Tweet |
以下は先月掲載された、
日本経済新聞2000年5月18日のコラム「大機・小機」より、
『選挙と増税』です。
総選挙は、六月二十五日に固まったようである。すでにこの総選挙を予定して、自民党を中心に、予算の歳入・歳出両面で甘口の選挙対策用の政策提言が相次いでいる。
そもそも四月に発足した介護保険の保険料支払いの凍結も、この選挙を意識してのことである。相続税の減税や贈与税の課税最低限六十万円の大幅な引き上げなど、選挙民に対するみえみえのリップサービスが続いている。森首相は財政再建を指向せず、相も変わらず公共事業中心の景気刺激が重要だとの政策スタンスを
取っているが、これも国民に負担を課し選挙でマイナスになるのを極力避けたいというのが本音のようだ。
しかしながら、日本の経済社会が置かれた状況を考えればこんな甘口の政策メニューの羅列でなく、増税含みの厳しい政策判断にならざるを得ないはずである。先進国で最悪の状況になった財政赤字累積、高齢社会の下での不可避な財政需要の増大など、二十一世紀に向け増税ないし国民負担率の増加はおおかたの人がやむをえぬシナリオと覚悟を決めているはずである。
ところが一旦選挙に向け走り出すと、本音はすべて隠され人気取り的な政策一辺倒になる。選挙民である国民も、心地よい響きの減税、福祉サービス充実などの方を、前後の見境なく支持する傾向にある。
選挙と増税、これは議会制デモクラシーのもとでは永遠にタブーなのかも知れない。少し古い話になるが、一九七九年の選挙で大平首相は財政再建を理由に一般消費税導入を選挙スローガンにした。選挙民からそっぽを向かれ途中で軌道を修正したが大幅に議席を落とした。また一九八六年の選挙を契機に売上税騒動が起こった。
いずれも増税絡みの選挙が、国民の離反を招いた事件だった。これ以来、選挙の時に増税を示唆するような政策がタブーとなったことは否めない。
今回の選挙もこれで良いのだろうか。政府税調も中期答申を控え、選挙の前に将来の消費税引き上げを出来るだけ鮮明にしない方針のようだ。増税が避けて通れるなら問題ないが、そうでない以上、本音でその是非あるいは代替案を選挙の争点にするべき時機だと思う。これが出来そうにないのは、残念だが実は近視眼的な視野しかない国民の方に責任があるといわざるをえない。
=記事はここまで=
★コメント
別の日には「選ばれた政治家が三流なら、選んだ有権者も三流だ・・」
という意味の記述もあって、日経は、やっと現実ありのままに指摘する事が多くなったぜ、と私は思った。しかし悲しい哉、
そんな記事は絶対多数の庶民の目には触れないし、たとえ目に映っても
もはや読めないし、暗記以上の考察力も理解も期待できないのだ。
今の大学生は日経を見せられても、暗号表の模様みたいに見えているかも知れない。
有権者は、自分が理解できた気になった大衆スローガンにこそ賛同する、
それが日本の民主主義の知的レベルということだ。