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ワシントン(CNN) 米環境保護庁(EPA)は8日、子供への健康被害の恐れがあるとして、
米国内で広く普及している「ダーズバン」など、化学物質クロルピリホスを含む殺虫剤の使用を禁止す
ると発表した。ただし、農業用の使用は許可され、在庫は今後も販売されるため、環境団体などは反
発している。クロルピリホスは、日本国内でも、主に農業用・ゴルフ場向けに使われている。
会見でEPAは、ダウ・ケミカル社が「ダーズバン」「ローズバン」などの商品名で販売している殺虫
剤の主成分、クロルピリホスは、子供の神経系や脳の発達にも危険な影響を与える、と結論づけた。
クロルピリホスは数十年にわたって、犬・猫のノミ取り用首輪、園芸・芝生用の殺虫剤、室内用の殺
虫スプレーなどに、幅広く使われている。また、果物、野菜、穀物の害虫対策として農業用にも普及
している。
EPAの決定を受けて、ダウ・ケミカルは非農業用のクロルピリホス製造を事実上すべて中止する
ことを決めた。また、同社に対し、EPAがこれ以上の規制を課さないことが合意されたという。
今後も使用が許される農業用でも、リンゴとブドウなど、特定の農産物には、これまでより厳しい
規制を適用されるほか、トマトへの使用は禁止される。また、商業用の害虫駆除や芝生のメンテナン
スでの使用も禁止される。
日本の販売方針に影響がない
なお、日本でのクロルピリホス製品の販売は、今後も変わらない。ダウ・ケミカル日本によると
「米国の規制で一部使用が禁止になったことで、日本の販売方針に影響があるわけではない」(ダ
ウ・アグロサイエンス事業部門・加藤純部長)。日本では農林水産省の規制によって専門家が検証し
たデータにもとづいて、販売が許可されているからだ。
米国では一般家庭で芝生の害虫駆除に多く使われているが、日本では農業用・ゴルフ場向けが90
パーセント以上で、「家庭の使用によって子供がクロルピリホスに接することは、米国とくらべてか
なり少ない」と加藤部長は話した。
在庫の販売は継続
クロルピリホスは害虫の神経系を破壊する
一方で、EPAは、全米で既に販売中の製品を回収しないと表明し、環境・医療団体などから反発
を受けている。「危険性がわかっているのだから、EPAは直ちに使用を止めさせるべきだ」と、環境
保護団体のリーダー、ジェイ・フェルドマンさんは話した。
「今後もクロルピリホスは店頭に残るため、農業用に使われてしまうだろう」と自然資源保護協議会
の科学者、デイビッド・ワリンガ氏も指摘する。EPAは、問題の殺虫剤を「段階的に撤去」する方
針のため、「ダーズバン」は今後1年半にわたって家庭の園芸向けに販売される可能性があるとい
う。ワリンガ氏はまた、何百もの製品にクロルピリホスが含まれており、知らずに芝生や園芸用の殺
虫剤を買ってしまう人は多いと指摘する。
ワシントンに本部を置く研究機関、環境ワーキング・グループの研究担当リチャード・ワイルズ副
会長によると、「家庭内のダーズバン使用が原因とみられるダーズバン中毒は毎年確認されている」と
いう。このため、同団体ではダースバンに反対する「BanDursban.org」というウエブサイトを立ち上
げた。
ダウ・ケミカルでは、ダーズバンは正しく使用すれば安全かつ有効として、こうした批判を否定し
ている。同社はウエブサイトで、「ダーズバン製品については、人体や環境との関係について何百件も
の実験をしてきた。これほど徹底的に研究が行われた殺虫剤はほかにない」と、反論を展開している。
遅れる殺虫剤の健康への影響調査
ダウ・ケミカルへの規制と合意は、最も早く市場からクロルピリホスを排除できる方法だとEPA
の担当者は話した。非農業用のクロルピリホス製品のほどんどは、今年末までに市場から姿を消すだ
ろう、とあるEPA職員は8日の発表に先立って語っている。
クロルピリホス製品は、神経系を破壊する有機リン酸塩として知られ、子供への健康被害の可能性
がある37種類の殺虫剤のひとつ。議会では4年前、EPAに対し、1999年10月までに、これ
ら37種類の殺虫剤について調査するよう求める法案を可決した。しかし、これまでに検証された殺
虫剤は数えるほどしかない。
「ダイアジノン」も危険?
EPAは昨年、果物や野菜に多く使われるメチル・パラチオン系殺虫剤の使用を禁止した。これは
クロルピリホスと同じく、有機リン酸塩系のひとつ。さらにEPAは先月、研究論文の中で、ほかの
有機リン酸系の殺虫剤、ダイアジノンが、これまで予想されていたよりも危険性が大きい、と結論づ
けた。ダイアジノンも家庭・園芸用として幅広く使われているが、最終的な報告書は今年末までに発
表される予定だ。
1996年の食品品質管理法では、特に子供に危険がある殺虫剤については、EPAが規制または
禁止することを定めている。ねずみを使った動物実験では、クロルピリホスを与えた母ねずみから、
脳に損傷がある胎児が見つかっており、クロルピリホスへの懸念が広がっている。人体への直接の影
響はわかっていないが、動物実験の結果から子供のいる所では使うべきではない、と研究者らはみ
る。
今週初めに非営利団体の消費者連合が発表した報告書によると、94-98年に米国農務省が行っ
た調査では、22の食品からクロルピリホスの残留物が見つかった。このうち、最も高いレベルで検
出されたのは、ニュージーランド産のリンゴ、チリ産のブドウ、メキシコ産のトマト、米国産の大豆
だった。
http://cnn.co.jp/2000/HEALTH/06/08/chemical/index.html