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週刊ポスト5/26号
日本の新聞を読む
各紙「少年凶悪犯罪」報道
民俗学者 大月隆寛
果して「17歳」は重要な暗合なのか?メディアが解くべき素朴な謎はまだまだ
たくさんある
ナントカに刃物、とはよくいった。名古屋、そして九州のバスジヤックとここ一
連の事件報道を眺めてみると、例によって17歳が何か大変な暗合のように語ら
れている。でも、それってつまりは「酒鬼薔薇」@14歳の数年後ってだけのこ
と。それにナントカに刃物系事件は去年の9月にも池袋や下関で連続して起こっ
ているし、そっちは20代、30代が犯人だった。たまたま10代ってだけで大
騒ぎするのはいささか芸がない。
また、最近この種の事件が起こると、新聞から雑誌、テレビに至るまで一斉に犯
人の家庭環境や学校での立ち居振舞いなどを嗅ぎ回るのがお約束になっている。
その効率化はある意味すごいのだが、その一方で落ち着いた背景報道につながら
ないうらみも残る。卒業文集に書かれた言葉なんぞ争って報道するより、教員一
家に育った意味などを腰すえて解きほぐす2次報道の方がよほど役に立つ。
何より、いくらココロに傷害があるとはいえ、飛び道具も爆弾も持っていない刃
物一丁のガキにいい大人10数人がいとも簡単に制圧されちまったのはなぜだ。
男の人は何もしてくれなかった、という女たちの発言にこそもっと突っ込んで欲
しい。タチの悪い事件ではあるが、手のつけられない粗暴さというわけでもな
い。そのへんの不気味さがまず素朴に謎なのだ。
もうひとつ、個人情報の流出はもとより、某掲示板に犯行直前に犯人が書き込ん
でいたことで、新聞その他のマスメディアがインターネットを眼の仇にし始めて
いる。久米宏は「匿名は卑怯だ、実名でものをいえ」なんていってたけど、は
て、テレビも新聞も署名でものいってましたっけ。ネットに象徴される世間の
「気分」とうまくつきあう方法を考えないと、「権威」ふりかざすマスメディア
はますます世間から浮いてしまうことになりますぜ。