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2000.06.10 Web posted at: 6:18 AM JST (2118 GMT)
黒人解放運動のカリスマ的指導者で、1968年にテネシー州メンフィスで暗殺されたマーチン・ルーサー・キング・ジュニア牧師について、司法省は暗殺の背後に共謀はなく、逮捕されたジェームス・アール・レイ元受刑者の単独犯行だったとする報告書をまとめ、9日発表した。キング牧師の暗殺については、元FBI捜査官らが、第三者の介在をうかがわせる供述をしたため、司法省が昨年1月から調査に乗り出していた。
キング牧師の暗殺については、当初、逮捕されたレイ受刑者が銃を撃ったと自白し、禁固99年を言い渡され、服役した。しかし、レイ元受刑者はその後、自白を撤回、ほかの人物が暗殺に関与していると主張していたが、98年に獄中で死亡した。
報告書は138ページにおよぶが、「当局によるこれまでの調査と同様、今回の調査でも、キング牧師が、レイ受刑者に罪を着せた共謀者によって暗殺されたという、信頼に足る証拠は見つからなかった」と結論付けた。また、「現時点で、これ以上の調査が必要とは思われない」として、調査を終了する意向を示した。
◎元FBI捜査官の証言は「矛盾が多い」
今回の調査では、自分がキング牧師暗殺を依頼されて金を受け取ったと話していたメンフィスのカフェ所有者、故ロイド・ジョワー氏と、暗殺直後、元レイ受刑者の車から「ラウル」という名の書かれた文書を取り上げたという元FBI捜査官、ドナルド・ウィルソン氏の証言が焦点となった。
ウィルソン氏は98年、30年隠していた事実として、レイ元受刑者の車から、ダラスの電話帳の断片と、「ラウル」という名や電話番号の書かれた紙切れを見つけたと公表した。しかし、報告書は、ウィルソン氏の証言について、問題の文書がのちに盗まれたという点など、「供述に矛盾が多い」と判断した。しかし、ウィルソン氏の主張を完全に否定する証拠も見つからなかったとしている。
一方、ジョワー氏は、キング牧師が暗殺されたモーテルの向かいに店を持ち、マフィアの関係者から10万ドルを渡され、暗殺者を雇うよう依頼されたこと、「ラウル」といった名前の人物に銃を渡され、暗殺者は彼の店の背後からキング牧師を撃ったことなどを主張していた。報告書は、ジョワー氏の主張について、ジョワー氏がこの話を公の場でしたのは一度限りで、のちには説明を拒んでいると指摘。「カギとなるすべての点で、事実上、自分の言ったことを否定している」として、信頼するに足る供述ではないと退けた。
◎「国家的悲劇は常に疑惑がつきまとう」
この疑惑をめぐっては、昨年、テネシー州の陪審員が、暗殺は単独犯によるものではないというキング牧師の遺族の主張を事実認定しているが、報告書はこの事実認定について、「状況証拠の積み重ねによるもの」と否定。「キング牧師暗殺など、国家的な悲劇には、常にさまざな疑惑がつきまとっているものだ」と結んでいる。
キング牧師は1929年ジョージア州アトランタ生まれ。黒人への差別撤廃を訴え、64年にはノーベル平和賞を受賞。68年には25万人によるワシントン大行進を組織するなど、非暴力で公民権運動を推し進めたが、69年に暗殺され、39歳で生涯を終えた。