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情報分析研修に対する感想
平成5・9・16
調査第2部第2課 丸谷明彦
米国CIAと当庁との間では成立経緯が異なること、組織の規模・権能にも大きな隔たりがあることは、ある程度自分なりに理解しているつもりだった。しかし、実際に分析手法の解説を受けているうちに、その隔たりが予想以上に大きいことに気がつかざるを得なかった。分析担当官の職務が国家ないし連邦政府の政策決定にいささかなりとも是となる方向に活用されることが再衆目的であることは言うまでもない。しかし、その目的のために本当に効率的・効果的手法が絶え間なく追求・検証されているだろうか?
独立行政機関のCIAは大統領周辺に直接的な政策提言はできないことが法により、規定されている。無論「できない」のではなく、「控えている」だけなのだが、これはベトナム戦争、イラン・コントラ事件など数多くの国際政治の事案に翻弄される中でCIAが身に付けた経験則、生き残るための知恵だと思われた。さりとて大統領始め政府首脳も”提言ではない”CIAのリポートを無視することはできない。CIAのリポートの信憑度・解析度が高く、依拠するに足る情報源だからだという。こうした関係はある意味で責任の所在を不明確にする便法でもあり、米国の国際社会に対する影響力を考えた場合、政策決定・遂行の一貫性を失する懸念がないとはいえない。しかし、「今、何が重要」で「どうすれば、国益を守ることができるか」、「そのためにはどのような視点で、どうリポートを書けば最も効率的なのか」、ここまで無駄を廃した明快で簡潔な指針を日常業務で実践している我が国の行政機関、企業がどれだけあるだろうか?確かにCIAとて全てが順調に機能しているわけではあるまい。予算・人的削減、恒常的な残業体制、女性・少数民族の処遇への配慮(我々から見ると過剰な配慮は逆差別のようにさえ思えるのだが・・・)、功名心にかられた若い分析担当官が勇み足の分析を行う例があること等々組織運営上の”枷”は決して少なくないようだ。しかしそうした障害を多様性という積極性に転換し、多方面な新規分野に取り組み、なお且つ政権中枢に一目も二目も置かせる分析の水準を維持する姿勢には多くの学ぶべき点があると思う。そうした姿勢を堅持しているからこそ、職員の多くが高い士気を維持し続けられるのだと感じさせられた。
「我々の仕事は国益を守り、アメリカを強大な国であり続けられるよう努力すること」、研修中何度か耳にしたこうした言葉は「一歩引き下がること」をよしとする我々日本人にとってはそのまま受け止めるには抵抗がある。そうではあるが、それだけの自負を自己の組織、自己の仕事に持っているとは羨ましい。組織基盤が確立しているからこそ、言い得ることであろう。勿論、米国と我が国とでは国情も政情も大きく異なる。当庁には独自の道があって当然だと思うが、「一つのモデルケース」に触れられたことは非常に幸いであった。
今後もこうした研修を通じた交流の継続を願うとともに、第1回の研修ということで米側機関と熱心な折衝を重ねて下さった国際渉外室、総務課、職員課、研修所など関係の皆様方に厚く御礼申し上げます。