『突発出現ウイルス』はなぜ登場したか(出版資料)

 
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投稿者 佐藤雅彦 日時 2000 年 5 月 19 日 12:21:43:

 『突発出現ウイルス』(EMERGING VIRUSES)
   (ロックフェラー大学スティーヴン・モース助教授編、
            佐藤雅彦訳、海鳴社、1998年)

    昨今大流行の「突発出現」感染症の、
     出現の秘密を「研究」した“古典的名著”に
      各種新型ウイルスの出現と進化についての
       無責任な「科学的講釈」と軍事利用の思惑が
         あけすけに語られている。
 

●ヴェトナム戦争が終結した1970年代の半ばあたりから、新奇な病原微生物による“奇妙な感染症”が、まさに目覚ましい勢いで“突発的出現”(エマージング)を遂げてきました。 最初は「在郷軍人病」(legionnaires' disease)。これは1976年の7月に、ピッツバーグで開かれた米国在郷軍人会の全国大会参加者が、集団で正体不明の肺炎に襲われたことから命名された“突発出現”感染症でした。  のちにこの病原体は新型の細菌であることが判明し「レジオネラ菌」という新たなカテゴリー (細菌分類学上の「レジオネラ属 : Legionnella 」) という菌種が“確認”されたわけです。 現在では幾つかの種類が“新たに確認”され、24時間風呂やエアコンが感染源になることで、日本の一般市民にも知れ渡ることになりました。 日本では「レジオネラ菌」とカタカナ言葉で何気なく使われているわけですが、直訳すれば「在郷軍人菌」ですからね。 この言葉の奇妙さを噛みしめる必要がある。  でも、なんですな……。「レジオネラ菌」ってのは「水中に生息し。空気伝播し、ヒトに病原性を示す好気性細菌」なんですよ。 「好気性」ってことは、野外環境で平気で増殖できる。 こういう病原菌って、たとえばヴェトナムのような湿地帯で生物兵器に使うことが出来れば、とっても都合がいいわけですよ。 むろん戦闘中にばらまけば、友軍もやられてしまう。 だから撤退局面で、イタチの最後っ屁みたいにばらまいて逃走するんですが……。

●1981年に、現在「エイズ」と呼ばれている感染症が米国、そしてフランスでも初めて“公式に確認”されました。 米国の最初の患者たちは肝炎ワクチン実験のボランティア被験者たちに集中していたため、当初から人為感染による生体実験説が語られていました。 エイズの病原体が、国連WHO(世界保健機構)の一定の関与のもとで米国の軍産医学複合体が開発した生物兵器用ウイルスだという仮説については、多くの主張とそれを根拠づける学術的資料があるのですが、億劫[おっくう]なので、ここでは割愛しておきます。   ……で、とにかく最初にパリのパスツール研究所で「エイズの病原ウイルス」と思[おぼ]しきヒト・レトロウイルスが最初に発見され、米国・国立癌研究所のロバート・ギャロの研究室が、そのサンプルを入手して学界工作を進め、「最初に発見したのは我々で、このウイルスこそエイズの唯一無二の病原体である」と世界的に宣伝した。  かくして、「エイズはHIVで起きる死病」であり「HIVは米国・国立癌研究所で発見されたのだから、その診断や治療の世界的主導権は米国が握っている」という2つの迷信が生まれ、定着してしまった。  (ちなみに、この2つの迷信を打破し、「エイズの死亡例の8割がたは栄養失調で起きていることを解明し、栄養療法によるHIV感染者の発症抑止と (HIV感染症の最終段階である)エイズを発症させた患者の延命を試みたガイドブック――『エイズ患者のための栄養療法』(ウェイン・キャラウェイ他著、佐藤雅彦訳、現代書館、1999年)――について、関連資料をΨ空耳の丘6Ψ投稿NO: 6SR279;2000/4/20 「『エイズ患者のための栄養療法』についての紹介資料再録」としてアップしてあります。)   ……それにしても、ヴェトナムって、かつてフランス領で、独立闘争の激化のなかで米国が介入して「ヴェトナム戦争」に発展した。 ついでにいえば、アジアの「エイズ感染の巣」と目下宣伝されているタイ王国だって、東南アジア支配時代以来のフランスの観光リゾートですからね。 ヴェトナム戦争と「エイズ」蔓延とには、興味深い符合がある。  もっと言うと、湾岸戦争症候群の原因は化学汚染――たとえばイラク軍による毒ガス使用説や殺虫剤中毒説――か、せいぜい劣化ウラン弾使用による放射線障害というふうに講釈されていますが、HIVの抗原性を示すマイコプラズマに感染した事例も報告されている。マイコプラズマは非常に単純な細菌の部類に属し(細菌特有の細胞壁を有していない)、ヒトに伝染性の性病や肺炎を起こすほか、細菌では脳組織に感染して痴呆症を起こす可能性も指摘されている。  (だから貞操観念も衛生観念もないアーパー娘たちは、将来かなりの確率で本物のアーパーになる危険性が高い……【笑】。)  つまり、仮に「HIVの抗原性を示すマイコプラズマ」なるものが実際にあるとすれば、HIVという特殊なレトロウイルスの遺伝子を、マイコプラズマに人為的に組み込んだ以外に考えられない。 だから、この報告の真偽について、いっそうの検討が待たれるわけですが。

