拡大」「情報機関化」を望んできたのではなかったか。
情報機関としての方が「仕事がし易い」「目に見える実績を挙げられる」とまで言って「規制調査」の縛りを緩めようとしたのではなかったか。
今や、それを手に入れた。この改革は絶対に成功させなければならない。(同18頁5〜9行目)
・ 当庁の機構も改革され、国内公安動向調査が重要視されました(平成8年3月30日発行『公友』第39巻第1号(通巻106号)15頁3行目)
・ ソ連・東欧共産圏の崩壊の結果、当庁の業務改革の必要性が云われてから数年たつが、最近、オウム事件の忙しさにまぎれて、我々の意識のなかで、事態の切迫さが薄れていなければ幸いである。
当庁が一昨年来めざしている業務機構改革の定着は、依然として焦眉の課題であり、特に重視しなければならないのは、職員一人一人の意識改革である。(同21頁3〜8行目)
・ 本来の調査対象団体でないオウム真理教という思いもよらなかった団体にこうした作業が行われたということは当庁の将来を考える上からもまことに象徴的であると言えるのではないでしょうか。当庁において、組織機構改革が実施され、国内公安動向、海外公安動向が重点的な調査課題に設定されたのも当然の成り行きと思います。
冷戦構造が崩壊し、イデオロギーの対決から国益の追求へと変化し、冷戦時代の遺物であったココムも対象国をイデオロギーから危機管理的立場に立って選定することになるなど国際秩序の再編が行われております。
国内情勢を見ても、政治、経済、社会など諸々の秩序破壊の現象が現れており、当庁としても、従来からの対象団体に対する調査だけでは行政機関として、行政に寄与する役割は果たせなくなってきております。(同22頁10〜22行目)
・ こうした30有余年の勤務を今振り返ってみますと、昭和50年代までは調査の対象もほぼ限定され、調査の目的も規制のための調査、行政貢献のための情報収集を二本柱として推進してきたのですが、60年代に入り、ソ連をはじめとする社会主義国家が相次いで崩壊し、冷戦構造が終結するに至り、世界情勢の変化のテンポは余りにも早く、我が庁の調査も二本柱は変化はないとしても、幅の面で、国内公安動向のみならず海外公安動向についても重点課題として取り組むようになったことに関しては今更言及するまでもないことであります。
この調査面の変化は、JR(旧国鉄)の在来線と新幹線に例えられるのではないかと思います。旧国鉄時代には、レールの幅はいわゆる“狭軌”(1067mm)が主流で、最高時速も120km前後であったものが、昭和39年に初めて開通させた新幹線では“広軌”(1435mm)で時速も現在では270kmとなり、将来的には300km運転も予定され、さらには300kmの壁を破るため、レールなしのリニアモーターカーが既に実用実験段階に入るなど幅もスピードも大幅にアップしてきています。これは正に我が庁の調査にも当てはまるわけで、つまり調査の幅が広がるとともに情勢の変化の加速化によって調査対象も当然変化していくとになるからです。(平成8年3月30日発行『公友』第39巻第1号(通巻106号)24頁6〜22行目)
・ それにもかかわらず、私が当庁を志望したのは、面接の際に、当庁が規制官庁としてよりも、むしろ情報官庁として、国政に寄与しているということをはじめて知り、情報という観点から国政に寄与したいと考えたからでした。(平成9年3月28日発行『公友』第40巻第1号(通巻107号)50頁16〜18行目)
・ しかし、今回行われた機構改革の趣旨に沿って、規制官庁としての側面だけでなく、情報官庁としての役割をより充分に果たしていけるように、職員一人一人が個々の質を高めていく必要があり、私自身ももっと勉強していかなければならないと思う。(同56頁15〜18行目)
・ 換言すると、従前、規制調査ということで、当庁が果たして来た共産主義に対する長期監視による牽制効果の役割だけでは、社会、国民が満足せず、存在価値を認めなくなったと言えるのであろう。(平成10年2月27日発行『公友』第41巻第1号(通巻第108号)2頁2〜5行目)
・ 最近は、国内外の情勢の変化に伴い公安調査業務の在り方も変化し、流動的な内外情勢の変化に即応した情報収集を図るため、調査第一部に国内公安動向調査を、調査第二部に海外公安動向調査を導入し、それに伴う業務機構を改革し時代に即応した公安調査庁への脱皮を図ったが、未だ時間的に短いこともあってか、一部ではあるが、業務に対する取組姿勢に、戸惑いや易きに走る傾向が目について仕方がない。(同14頁8〜13行目)
・ 「我が庁」を取り巻く情勢は、ますます厳しく、更に、幅広い対象と高度な情報を求められるようになります。(同22頁11〜12行目)
・ 一昨年には、この45年間で最大級の情勢の変化とも言うべきソ連の崩壊、東西冷戦構造の終焉を受けて、「内外公安動向の把握」という新規業務を導入した。(同23頁21〜23行目)
・ ところで、当庁が規制官庁としてだけではなく、情報官庁としての機能を強化することの必要性が指摘されて久しい。(同30頁27行〜31頁1行目)
・ しかし、国家の危機管理という観点に基づいた内外情報の収集が重視されるといった今日の状況に照らせば、規制官庁としてはもちろんのこと、情報収集機関としての当庁の存在価値は増加することすれ減少することはないと確信する。(同32頁22〜25行目)

