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▼にっぽん人の記憶20世紀〜第65回コンビニB「万引き地獄」に夢破れ
頼れぬ本部、敵は内部にも
「オバさん、これ使わなかったから三人も子供がいるんでしょ」。コンドームを盗んだ近所の小学四年の少女を捕まえて説教すると、少女は商
品を床に投げ、いきなり踏み付けた。
スーパー店長から脱サラした夫と、大手チェーンとフランチャイズ（FC）契約を結びコンビニを始めた後町清さん（60）にとって、店を経営した十二年間は、″万引き地獄″との悪戦苦闘の連続だった。
一九八三年の開店初日、男子中学生の万引きを発見した。警察に届けると、被害調書をとられるだけで三時間。すべて届けたら、仕事にならないと悟った。
女性の下着を万引きした少年を取り逃がした時には、現場が映ったビデオテープを学校に持ってゆき、事情を説明して指導を頼んだ。ところが、しばらくしてやって来た父親はこう言い放った。「ビデオはでっち上げだ。わしらはこの地で何十年も商売している。新参者が、いつまでも商売できると思うなよ」
高い特約料を払うかわりに、FC本部派遣の指導員が、経営手法など指導してくれる契約だったが、万引きなどのトラブルについては、全く頼りにならなかった。逆にクリスマスケーキを百個売れと押し付けたり、店にいた当時四歳の三女を殴って、「部屋にカギをかけて押し込んでおけ」とどなる始末だった。
万引きや売れ残りの損失は店側でかぶる契約で、後町さん夫婦は少しでも利益を出そうと、睡眠時間を削って働いた。それでも、経費を引くと、三万円しか残らない月もあった。
開店から十二年目の冬。夫が店で倒れ、救急車で病院に運ばれる途中に亡くなった。
五十七歳だった。葬儀から二、三日後、本部から「契約者が死亡したから一日も早く店を出るように」と通告された。
しかも、「中途解約だから違約金を払え」とまで。
店を明け渡したのは、四十九日の法要の直後だった。
「『一国一城の主』という夫の夢の結末は、一千数百万円の償金でした」。恨みを言わず前向きに生きようと努力しているが、「五年たっても、若い指導員に嫌みを言われ悔しがる実の夢を見てしまうんです」。
☆
コンビニ経営にとって、万引き以上に深刻なのが、店員らによる内引き≠ｾ。九州のあるコンビニ経営者（54）は、多額の現金が不足しているのを不審に思い、防犯カメラの向きを変えてみた。するとビデオは店員らの犯行≠そのままとらえた。
一人の店員に映像を見せ、問いただすと、驚くべき事実を語り始めた。なんと十一人の店員全員が結託し、大量の商品を日常的に店外へ持ち出していたのだ。
税理士の試算では、被害は三年間で千四百万円以上に上った。十一人の中には、親の会社が倒産したため無料でアパートに住まわせ学費も立て替えてあげた男子学生や、就職の世話までした女子学生もいた。
それでも店主は、店員らの将来を考え示談で解決しようしたが、全く罪を認めない者や、「自分たちが不正をしているから、警察にも行ききらんとやろ」とまで言う店員の親もいた。
そこでやむなく、示談に応じなかった八人を損害賠償で提訴。裁判所は「不正は日常的に繰り返されていた」と八人の責任を認め、賠償を命じた。
「我が子のように面倒を見たつもりだったのに……。もう、人を信じることはできません。それが情けなくて…」。
今では日々、独自の方法で内引き被害がないかチェックしている。
☆
若者が欲しがる品ぞろえを追求し、発展してきにコンビニは、消費者が欲望を満たすためにやって来る場所でもある。だから、レジの奥からは、むさ出しの欲望をコントロールできなくなった私にちのゆがんだ姿が、一層際立って見えるのかもしれない。
民間のコンビニ調査機関（MCR）の推計によると、昨年のコンビニの出店は三千四百五十一店（歴代三位）だったが、閉店数も二千二百十三店と初めて二千の大台を突破した。本部の試算ほど利益が上がらないなどの契約トラブルが、訴訟にまで発展しているケースも増えている。成長神話の真には、明るい外見とは異なった陰の部分もまた存在している。
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