●「突発出現ウイルス」――つまり「emerging virus」という英熟語――が、この世にデビューしたのは1989年、米国の首都ワシントンにおいてでした。 この用語と概念を考案したのはロックフェラー大学の一介の助教授だったスティーヴン・モースという人物です。 当時のロックフェラー大学の学長は、ジョシュア・レーダーバーグというユダヤ系の分子遺伝学者で、彼は、細菌同士が「エピゾーム」と呼ばれるリング状のDNAをやりとりして形質の劇的転換を起こすという現象を発見してノーベル賞を受けています。 この「エピゾーム」は、のちに遺伝子組換え技術の基本的構成要素である「ヴェクター」として使われるようになった。 つまり環状DNAである「エピゾーム」に “外来遺伝子”を挿入して、それを細菌の菌体内に送り込んでやることで、お望みの形質を、細菌に発現させることができるようになったわけです。 そういう意味では、レーダーバーグ博士は「遺伝子組換えテクノロジー」の土台を作った人物でもある……。  ロックフェラー大学のプロモートによって、米国の学界と軍部(生物兵器対策セクション)の御歴々を集めて開いた世界初の研究会議の記録は、オックスフォード大学出版会によって一冊の本にまとめられましたが、その全訳が、98年に私が訳した『突発出現ウイルス』に他なりません。 この本でモースのような学者諸氏は、突発出現ウイルスの発生メカニズムを、かなり強引かつ無理な論理展開によって自然発生説に“回収”しようとして頑張っているわけですが、現在世界で続々と出現している昆虫媒介性の致死性ウイルスの収集や研究に、ロックフェラー財団とその関連組織がいかに大きな貢献をしてきたかが、あからさまに述べられています。 ついでに言えば、好戦主義者の薮[やぶ]政治屋ジョージ・ブッシュ前アメリカ大統領の母校で、彼もメンバーだった「骸骨団(スカル・アンド・ボウンズ)」 の活動拠点でもあるイェール大学は、ロックフェラー財団謹製の“昆虫媒介性の致死性ウイルス”研究所があり、数年前には南米から持ち帰った新奇な致死性伝染病ウイルスがそこから漏れて、大騒動になっています。

●以下に、『突発出現ウイルス』のあとがきを紹介しておきます。学術的な視点からであれ、陰謀論的な視点からであれ、昨今の「新奇なウイルス」や「突発出現感染症」の噴出現象を“読み解く”には、まずこの本を読むことが出発点となります。  最近、腸管出血性大腸菌「O-157」 の大規模流行がきっかけで――これだって日本で最初に起きた死亡事例は防衛医大からほど遠くない保育園が舞台になったのだが――ニッポン厚生省が米国からほぼ10年遅れの「エマージング感染症」対策とやらに乗り出し、防衛庁の生物兵器研究も予算がついて本格化するようになりましたが、そうした論議のすべてのルーツは、この本に始まっています。  そしてまことに興味深いことですが、日本の感染症対策分野の産官医学複合体の連中は、この本を故意に無視しているようなんですね。  欧米の「emerging virus 」関係の文献を渉猟すると、かならずこの本(むろん原著)が引用なり紹介されているのですが、日本の泡沫学者や木っ端役人の作文や著作の論拠として掲げられているのは、この本から派生してWHOが作文した報告書あたりが起点になっているのですから。 まあ、厚生省の役人や技官やその他の苦力[クーリー]学者のことだから、連中の単純な勉強不足かも知れませんがね……。  なにせ連中は、欧米じゃ「クロイツフェルト・ヤコブ病」感染の危険性から硬膜移植への警告が出されていた時期に――ちょうど「薬害エイズ」が問題化してただでさえ慎重さと警戒心が求められていた時期だったのに――汚染硬膜を平気で使わせていたバカ専門家だもんね(笑)。


