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Webリンクも場合によっては犯罪に--大阪地裁が初判断
「Webページからのリンクが,事と場合によっては犯罪行為となる」---。3月30日,こうした趣旨の判決が大阪地方裁判所で下された。
この判決,Webによるリンクが犯罪のほう助となるか否かを巡って争われたことに対する,国内で初の判断となった。Webページ開設者に与える影響は極めて大きい。あるページに自分のページからリンクを張ったことによって,意識する,しないに関わらず,リンクを張った人が「犯罪のほう助者=犯罪者」になってしまう可能性があるからだ。
裁判のてん末はこうだ。横浜市南区の木内卓也被告(33歳)が,自ら開発した画像処理ソフト「FLマスク」(シェアウエア)を自分のWebページを通じて販売していた。このFLマスクには,いわゆるわいせつ画像にかけられたモザイクを除去する機能を実装していた。この会社員は同じページから,わいせつ画像を多数掲載するWebページへのリンクを張った。問題なのは,FLマスクを使えば,リンク先のわいせつ画像にかけられたモザイクが簡単に除去でき,男女の局部を見ることができてしまう。ちなみにリンク先のWebページを開設していた会社役員(33歳)は,すでに刑法175条(わいせつ物頒布等の禁止)に基づく有罪判決を受けている。
今回の裁判で争点になったのは,FLマスクを販売しつつ,同ソフトを使えば簡単にモザイクがはずれるようなわいせつコンテンツを掲示していたWebサイトにリンクしたことが,刑法175条を構成する犯罪のほうじょ助(刑法第62条)に該当するかどうかである。
大阪地裁の川合昌幸裁判長は「わいせつサイトにアクセスするルートを増やし,わいせつ図画が多くの者の目に触れるよう,犯罪を助長した」との理由で,被告会社員に懲役1年・執行猶予3年(求刑・懲役1年)との有罪判決を言い渡した。なお判決のなかで川合裁判長は「インターネット上であっても不特定多数にわいせつな情報を流布することは,憲法上においても公共の福祉による制約を免れない」とし,「これを処罰することは,インターネット上での情報発信の自由を侵害することにはならない」との判断基準を示した。
この判決,法曹界でもネット・ユーザの間でも,賛否両論が巻き起こっている。記者個人は,極めて妥当な判決と見ている。裁判長の判決理由通り,被告がわいせつサイトにアクセスするルートを増やしたことは,否定できないからである。また,リンクというインターネットの利用特性に一定のルール(枠組み)を設けた点で,画期的な判決と言えよう。
気軽なリンクが「犯罪ほう助」に
判決の骨子は,「法に触れるようなサイトにリンクを張った場合,犯罪のほう助となる」とした点だ。法に触れるサイトは,わいせつサイトばかりとは限らない。Webの世界では著作権法や証券取引法に違反するサイトが氾らんしている。気軽にリンクを張った先が,法に触れるサイトである場合もあり得るのだ。
すると相手先サイトが違法な行為をしている(あるいは助長している)と知ってリンクを張った場合はもちろん,それを知らずにリンクした場合でも,「犯罪のほう助」に問われる可能性も出てくるのだ。ちなみに刑法では,第38条で「罪を犯す意思がない行為は罰しない」としながらも同条3項で「法律を知らなかったとしても,そのことによって,罪を犯す意思がなかったとすることはできない」と規定している。
具体的には,著作者に無断でMP3のデータ化した楽曲や,同じく無断でアプリケーション・ソフトなどを蓄積し,ダウンロード可能にしたサイトなどが,著作権法に違反する「違法サイト」に該当する。また株価操作を狙っての風説の流布やインサイダー情報提供を目的としたアングラサイトも,証券取引法に違反する違法サイトとみなされるケースもあり得る。相手先サイトの内容によっては,単に「面白いサイトがあるから自分のページからリンクをしよう」とする気軽な行為そのものが,犯罪として問われかねないのである。
今回の判決は,まだ法解釈として確定したわけではない。まだまだ議論の余地のあるところだ。しかし,リンクが犯罪ほう助(=犯罪)となりうるという解釈が生まれたことは事実である。Web開設者は,安易なリンクを慎むべきであろう。
(田中 一実=インターネット局ニュース編集部・副編集長)