〇 頁「1−3」〜頁「1−4」「(ウ) 同調査を展開していくためには、広範囲に大衆協力者網を設置する必要があるが、調査官の多くはこのような情報ネットワークを作ることになれていない」
「大衆協力者」とは,調査対象団体の構成員以外の協力者,すなわち,マスコミ,民間企業,官公庁等における公安調査庁協力者を指している。
従来,大衆協力者網が不十分であった理由としては,調査対象団体に対する協力者獲得工作の場合とは異なって,報償費などの調査活動費が認められにくく,業務評価も対象団体構成員に対する工作より低くなりがちなので,職員が積極的に取り組んでこなかったという事情がある。やはり,公安調査庁職員でなければ,指摘できない事実関係である。
〇 頁「1−5」〜頁「1−6」(3)イ「特に革共同中核派調査においては、・・・・・(中略)中でも一本については、最近、全国で初めて中央の極秘資料を入手したほか、中央の主要会議や内ゲバの動向などを迅速かつ的確に提報するようになり、また同派関西地方委員会の組織・活動の状況を詳細に解明できるようになった。」
協力者情報は,公安調査庁においてもっとも秘匿されている事項の一つであり,協力者の氏名など身分事項については,通常,担当官と上司,本庁総務部工作推進室の職員でしか知り得ない。また,情報提報内容についても,担当官と上司,本庁調査部各課室の担当官でしか 知り得ない仕組みとなっている。
ただし,工作担当官と個人的な交友関係等がある場合には,担当官以外の職員でも,当該担当官が取り組んでいる工作について,その輪郭を知り得る場合がある。本件がまさにこれに該当する。
すなわち,上記記述は,私が近畿局一部二課(過激派担当)時代に,中核派工作担当者から聴取した工作内容と合致している。「全国で初めて中央の極秘資料」を提報した高位協力者の,「氏名」については私は把握していないが,同協力者の地位,担当官の氏名については具体的に指摘できる。
〇 別表「平成8年度業務計画(国内公安動向関係)」には「1 調査関係」として,「(1)政治・選挙関係」「(2)経済・労働関係」「(3)大衆・市民運動関係」「(4)法曹・救援,文化,教育関係」の項目別に,「解明目標」が挙げられているが,これら項目は,国内公安動向を担当する本庁調査一部一課の所掌,班割に対応する内容となっている(添付資料8:別紙2 調査第一部組織機構改革について 平成6年12月 調査第一部)。
別表「局・事務所別重点解明目標」についても同様である。

