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2000 年 5 月 19 日
インターネットバブル崩壊の被害総額は67兆円−。東京株式市場は平均株価が19日、1万7000円割れとなるなどヨレヨレ状態だ。その元凶がソフトバンク、光通信に代表されるネット関連銘柄の大暴落である。投資家の夜逃げや破産は日常茶飯事で、株式市場は死屍累々といったありさまだ。そこで、ネット関連銘柄のうち30銘柄をピックアップし、それぞれの時価総額が今年最高値からどれだけ減少しているかを算出し、その被害額≠弾き出した。
対象としたのは、産経新聞と通信社のブルームバーグが開発した「産経ブルームバーグ インターネット株価」に採用されている30銘柄。
それぞれの銘柄について、今年最高値を付けた時点での時価総額と18日の終値ベースの時価総額を比べ、その差額を算出した。時価総額は、株価に発行済み株式数を掛けた金額で、株主が保有している株式の総額が株価の下落により、どれだけ吹き飛んだかが、一目瞭然(りょうぜん)でわかる。
減少額トップは、“ネット財閥”を標榜する孫正義社長率いるソフトバンク。ネットバブルがピークの時期にあった2月15日に株価6万6000円を付け、時価総額は約21兆8000億円に。2月末時点での東証一部時価総額ランキングでは、トヨタ自動車や東京三菱銀行など並み居る大企業を抜き去り、第2位にランクしていた。
しかし、18日の終値は2万600円、時価総額は約6兆8000億円にまで落ち込み、実に約15兆円が露と消えた。
有力証券アナリストが指摘する。
「孫氏は、時価総額こそが企業の実力を示す尺度と位置付け、その極大化を最大の経営目標とし、孫氏を崇拝するネットベンチャー企業の経営者たちも、こぞってこれに追随した。しかし、投資家の人気投票で決まる株価に基づいた時価総額ほど、あやふやなものはない。しかも、新興のネット企業は市場で取引される浮動株が極端に少なく、わずかな買いでバブル化する。“拝金主義”的な風潮をまん延させたという意味で、孫氏の罪は重い」
減少額2位はNTTドコモ。2月28日の時価総額約43兆8000億円(株価457万円)から18日は約32兆1000億円(同335万円)となり、約11兆7000億円の減少。東証一部の時価総額トップ銘柄だけに、その被害額もじん大となった。
このほか、NTTが減少額5位、NTTデータも8位と、“NTT3兄弟”はそろって上位にランクインしている。
株価の大暴落で窮地に立たされている光通信が減少額3位。2月15日に最高値の24万1000円を付けたが、その後、20営業日連続のストップ安という前代未聞の記録をつくり、わずか3カ月で28分の1の8500円にまで急落。時価総額も約7兆5000億円から約3000億円に激減した。2月末時点で東証一部の時価総額9位に躍進した栄華は見る影もない。
「携帯電話を販売しているだけの小売り企業をネット関連銘柄ともてはやし、しかも、“寝かせ”による水増し販売が露見。投資家への情報公開もずさんで、当然といえば、当然の結果」(市場筋)ではある。
もっとも、光通信の場合、重田康光社長とそのファミリー企業が、発行済み株式の約6割を保有している。保有株の時価総額は4兆円以上も激減し、自業自得とはいえ、最大の“被害者”といえなくもない。
2月22日に株価1億6790万円を付け、話題を集めたヤフーは、約4兆8000億円から約2兆3000億円となり、減少額9位。店頭公開銘柄としては、堂々の1位となっている。
これら30銘柄の減少額の総額は約67兆円。国の平成12年度一般会計予算(約85兆円)をやや下回り、国税収入見込み(約49兆円)を大きく上回る規模だ。日本国民が汗水して稼いだ国内総生産(GDP、約500兆円)の13%が消し飛んだ計算になる。
「ソフトバンクと光通信に投資して数億円がパア。一時は自らも株式公開を考えていたが、すべておじゃん。再起不能だ」(ベンチャー企業経営者)
「毎日、担当のお客が夜逃げした、破産したという話ばかりで、もう慣れっこになった」(準大手証券の営業マン)
「投資家が出した損失を回収できず、経営危機に陥っている証券会社がある」(市場筋)
「大穴を開けた証券会社のディーラーや投資信託のファンドマネジャーの自殺のうわさが絶えない」(兜町関係者)
株式市場は断末魔の悲鳴に満ちあふれている。その影響は投資家や証券会社だけにとどまらない。民間シンクタンクのエコノミストが語る。
「多くの投資家がネット関連銘柄で痛手を負った結果、株式投資に極めて消極的になっており、一時2万円台に乗せた平均株価の回復ピッチは緩慢にならざるを得ない。それどころか、不安定な米株式市場が急落し、投資家がいっせいに手を引き、さらに下げる可能性の方が高い。そうなれば、日本の景気回復の芽も摘まれるのは必至だ」
ネットバブル崩壊のツケは、あまりにも大きい。