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バイオテロに厚生省が研究班 サミット「臨戦態勢」
防護服、ワクチン用意
厚生省は二十二日までに、生物兵器によるバイオテロを想定した大
規模感染症発生への対策を検討する研究班を発足させた。バイオテロ
研究は、オウム真理教による生物兵器研究が明らかになったことなど
を契機に、警察や自衛隊で進められてきたが、厚生省としては初の取
り組み。研究の一環として七月の沖縄サミット会場周辺に既存の医療
資源を可能な限り投入する対テロ行動計画を作成、来月からサーベイ
ランス(感染症発生動向監視)を強化するなど臨戦態勢に入る。
研究班のメンバーは、山本保博・日本医科大教授(救急医学)を班長
に自衛隊中央病院、国立病院東京災害医療センター、国立感染症研究
所などに所属する感染症や大規模災害の専門家ら。初会合は先月二十
九日に開かれた。
研究申請書によると、かつてアフリカで発生したエボラ出血熱や大
阪府堺市などで流行した腸管出血性大腸菌O157、一九七九年にソ
連(当時)のスベルドロフスクで起きた炭疽(そ)菌流出事故、オウム真
理教が計画していたという生物化学兵器によるテロなどを例に引き、
社会的脅威が現実化している。そこで、自然発生的な感染症だけでな
く、微生物を人為的に用いたバイオテロにも視野を広げ、原因不明ま
たは未知の感染症が疑われる事例に直面した場合を想定した包括的対
応を研究するのがねらいだ。
行動計画案では、致死性の高い天然痘、炭疽菌、ボツリヌス、肺ペ
スト、コレラ、麻疹(ましん)などを警戒。サミット開催前に何らかの
方法で持ち込まれ、原因不明の感染症が多発するというシナリオを想
定している。
また、国立感染症研究所など全国の研究機関に検査・診断を要請
し、感染症ごとに専門家をリストアップして厚生省と結ぶ情報ネット
ワークを構築。想定される全七十二疾患についてワクチンや治療薬を
メーカーや研究所から集め、成田空港にある検疫所から最も危険度の
高い「P4」レベルに対応できる防護服や装備品を現地に送る。患者
が発生した場合の移送態勢、入院施設も決めた。
サミット会場がある福岡、宮崎、沖縄の保健所に疫学の専門家が張
り付き、医療機関から情報収集を行い、すべての症状別に厚生省内の
中央感染症情報センターに報告する。
【バイオテロ】細菌やウイルスなどの病原体を人為的に大量散布
し、感染症をまん延させることで殺傷を狙うテロ行為。致死性の高い
ペスト菌、炭疽(そ)菌、脳炎ウイルスなどの散布が想定される。病原
体はバイオテクノロジーで大量に培養できるため、化学兵器などと比
べて製造コストが安い。発症までの潜伏期間中は相手に気付かれない
のも特徴で、対応の遅れが大きな被害をもたらす。