2 「オンブズマン資料」の検討
(1) 「資料」の性格
本「資料」は,内容・体裁から見て,公安調査庁本庁調査部各課室の担当官が,全国の局・地方事務所から集められてきた情報・資料をもとに毎週作成している分析資料,すなわち「水曜会資料」の写しであることが明らかである。水曜会資料は,公安調査庁が作成する行政文書の内で,もっとも中心的な資料の一つである。
「資料」右肩,「B」とあるのは,「内容の一部を修正すれば外部活用が可能な資料」の意である(なお,「A」は「外部活用が可能な資料」,「C」は「外部活用が不可能な資料」)。
「資料」冒頭で,本文の要点を〇印などで列挙しているところなど,まさに水曜会資料の体裁と合致している。
なお,水曜会資料は,上に述べたとおり,本庁調査部各課室の担当官が起案し,通例,各調査部長までの決済を受けるものとされている。

(2) そのほか形式上の特徴
私が受け取った本「資料」の写しは,B4版大であるが,水曜会資料はA4版であることから,これは本来A4版大であった「資料」を,B4用紙に複写したためであると思われる。
形式上の特徴としては,たとえば,「資料」7頁目を見ると,

3 個人責任を過剰追及する運動の進め方,弁護士主導の運動の在り方や活動費用不足等の議論も
(1) 運動の進め方への疑問
ア 橋本知事の批判

などとなっており,項目番号の振り方,字下げの法則など,公安調査庁文書作成上の規則(法務省横書き文書共通)に適っている。
また,文中の句点が「、」ではなく「,」となっていることも公安調査庁文書,とりわけ本庁作成文書の特徴である(「近畿局文書」においては,「、」が使用されているが,これは地方局・事務所においては,必ずしも文書作成上の規則が徹底されていないためであり,特に不自然なことではない。たとえば,地方局・事務所から毎日本庁に電送報告される報告書の多くには,「,」ではなく「、」が使われている。なお,「近畿局文書」においても字下げの規則は守られている)。
なお,「近畿局文書」「オンブズマン資料」ともに,決済者・印などの外観を欠いているが,これは両者が流出文書資料であるという点を考慮すれば,必ずしも不自然なことではない。決済については,決済伺いの「鑑」を最初に添付し,別添資料として,本体の文書や資料を添付するのが通例だからである。「近畿局文書」には作成日等について記載がないが,同「文書」は,本文書冒頭1(1)でも述べたとおり,「文書」の一部であることが明らかであり,作成日等については,決済伺いの「鑑」に記入されているものと考えられる。

(3) 内容から見た特徴
「近畿局文書」には,別紙「局・事務所別重点解明目標」として,「1 国内公安動向」の「(3) 大衆市民運動関係」で,「市民オンブズマンの行政に対する告発運動の実態把握。特に,各都道府県オンブズマンの活動・自治体の対応,市民オンブズマンの今後の運動課題など」と挙げられており,さらに「下記団体の中央組織の解明(一部団体でも可)」として,「全国市民オンブズマン連絡会議」「情報公開法を求める市民運動」が名指しされている。
同別紙の同課題の欄,右端に〇印がついているということは,近畿局が,同課題に重点的に取り組むべきことを示していることは言うまでもないが,このことは同時に,他局・事務所に対しても,(重点的に取り組むべきか否かは別として)課題が提示されていることをうかがわせるものである。
「オンブズマン資料」は,(1)に述べたとおり,国内公安動向を所掌する本庁一部一課が作成した「水曜会資料」である。水曜会資料は,全国の局・事務所から集積された情報報告・資料を評価・分析して作成されている。
すなわち「平成8年10月2日」付け水曜会資料「オンブズマン資料」の内容は,平成8年度の「近畿局文書」に見られるとおり,本庁一部一課が全国の局・事務所に指示した「解明目標」にまさに対応する内容となっている。「オンブズマン資料」は,局・事務所の調査活動によって,「近畿局文書」記載の「解明目標」が達成された一つの成果であると位置付けることができ,「オンブズマン資料」,「近畿局文書」の両者があいまって,相互に,公安調査庁文書としての信憑性を高めているといえる。
「資料」の「4」では,「運動の矛先は,治安部門などの権力中枢へと向かう見通し」とあり,「公安・警察」に対する情報公開請求にとりわけ注意を喚起する内容となっている。こうした観点は,「資料」作成者が治安機関であることを示しており,本「資料」が公安調査庁作成に係るものであることと矛盾しない。

