Tweet |
週刊金曜日第121号(1996.5.10)
風速計『カルト集団と真の知識人』本多勝一
カルト集団「オウム」の主謀者(麻原彰晃)が初公判に出廷した。いかなる犯罪
者にも人権があることは事実だが、それは「まともな人格のない生物」としての
人権を前提として扱うべきだろう。法廷での主謀者の態度は改めてそう思わせ
る。「独自の宗教論」とか「宗教的な用語」を麻原が語ったと報道されている
が、こんなものを「宗教」扱いすべきではあるまい。まともな人格のない生物に
よるカルト論やカルト語であって、これを宗教扱いすることは、あたかも禁治産
者に全財産を預けるようなものだ。
この生物がいつの日か「まともな人格」を回復あるいは獲得することがあるのだ
ろうか。法廷でこの生物を観察した宗教学者・浅見定雄氏は、その可能性がきわ
めて薄いであろうことを暗示している(公判当日のTBS「ニュース23」)。
また浅見氏は、このカルト主謀者を裁く法廷に、一種の絶望感を覚えているよう
にも思われる。こんなかたちの裁判をやっていっても、悪魔的カルト集団発生へ
の根源的病理退治にはならぬのではないか。同種のカルト集団に反省をせまるこ
とにもならず、いずれまた同種の事件が起きて対症療法だけで時が流れてゆくの
ではないか……。
「同種のカルト集団」の一例としては、たとえば本誌71・72号で浅見氏が指摘し
ている統一協会がある。霊感商法などであちこちに被害者が出ていて、この三月
二一日にも福岡高裁で有罪判決があったばかりだが、いま東京・世田谷区の成城
や北海道・清水町などに新たに侵入して、住民との間で〃戦争〃が始まってい
る。こうしたカルト集団の正体を早い時期から見破り、だまされた信者たちの救
済に生命の危険をさらしてきた浅見氏は、実行力と勇気のともなわぬニセ知識人
の多い日本社会にあって、数すくないホンモノの知識人といえよう。
その浅見氏をかこんで、この四月二三日に仙台でささやかな祝賀会が開かれた。
木誌75号のこのコラムで「こんな〃宗教〃でも信者はいる・再説」と題して、も
う、つのカルト集団「幸福の科学」に浅見氏が訴えられたことを報じたが、その
裁判が浅見民側の全面勝訴を内容とする和解として決着したことを記念するお祝
いである。本誌を読んで「浅見さんを支援する会」に入会された方もかなりおら
れたので、ここに報告しよう。私も出席して、弁護固の先生方のほか、統一協会
と戦う「全国原理運動被害者父母の会」などの方々とも知合いになれた。(この
会の二五一二人が東京都に提出した統一協会による被害防止・救済の請願は、三
月二八日に採択されている。)
カルト集団は、なにかというと告訴・提訴で市民を脅迫してくるが、こんな「乱
訴」など全然問題にすべきでないことを示した点でも、今回の勝利は意義深い。
カルトと戦う住民の皆さん、告訴などはむしろ歓迎して、法廷でスポーツを楽し
むつもりで戦いましょうネ。