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【モスクワ22日=高木桂一】
旧ソ連国家保安委員会(KGB)の後継組織であるロシア連邦保安局(FSB)の将校が、政権批判を強める改革派野党「ヤブロコ」で選挙運動のアルバイトをしていた大学生二人に接触、同党の内部情報を提供しなければチェチェンの戦場に送り込むと脅していたことが、明らかになった。二人はこれを拒否したが、後に退学に追い込まれたという。プーチン政権下でソ連時代さながらの「恐怖政治」が頭をもたげ始めている現実を示しているといえる。英字紙「モスクワタイムズ」二十一日付によると、FSBのスパイ強要事件は、標的にされたヤブロコのヤブリンスキー代表に、学生が経緯を通報したことで発覚した。同氏は、プーチン大統領、パトルシェフFSB長官、ウスチノフ検事総長に書簡で説明と調査を求めている。
ヤブロコによれば、サンクトペテルブルクのバルト国立大学の学生だった二人は、昨年末の下院選や三月の大統領選の際にヤブロコの地元支部でアルバイトをしていた。五月下旬にFSB将校に大学構内の空き部屋に呼び出され、「ヤブロコは外国のスパイだ」として、同党の選挙資金の調達先や選挙運動の内容などの情報提供を求められた。FSB側は「答えなければ退学させてチェチェンに飛ばす。家族や友人の身の安全を保証しない」と脅したが、二人は「何も知らない」と突っぱねたという。
その後、二人は六月初旬までに大学から突然、退学処分を受けた。その理由を大学側は明確に説明していないうえ、クズミン副校長が「政党を選ぶときは頭を使え」と暴言を浴びせたと学生は証言しており、大学側にFSBが圧力をかけたとの観測が強い。
ヤブリンスキー氏は「FSBの行動のどこに法的根拠があるのか。民主主義を目指すロシアを最悪の方向に招く」と批判しているが、FSB報道官は「ノーコメント」の姿勢を貫いている。クレムリンがこれに関与していたかどうかは不明だが、FSB出身のプーチン大統領の地元を舞台にしたスパイ強制事件は今後、波紋を広げそうだ。