(4) 職務経験上からの指摘
私は,平成9年度,本庁総務部企画調整室に籍を置く一方で,来るべき情報公開法の制定・施行に備えるべく設置されたプロジェクト・チーム,「情報公開法制定対策準備委員会」の作業に,同年4月終わりころから同10月ころまでの間加わった。
作業チームには,当時一部一課(国内公安動向担当)に本籍を置いていた有本武彦調査官(平成6年入庁キャリア職員)も加わっており,情報公開法対策の作業を進める関係上,同人から本「オンブズマン資料」を中心とする,情報公開関係の分析資料の写しの交付を受けた(ただし,退職の際には所持していなかった)。

3 公安調査庁の対応
(1) 木藤長官の答弁
平成11年11月25日付『東京新聞』朝刊は,「近畿局文書」「オンブズマン資料」を取り上げて,「公安調査庁が市民運動を破壊団体扱い」したとして報道した。同日,参議院法務委員会において,報道された「文書」「資料」の真偽について質した日本共産党の橋本敦参議院議員に対し,木藤繁夫・公安調査庁長官は以下のように答弁している(抜粋)。

○ 本日の朝刊の報道に係る文書につきましては,当庁の内部で作成された可能性をも含めて ,答弁を差し控えさせていただきたいと存じます。
ただ,一般論として申し上げますと,公安調査庁は,日本国憲法の保障する民主主義体制を暴力で破壊しようとする団体につきまして,その組織や活動状況などを調査しております。したがいまして,そうしたおそれのない市民運動ないし市民団体そのものやその正当な活動を調査の対象とすることはございませんし,破壊活動防止法の第三条にもその趣旨は明記されているところでございます。
しかし,これらの市民運動等に対する調査対象団体からの働きかけとか,あるいはこれらの市民団体内部における調査対象団体構成員の活動などがある場合には,これらの活動を調査することもあると承知しております。
〇 本日の報道に係る文書につきましては,当庁内部で作成された可能性をも含めて答弁を差し控えさせていただきたいと考えております。
○ 御指摘の報道された文書が仮に内部で作成された文書であると仮定いたしますと,いずれの文書も当庁の調査内容に関する事項が記載されておりまして,そのようなものを外部に公にすることは庁の業務運営に著しい支障を来すことになるし,またひいては公共の安全と秩序の維持にも支障を及ぼすおそれが生じるものと考えております。したがいまして,こういった文書につきまして,報道された文書と庁内の文書が同一か否か,これを確認するといたしますと,その文書の内容を公にしたのと同一の効果をもたらすということになりますので,こういった文書と同じものが内部にあるかどうか,あるいは類似のものがあるかどうかについての答弁を差し控えさせていただきたいと考えております。

(2) 答弁拒否の意味
(1)に記したとおり,木藤長官は,「文書」「資料」の存在・内容について答弁拒否しており,「文書」「資料」の存在そのものを“否定”してはいない。この対応は,事実上,長官が「文書」「資料」の存在を認めたものと解される。
すでに本文書1,2で見たとおり,「文書」「資料」が公安調査庁作成の行政文書であることは疑うべくもないが,もし,流出の過程で,内容に捏造や改竄があれば,木藤長官は端的に,その真正を否定すれば良かったはずである。長官の答弁では,この点について何ら説得力のある説明がなく,やはり,「文書」「資料」が真正の公安調査庁文書であることを裏付けている。

(3) 市民運動・団体調査についての見解
(1)にあるとおり,木藤長官は,「市民運動ないし市民団体そのものやその正当な活動を調査の対象とすることは」ないとしながらも,「しかし,これらの市民運動等に対する調査対象団体からの働きかけとか,あるいはこれらの市民団体内部における調査対象団体構成員の活動などがある場合には,これらの活動を調査することもあると承知して」いる,と答弁している。
「近畿局文書」頁「1−4」〜頁「1−5」には,「ウ 同調査においては、現場での抗議事案が発生した場合の対応については、必ず日共や過激派等の調査に関連づけて説明できるよう訓練させている。」とあるが,これは,上の木藤答弁を別の言葉で言い換えた内容であるとも言え,やはり木藤答弁は「文書」の内容・存在を裏書きするものとなっている。

