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【ワシントン18日=中田雅博】
今春以降、日本や韓国、モンゴルなどアジア諸国で発生し猛威を振るっている家畜のウイルス性伝染病「口蹄疫(こうていえき)」に関して、家畜の病疫情報を収集、分析する国際機関、国際獣疫事務局(OIE、本部・パリ、加盟国約百三十カ国)は十八日までに、各国で検出した口蹄疫ウイルス遺伝子とウイルス抗原を比較調査した結果、すべて同種の「O型」と断定した。有力感染経路として中国が各国に輸出している飼料用の干し草の可能性が急浮上している。このためOIEは六月二十日から二十二日まで東京で緊急対策会議を開催するが、中国は台湾の出席を理由に参加を拒否しており、感染源の特定は難航が予想される。
東京で開催される緊急対策会議は非公開で、関係各国の疫学専門家三十人を招待。米国政府は世界で唯一、口蹄疫ワクチンを保存する農務省の動植物衛生検査所(APHIS)のワクチン・バンクの専門家ら三人の参加を決定した。
APHISの調査によると、口蹄疫ウイルスは七種類の「型」に大別され、それぞれに少しずつ遺伝子構造が違う異株(いしゅ)が存在する。今年三月末、宮崎県で肉牛が日本国内では九十二年ぶりに口蹄疫を発症したケースでは、英国の世界口蹄疫センターでウイルスの遺伝子を分析したところ、新種の「O型/JPN/2000」と判明した。
また、ほぼ同時に韓国の京畿道、忠清南道など三道六市郡の農場で肉牛、乳牛が口蹄疫に感染したが、世界口蹄疫センターの調査で「O型」の異株のウイルスと分かった。
今年二月には、台湾の高雄県の農場で生後二週間以内の子牛、ヤギ四十二頭が相次いで口蹄疫に感染して死んだが、その後、OIEの調査でこのウイルスは「O型/Taiwan/99」(O型金門株)と判明。韓国のウイルスと同型同株と分かった。
ウランバートル発の新華社電によると、モンゴル南部のドルノ・ゴビ県で、四月末から家畜約一万八千頭が口蹄疫に感染する被害が発生。OIEは、このウイルスについても「O型」と特定したほか、ベトナム、タイ、カンボジア、ラオスなど東南アジア諸国でも「O型」ウイルスの感染による家畜の被害が発生していることを突き止めた。
感染経路についてAPHISの上級研究員のマーク・ティーチマン氏は、産経新聞の取材に対して「日本や韓国は中国から飼料用に干し草を輸入しており、有力な感染経路と考えられる」と指摘した。
OIEの関係者は、また「モンゴル、日本、韓国、台湾など地図を見れば中国の周辺諸国がすべて同型のウイルスに感染しており、中国だけが全く何もないとは信じ難い」と語った。
中国政府は、四月三日付の公告で口蹄疫が国内に入り込むのを防ぐため日本、韓国からのブタ、牛、羊とその加工品の輸入を禁じた。しかし中国はOIEのメンバー国であるにもかかわらず、口蹄疫に関しての報告をしておらず、緊急対策会議への出席も政治的理由で断ったという。
北海道では今月十一日に十勝管内本別町の農家の肉牛が口蹄疫に感染した疑いがあると発表。新たな感染の危険性が強まっているだけに、APHISは「有力な感染経路の疑いがあるものについては一日も早く特定するとともに、各国に告知し禁輸措置を取らねば被害は世界中に拡大するだろう」と警告している。
《因果関係は調査中》
農水省畜産局衛生課の話 「飼料用の稲ワラについては、宮崎県の発生農家で中国産を使っていたと聞いているが、北海道では台湾産のものを使っていた。干し草についても米国産などを使っていたようだ。いずれも因果関係は調査中で感染源は特定されていない」
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【口蹄疫(こうていえき)】
ウシ、ヒツジ、ブタなどのウイルス性急性伝染病。発熱や流涎(よだれ)に始まり、口や鼻などに水疱が発生、死に至る場合もあり畜産業への影響が大きい。予防法はなく感染したウシなどの迅速な焼却処分が頼り。一般的にはヒトには感染せず口蹄疫にかかった家畜の肉を食べても人体への影響はない。農水省によると、最後に国内で発生したのは明治四十一年。一九九七年には台湾でブタの間に大流行し中国から密輸された家畜が原因との見方もあったが感染経路は判明していない。