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イトーヨーカ堂グループの「決済専門銀行」の設立が、産みの苦しみを味わっている。スンナリと認可が下りると思った矢先、自民党から予想外の風圧が強まってきたためだ。金融当局とヨーカ堂の確執も見え隠れし、「銀行免許の申請がいつできるのか先が読めない」(佐藤信武副社長)という事態に。十三日発表した決算も心もとない結果だっただけに、“第二の創業”の出発点とされる銀行参入問題が、改めてクローズアップされている。(大久保俊彦)
《官僚確執で遅れ》
「新銀行設立の準備はしゅくしゅくと進めている」−。ヨーカ堂の宮内章常務は十三日、決算発表後、こう述べる。が、新銀行の設立準備は思うように、はかどっていないのが現状だ。
ヨーカ堂が、新銀行の採算性を見極めることができないため、金融再生委員会と金融監督庁に提出する新銀行の事業計画書を取りまとめることができないからだが、それとともに、ヨーカ堂と金融当局の反目が影を落としている。
「金融再生委員会の幹部と、ヨーカ堂の非常勤顧問で新銀行設立のため金融当局と折衝している畑山卓美氏とが大変な不仲で、ぎくしゃくしている」
金融関係者が、こう明かす。
畑山氏は日銀出身だが、平成十年に金融再生委員会・金融監督庁に出向したことがある。その出向時、その幹部と意見が対立。そのしこりが残り、いまでも確執があるという。
このため両者の間で、新銀行について率直に語り合う雰囲気は薄く、冷え込んだ関係に危機感をもったヨーカ堂は最近、畑山氏を新銀行設立のプロジェクトから外す決断をしたほどだ。
《総選挙の余波も》
さらに、「異業種の銀行参入は尚早」と自民党の相沢英之金融問題調査会長が発言。十三日にも相沢会長は「金融再生委員会は(異業種参入)問題をイージーに考えている」と繰り返した。
反対の理由は、現行の銀行法では銀行子会社の親会社に対する検査ができないことなどだ。
ただ、それだけではない。異業種からの銀行業参入が、中小の金融機関の経営に打撃を与えかねないとの懸念がある。さらに、解散・総選挙も控え、中小金融機関の既得権を侵すような政策に消極的になっている、とも受け止められている。
このため、金融当局が四月にも提示するとされていた異業種の銀行参入基準を示したガイドラインの公表も先延ばしになる可能性が高まっている。“政治の渦”に巻き込まれた格好のヨーカ堂だが、「まさか、免許申請が総選挙の後になることはないだろうなあ」といらだちは募る一方だ。
《決済だけでは…》
「個人向け融資をしない限り、ヨーカ堂銀行の採算は期待できない」
大手銀行は声をそろえて、こう断言する。ヨーカ堂が目指す決済業務だけでは安定した収入は得られない、というのだ。
ただ、個人向け融資を手掛けると、銀行の所帯も拡大する。ヨーカ堂が描く従業員百人程度の銀行とは、ほど遠いクラスの銀行が誕生する。
個人向け融資業務について、ヨーカ堂は「新銀行は銀行と提携をするので、融資業務は銀行が扱い、決済をヨーカ堂が担当する方法もある」と話す。銀行が決済業務の一部をヨーカ堂銀行に外部委託する考え方だが、いずれにしても、事業計画の骨子はまだ決まっていない。
ヨーカ堂は当初、八月から子会社のコンビニエンスストア、セブン−イレブン・ジャパンの店舗に現金自動預払機(ATM)を設置する計画だったが、四月中の免許申請が困難とみられるだけに、今夏から首都圏のコンビニでATMが動き出す光景はだいぶ先になりそうな雲行きだ。