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    訳者あとがき

 世間には、それまでは曖昧でとらえがたかったのに、適切な“呼び名”を新たに与えられたことで、はっきりと見えてくる事柄がある。そうした例は、われわれの一般的な社会生活の場面にいくらでも転がっている。
 最近の例でいえば「セクシュアル・ハラスメント」がその典型であろう。犯罪とまでは呼べないにせよ、性差別を根拠にした不愉快な嫌がらせは、おそらく文明が発生して以来、続いてきたはずだ。それは場合によっては親しみや愛情の表現とも混同しやすく、嫌がらせを受ける側にとっては曖昧で、それだけに厄介なものだった。しかし極く最近になって、まさに理念の共和国であるアメリカ合衆国──人類史上のほとんど全ての国家はまず統治の実体があり、それを正当化するために後から理念を付け足した社会であったのに米国は社会契約的理念を宣言することから共同体を建設し始めた例外的な国家であった──の、しかも“学びの園”である大学のなかから、「セクシュアル・ハラスメント」という用語と概念が誕生してきた。(一般社会から隔離され特殊な“封建的”師弟関係が支配的になりがちな大学は、実は性的嫌がらせの温床であり、この問題は米国よりも“学内封建制”の強い日本の大学で遥かに深刻である。)
 この用語が誕生したおかげで性的嫌がらせに対する世間の人々の認知が高まり、嫌がらせと“愛情表現”との境目も、定義しやすくなった。もっとも、文化流行に付きもののことながら、言葉ばかりが先走りして──この場合はニッポンお得意の4文字略語の「セクハラ」だ──概念の乱用が起こる恐れも起きてくるわけだが、新たな概念が社会的普及を遂げる際の、やむを得ない“副産物”といえる……。
 思えば人類の歴史は、新たな名詞を発明して新概念を社会的に確立させてきた歩みでもあった。たとえば近代史は、一言でいえば人間の新たな「権利」概念と、それを言い表わす言葉と、そしてこの新型の「権利」の実現を保障し続けるための社会的装置を整備拡張してきた歴史だったといえるだろう。

 自然現象に関しても、言葉と概念の“発明”は人間の認識と生活能力を拡張強化するための決定的な“道具”であり続けてきた。
 例えば、20世紀に生まれ育った我々は、病気の原因といえば真っ先に“病原微生物”を連想するように文化的に条件づけられてきたが、病原微生物の発見は19世紀後半以降のことであり、西洋医学とてそれまでは(漢方医学の陰陽五行説と同じような)古代ギリシャ以来の占星術的な学説によって病因論や治療論を組み立てていたのである。病原微生物説が確立する以前から冒険的なワクチン接種は西洋で広く実施されていたわけだが、19世紀半ば以降、「病因=微生物」パラダイムにもとづく感染症のコントロールが劇的に成功し、20世紀にはこの衛生学的発想が国防戦略にまで広く採り入れらてきた。 (例えば第1次世界大戦後にフランスは仮想敵国──ソ連とドイツ──を包囲するために中欧「小協商」諸国を「防疫線[コルドン・サニテール]」と位置づけて政略的に利用したし、第2次世界大戦後には米国が共産主義諸国を仮想敵国化して「赤い病毒[ウイルス]」と見なし「封じ込め戦略」を世界的に発動することで「冷戦」を招いた。)  疫学メタファーにもとづく“冷戦”のエスカレーションが「病因=微生物」パラダイムの乱用だったことは明らかだが、このパラダイムが医療の分野でも乱用されてきたことは否定できない。抗生物質や抗ウイルス剤の乱用で薬剤抵抗性の微生物を生み育ててきたのは、その雄弁なる証拠である。