4 証言者の職歴
私は,平成6年4月,国家公務員T種職職員として公安調査庁に採用された(添付資料9)。本庁で3か月の研修を受けた後,同年7月近畿公安調査局調査第一部第二課に配属され,同10月1日公安調査官を拝命した(添付資料10)。
同課では,過激派調査(革マル派)を担当した。
翌平成7年,業務・機構改革後の新体制下においても,私は引き続き近畿局一部二課で革マル派を担当し,同年3月20日に発生した地下鉄サリン事件以降は,併行してオウム真理教調査等にも関わった(添付資料7)。
翌8年4月には,本庁総務部総務課企画調整室に異動し,行革対策の作業に従事した。
翌9年4月末から10月初めの間には,企画調整室の事務と併せて,同時期新たに本庁に設けられたプロジェクト・チーム「情報公開法対策準備委員会」のスタッフとして,関連作業を行った。同10月からは,英語研修として,およそ半年の間,民間の語学学校に研修派遣された。
平成10年4月からは,本庁調査第二部第一課において,調査第二部(国外調査)全体の企画・調整並びに海外公然資料の翻訳・分析にあたり,同年6月末には,公安調査庁が米国中央情報局(CIA)に委託して実施している「情報分析研修」に参加するため渡米し,これを受講した(添付資料11)。
その後,同年12月31日,無断欠勤を重ねたことを直接の理由として,公安調査庁を依願退職した(添付資料12)。

5 国内公安動向調査の具体例
私は,平成6年10月の調査官拝命後,成果を挙げたいとの一心から,担当の革マル派調査に必ずしもとらわれずに,入手可能な情報については積極的に収集に取り組んだ。
以下,「近畿局文書」に記された市民運動調査が行われていることの証左の一つとして,私の在職時の調査経験について具体的に記すこととする。

(1) 司法修習生調査
私は,平成6年の京都大学「11月祭」において,任官拒否違憲訴訟原告の神坂直樹氏がパネリストを務める司法改革関係の集会に聴衆として参加した。が,その際には,開催内容については調査することなく,配布資料のみを持ち帰った。後日,入手した資料について資料入手調書を作成し上司に提出したところ,決裁者の一人である,近畿局調査第一部第二課渡邊一幸専門官(当時)より,「こういうのの内容がとれたらええんだけどな。賞詞まちがい」などと指示を受けた。
そこで,同年暮れころ,同じく神坂氏が出席する集会の開催を察知した際には,公安調査官の身分を秘匿して潜入し,開催状況を調査するとともに,集会に参加した司法修習生の氏名等身分事項について記憶し,直ちにB4用紙一枚程度の報告書一枚をまとめ本庁宛電送した。
その結果,翌年春頃,優良報告賞詞として,金一封二〇〇〇円相当を谷内 繁・調査第一部長(当時)から受領した(添付資料13)。
集会の開催場所は京都大学付近,思文閣会館の2階と記憶しているが,正確な開催日時については現在記憶していない。が、私の記憶では、集会参加者は30名強で,参加者の中心は司法修習生や司法試験合格者であった。
公安調査庁では,従前から,司法修習生について,地方局・事務所の上席レベル以上の調査官が「特命」と称して,個人カードの照合,自宅等近辺の聞き込みなど身元調査を行っているところである。得られた情報は法務・検察に提供される旨,先輩職員から聞かされていたことから,当時,私は,私が神坂氏の集会を調査して賞詞を受領した理由は,この情報が,法務本省,検察庁あるいは最高裁事務局等の関係機関に提供されて活用されたためであると認識した。
司法修習生調査は,必ずしも公安調査庁が指定する調査対象団体の構成員性の如何を調査するだけにとどまるものではなく,たとえば,資料8の「調査第一部第一課の組織機構図」には,「日共系,社会党系, 過激派系左翼法曹団」などと記載されているが,これは,公安調査庁が調査対象団体にしている日本共産党や過激派以外の社会党系(現社民党)の法曹団についても調査するという趣旨であるから,明確にイデオロギー調査というべき性格のものである,ということができる。
法曹については,上に述べたとおり,本庁調査第一部第一課の「文化・法曹班」が,国内公安動向調査の一環として,分析にあたっている。
「国内公安動向」という概念が確立したのは平成6年以降のことであるが,それ以前からも,旧調査第一部第一課(日本共産党担当)においては,「左翼法曹」班が情報分析を行っており,改革後も,一部一課(国内公安動向担当)に業務が継承された。
なお,私が担当業務外の司法修習生調査を行ったことについては,公安調査庁では原則として活動範囲は当該局・事務所に限られるものの,それ以外の地域での調査がまったく許されないわけではなく,また,担当業務以外でも端緒情報や特異動向を察知した場合には,積極的な報告が求められることから,とりたてて異例なことではない。

