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文部省は、東京大医科学研究所(東京都港区)や癌(がん)研究所(同豊島区)など全国約10カ所の研究機関に、患者から採取したがん細胞を保存する「腫瘍(しゅよう)バンク」を創設することを決めた。今年度から4年計画で、乳がんや大腸がんなど12種類のがん細胞を全国の病院から集めて遺伝子解析を行い、数千人規模のデータを蓄積し、がんの予防、診断、治療に役立てる。同様のバンクは米国にあるが、日本では初めて。実施主体の「がんゲノム推進委員会」は「全患者から文書で同意を取って実施し、情報は厳重に管理する」としている。
がんは1981年から日本人の死因のトップで、現在では3人に1人ががんで死亡している。しかし、同じ臓器のがんでも患者によって薬の利き方や転移の仕方などが異なり、抗がん剤は約2割の患者にしか効き目がなく、投与前に効果もつかめなかった。ところが、東京大の研究グループが最近、食道がん患者約20人のがん細胞遺伝子の解析から、患者ごとに抗がん剤の効き目を事前に把握するという研究成果をあげた。
がん関連の複数の遺伝子と、薬の種類ごとの効果の有無との相関関係が解明されれば、患者ごとに治療効果が出る薬だけを使うという「オーダーメード医療」も可能になる。こうしたことから、文部省は毎年数億円を投入し、12種類のがんについて肝臓、肺など部位ごとに年間100〜200サンプルを収集し、遺伝子解析を実施する。
バンクは、大腸がんは東大医科研、肺がんは愛知県がんセンター(名古屋市)、脳しゅようは熊本大(熊本市)などと種類別に設置する。治療効果を追跡調査するため、住所、氏名、生年月日など患者の個人データ付きでがん細胞を集めるが、患者本人の同意を必要とし、同意が得られない場合は個人を特定するデータは添付しないか、細胞そのものを利用しない。
また、情報管理を徹底するため、バンクを設置する各研究機関には、情報管理責任者の任命を義務づける。個人データはフロッピーディスクで金庫に保管し、コンピューターネットワークで接続できないようにする。ほかの研究機関がデータを利用する場合、同推進委内の審査委員会で研究の妥当性をチェックし、個人が特定できないようにして提供するという。
同推進委員会委員長の中村祐輔・東京大教授は「患者に(個人データ提供を)拒否されても研究を進めるという姿勢はもはや通用しない。基礎研究を治療に活用できるよう成果は直ちに公開し、医師・研究者への国民の信頼を高めていきたい」と話している。 【田中 泰義】
[毎日新聞4月18日] ( 2000-04-18-00:30 )