 1970年代は「病因=微生物」パラダイムにとっては有頂点の時期だった。米国大統領ニクソンは“冷戦”のさなかに生物兵器の一方的放棄を宣言し、おぞましい病原微生物による疫病の人為的流行はなくなるものと期待された。73年にはDNA組み換え技術が確立して医学や微生物学の飛躍的な発展が展望できるようになった。国連WHOの世界的な“疫病撲滅プログラム”により「天然痘の絶滅」にいよいよ実現のメドがついたのも、この時期である。しかし第3世界での開発と戦争が激化した1960年代以降、世界の“辺境”では致命的な感染症が次々と出現を遂げていた。そうした“新型感染症”を経済先進諸国が脅威と感じるようになった決定的な契機は、やはりAIDSの出現だったといえるだろう。
 衛生学や医学が進歩し、普及した現代社会は、もはや感染症の脅威を克服できたはずだったのである。ところが科学技術文明の栄華をあざ笑うかのように“新型感染症”が続々と出現し始めた。この事態をどう認識し、そのコントロールに向けて何をなすべきか?  1980年代のエイズ騒動のさなかに、そうした問題意識から生まれたのが、「emerging virus(突発出現ウイルス)」という新たな用語と概念であった。その考案および提唱者はロックフェラー大学のスティーヴン・モース助教授で、この用語と概念は1989年に政都ワシントンで開かれた「Emerging Viruses:The Evolution of Viruses and V iral Diseases (突発的に出現し続けるウイルスたち:ウイルスおよびウイルス病の進化)」 と題する専門家会議で初めて公式的な“社会的デビュー”を果たしたのである。同会議の組織役と議長をつとめたモースは、会議の成果にその後の学問的進展をも加えて1993年にオックスフォード大学出版会から『Emerging Viruses』と題する書籍を発表した。本書は、その全訳である。

 本書は「突発出現ウイルス」という新概念を設定することで、ウイルスと疾患とそして人間生態系との関係をまったく新たな視点から捉え直そうという野心的な学際領域の創立宣言だ。 論文執筆者の多くは微生物学およびウイルス学の分野で指導的な活躍をしてきた学者であるが、軍の生物戦争関係者が少なからず含まれているのが、この会議(および本書)の特徴といえるだろう。 本書に盛られた内容は既存のウイルス学の領分にとどまるものではなく、昆虫学や生態学、あるいは歴史学・地理学・政治学・社会学など、極めて広範な分野に及んでいる。それに、扱っている問題が“人類の生存”さえも脅かしかねない深刻な“生物災害”であり、そのコントロールのために政策的な動員が不可欠であるとの認識に基づいて、ウイルス学の専門家以外にも最先端の知見を紹介しようという意志が全編に溢れている。

 本書には、農業分野において1960年代以降に他国籍アグリビジネスや国際金融機関が領導してきた“緑の革命”の、その指令塔的存在であるCGIAR (国際農業研究協議グループ) と主導的スポンサーとなったロックフェラー財団への賛辞がたびたび登場する。 しかも 「突発出現ウイルス」 という概念の“産婆”役はロックフェラー大学の学者たちに他ならない。 そこで若干の説明が必要だと思うが、石油王ジョン・D・ロックフェラー(1839〜1937年)は独占商法で稼いだ多額の富を“慈善事業”にも投入した。 ロックフェラー財団は1913年に創設されたが、シカゴ大学(1892年創設、現在は“金融工学”研究開発のメッカ)とロックフェラー医学研究所 (1901年創設、黄熱病や小児麻痺の防疫対策や臓器移植用革新技術の研究で有名であり野口英世の出世舞台として日本でも知られる) は、彼がアカデミズム分野にのこした最大の遺産であり、後者は1954年に再編されてロックフェラー大学に名称を変え、生物医学研究の重要な“頭脳拠点”として現在に至っている。