(2) 阪神大震災被災地における住民運動調査・選挙情報入手
翌7年には,過激派調査業務の傍ら,新年度から導入された「国内公安動向」調査のリーディング・ケースとして,同年1月17日の阪神大震災以降,兵庫県下の被災地を中心に調査を行った。同調査では,区画整理事業に反対する地元の住民運動(兵庫県神戸市東灘区森南地区),芦屋市市長選をめぐる動向把握,現地ボランティア団体の動向把握・ミニコミ収集等の情報収集を行った(添付資料5)。
具体的には,芦屋市下,森南地区と隣接する地域の住民集会に潜入して,抗議・要請を始めとする開催状況を把握するほか(森南地区からも住民参加),芦屋市市長選については,芦屋市議会事務局長の助野吉正氏等と面談し,同市議会の編成など,関連資料を入手した。また,当方の地元である西宮市を中心に,芦屋市,神戸市,川西市の体育館等公共施設を回り,被災民向けのミニコミ誌等を収集するなどした(添付資料14)。
これらの調査は,必ずしも日本共産党や過激派諸派,右翼,朝鮮総聯といった従来の調査対象団体の動向調査だけを目的としたものではなく,広く「政府・自治体の復興計画に対する阻害行動」を把握することを目指したものである。なお,資料5は,被災地調査にあたって,徳丸邦夫・近畿公安調査局長(当時)が,近畿局並びに兵庫公安調査事務所の調査官に対して,調査の指針を示したものである。

6 文書入手の経緯
私は,昨年12月27日,東京飯田橋シニアワークで開催された団体規制法反対集会に参加し,その席で市民運動家の角田富夫氏より,「近畿局文書」並びに「オンブズマン資料」について呈示を受け,同「文書」「資料」の真正について意見を求められ,本年1月19日に中央区八丁堀の「労働スクエア東京」で開催された同様の集会の席で,同氏より同「文書」「資料」の写しの交付を受けた。
私は退職後も,多数の公安調査庁内部文書を所持していたが,「近畿局文書」「オンブズマン資料」については,いずれも所持しておらず,また作成に関与したことはなかった。

以上述べたとおり,「現下の諸情勢にかんがみ、」で始まる文書及び「市民オンブズマン運動の現状と見通し」と題する資料は,いずれも正規の公安調査庁行政文書の写しである。
なお,叙述にあたっては,「添付資料」として,私が所有する公安調査庁内部文書数点の写しを添付したが,これらの文書は,公安調査庁在職時代,職務の便宜上,当方が自宅において所持していたものであり,その後,保管の都合上,スキャナで読み取った後パソコン・ハードディスク上に,bitmap形式の画像ファイルとして保管していたものを,再度出力し印字したものである(ただし『公友』及び辞令関係書類は除く)。
以上

以上の証言及び引用資料について,作為や捏造が判明した場合には,いかなる刑事罰にも服することを誓います。

氏 名

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