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福岡市の女子中学生(14)を含む少年らの集団覚せい剤使用事件で、福岡西署に逮捕・補導された少年らは約三年前から覚せい剤を使用、女子中学生は「小学生時代から打っていた」と供述していることが分かった。同署は補導した同市の無職少年(16)を新たに覚せい剤使用容疑で逮捕、同事件の逮捕者は主犯格とされる無職山口良則容疑者(34)を含め計四人になった。学校を休みがちでシンナーの補導歴もあった少年たちの“転落”に、周囲はなぜ歯止めをかけられなかったのか。関係者のショックは大きい。(社会部・阪口由美)
学校も気付かず
「息子が幻覚症状のような言動をする。薬物を使っているようだ」。摘発は二月下旬、グループの無職少年(16)の母親が同署に相談に訪れたことがきっかけだった。
覚せい剤にかかわった少年は逮捕、補導されたメンバーを含め十数人とみられ、大半が同じ中学の先輩、後輩の関係。多くは中学時代に使用を始めたが、補導された中学三年の少女は「小学六年のころから打ち始めた」と供述している。
たまり場は一部の少年宅などで「昼間から集まることもしばしばだったようだ」と捜査員。少年らが通った中学の校長は「休みがちな生徒は家庭訪問などを繰り返している」というものの「事件のことは初めて知り、驚いた」と当惑する。
注射1回1万円
「シンナーよりいいものがあるぞ」。山口容疑者と知り合ったのは一九九七年夏ごろ。初めの数回は「無料」。調べに対し、少年らは「シンナーよりスカッとした」。少年が注射をせがむようになると、同容疑者は一回約一万円を要求した。逮捕された少年は「最初は親の金を盗んだり、かつあげ(恐喝)したりした。全部で三十万円くらい払った」と供述する。
金が払えないと、暴力を受け、万引を強要された。少年らは山口容疑者の車でスーパーへ。高級洋酒を大量に盗みだし、半値程度で売りさばいた。少年の一人は「万引は嫌だし、山口容疑者は怖かった。でも、薬がほしくてどうしようもなかった」と話している。
防止教育徹底を
山口容疑者を恐れ自宅にこもったものの、薬欲しさから同容疑者の覚せい剤仕入れ先の市内の男性(46)宅を訪ね、使用を繰り返した少年も。同署はこの男性も逮捕状を取り行方を追っている。
捜査を通じ、薬物依存の恐ろしさも浮き彫りになった。県警は少年の薬物乱用防止を訴えるキャラバン隊を編成するなどしてきたが、今回摘発された少年の一部は「電柱の陰にだれかがいる」「猫が言葉をしゃべる」と幻覚まで訴え、一人は入院。注射器の使い回しで三人がC型肝炎に感染した事実も判明した。
薬物依存の治療に取り組む福岡県大野城市の乙金病院精神科の園本建医師は「覚せい剤を使い始めると、やせたり、無気力になるなど目に見えて変わる。なぜ周囲が早く気付かなかったのか」と指摘。「家庭や学校だけで問題を抱え込もうとすると事態は悪化するだけ。警察、病院と連携して対処し、薬物防止教育を徹底すべきだ」と訴えている。
[西日本新聞2000年04月24日]