 本書は、最も洞察力のあるエリートたちが最先端の知識をもとに新型の学際分野を構築しようと企てた“議事録”といってよい。これを読むと知的冒険の心意気がひしひしと伝わってくる。私(佐藤)は米国の医学分野の専門誌をつうじて、ワシントン会議の開催直後から「突発出現ウイルス」研究の動向を追跡してきた。 93年以降、まるで何かの計画みたいに次々と“突発出現感染症”が現われて世界的規模での関心が否応なく高まり、日本でも「エマージングウイルス」とか「新興ウイルス」という意味不明瞭な官僚的訳語とともに、こうしたウイルスへの防疫対策が議論されるようになったが、全ては89年ワシントン会議と本書が出発点なのである。


 もっとも、訳者として私見を言うなら、「突発出現ウイルス」の発生要因として最も重要なのは遺伝子工学による改造生物の意図的および過失的な環境放出であるのにそれを無視しているのは不可解だ、という感想を抱かざるを得ない。 例えば第11章は「ウイルスがあらかじめ(アフリカのような)人跡未踏の地でヒトの病原体として充分な進化を遂げ、その後、文明世界に運ばれて“突発出現”して猛威を振う」という説明図式を提示しているが、これは第1章でレーダーバーグ博士が批判した“旧約聖書的な個別創造説”の発想と変わらない。 ダーウィン進化論の発想に従うなら、ヒトに対するウイルスの親和性や病毒力はヒトとの共進化のなかで洗練されたと考えるべきではないか。 モース博士の第2章の概説が典型的に示していることだが、本書は既存のヒト病原体が「交通」によって文明社会に運ばれた、という概念を強調しすぎるきらいがある。 現実には人為的に新種の生物を“個別創造”することはウイルスや細菌の次元では既に可能なのであり、この点を殊更に軽視しているように思えてならない。 更に言えば、軍事的な新型病原体の脅威はDNA組み換え技術が登場した当初から、大方の学者の楽観論とは裏腹に、深刻な問題であり続けたし、その危険性は今や公然の秘密となっている。 1970年代の半ばに米国の学者が音頭をとってDNA組み換え実験の一時的停止が実施されたが、それが可能だったのは遺伝子操作技術を専門学者が独占しておりコントロールできるはずだというアカデミシャンの慢心と、旧式の細菌兵器禁止条約が有効であり遺伝子操作技術の軍事利用はないはずだというナイーヴな思い込みが働いたからだった。しかしその米国でさえ80年代に入った途端に国防総省がDNA組み換え研究に手を染め出し、後に“湾岸戦争症候群”との関係を疑われるようになった神経毒の研究や、腸管出血性大腸菌O-157型で知られるようになった赤痢菌毒素産生能力を持つ大腸菌の開発などを実施して当時の世間を騒がせた。HIVの生物兵器説の真偽はともかくとしても、「呼吸器感染しうる新型HIV」作出の危険性を報告したロバート・ギャロらの論文 (Science,1990;247 : 848-852) などで明らかなように、実験の副産物として“突発出現ウイルス”が生まれる可能性は少なくないし、80年代以降にレトロウイルスの研究が白熱化し、ポリオーマ(DNA)ウイルスでの安全検証実験に基づく70年代の組み換えDNA実験“安全神話”が成り立たない次元での世界規模でのレトロウイルス遺伝子操作が盛んに行なわれ、“突発出現ウイルス”発生の可能性は今や爆発的に増えている。最近ではプラスミドや細菌を媒介しないPCRのような核酸クローニング技術が普及したが、この実験廃液だって不注意に取扱えば“突発出現ウイルス”や“突発出現細菌”の発生の温床になりうるのだ。

 邦訳ではウイルスの名称は現地語読みの音訳表記を原則とし、専門外の読者にわかりやすいよう、用語の意味や概念を可能なかぎり訳注で解説した。実をいえば生物科学の特に実験中心の領域では欧米産の概念道具をそのまま借用しており、大部分の手技や道具には定訳すらない。同業者間は符牒でも通用するが、専門以外の読者にはそれでは通じないので、具体的で明快な訳語を工夫したものも多い。
 本書の重要性をいちはやく認識し、邦訳出版に尽力された海鳴社の辻信行社長と、最善のアドバイスで最良の書籍を製作された渡部基之編集長に感謝を捧げる。
                   1998年11月30日   佐藤雅彦    

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     (あとは、
      この本を買うなり借りるなりして、
      じっくり読むことを お勧めします。)



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