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キリスト教右派の巻き返し 投稿者:
投稿日:12月31日(金)19時48分43秒 ■ ★
米で「進化論」に続いて「ビッグバン理論」も追放
20世紀の科学をリードしてきた米国で、科学の足元が揺らいでいる。「進化論」ば
かりでなく、宇宙の始まりを説明する「ビッグバン理論」まで、理科教育から締め出そう
という動きがこの夏以来、続いているのだ。いずれも現代科学の根幹を成す理論だが、ヒ
トも宇宙も「神が特別に造った」とする聖書の記述をかたくなに信じるキリスト教原理主
義の宗教右派が、各地で教育委員などに働きかけて巻き返した。科学界も反撃を始めた。
科学の世紀は、その主役である米国で、なんとも騒々しい締めくくりになろうとしている。
●あくまで学説
米南部と中西部の五州がこの5カ月の間に相次いで、公立の中学や高校の教育課程から
進化論を排除する方針を打ち出した。いずれも政治的には保守派の有力な州である。
イリノイ州とケンタッキー州は、進化の代わりに「歳月に伴う変化」というあいまいな
用語を使うよう義務づけた。オクラホマ州は、全教科書に「進化論はあくまで学説のひと
つ」という断り書きを付けた。人類がサルから進化したと生徒に覚え込ませないためだ。
震源はカンザス州だった。州教育委員会(10人)が8月、6対4のきわどい採決で、
進化論とビッグバンを「一部の学者の信念に過ぎない」として教育課程から外すことを決
めた。
「今どき、神がアダムとイブを造り、私たちはその子孫だなんて、小学生だって信じな
い」。カンザス州の公立高校3年生ケーティ・グリフィンさん(17)は憤る。同じ高校
で生物を教えるケン・ビンマンさん(60)は「外国と同水準の教育を受けられないカン
ザスの子供たちがかわいそう」。
進化論追放に奔走した州教育委員の1人、公認会計士のジョン・ベーコンさん(37)
はいたって冷静だ。「宗教の問題と受け止められるのは心外。証明が不十分で、実験で確
認できない新興学説を定理のように教えるのは有害ではないかと指摘したまで」
●進化論支持1割
創造説教育を推進するのはどんな人々なのか。探し当てた「創造説科学協会」という団
体の本部は、ミズーリ州の平原にポツンと立つブルーベリー栽培農家だった。本部長トム・
ウィリス氏(64)は大学で物理を専攻し、大手コンピューター会社で26年間働いた後、
信仰に専念するため農場を始めたという。
「魚がは虫類に、サルがヒトに、進化するさまを自分の目で見た科学者がいるのか。そ
んな理屈を科学とは呼ばせない」。手作りした「ノアの箱船」を振りかざしながら力説す
る。
ビッグバンも、「聖書によれば宇宙の歴史は数1000年。150億年前に宇宙が大爆
発でできたことを証明する化石があるなら見せてくれ」。数億年に及ぶ河の浸食でできた
グランドキャニオン(アリゾナ州)を持ち出すと、猛烈な勢いで「2週間で神が造った」。
最近行われたある世論調査でも、米国人の44%が創造説を信じ、神がサルからヒトへ
の進化を手引きしたという「有神論的進化論」を40%が支持した。進化論を信じる人は
1割にすぎなかったという。
創造説派が勢いを得ているのには背景がある。南部ではもともと創造説を強固に信奉す
る宗教右派が強い。だが、米連邦最高裁は1987年、進化論と創造説の両方を均等に教
えるよう義務づけたルイジアナ州法を違憲と判断した。裁判で大敗を喫した宗教右派は9
0年代になって戦術を変え、無給の名誉職でしかなかった各地の教育委員選挙に大量の信
奉者を当選させた。その成果が実を結び始めたわけだ。
●学者が選挙で対抗
科学者側も同様の戦術で反撃を始めた。ニューメキシコ州の教育委員に科学者が当選し、
州教委は10月、一転して創造説の締め出しを決めた。
委員になったのは、核兵器研究で知られる国立サンディア研究所の核物理学者、マーシ
ャル・バーマン博士。科学教育に関心があり、数人の仲間で「科学教育をよくする会」を
作ったが、96年、進化論を締め出す州教委の決定を聞き、「科学全体に対する挑戦だ」
と委員に立候補した。仲間と手分けして戸別訪問するなど慣れない選挙運動を展開し、創
造説派の現職を破った。
科学界もこうした挑戦を全面的に援護する。全米研究評議会(NRC)や全米科学教師
協会(NSTA)などは、自ら作成した科学教育の指針や教師の手引書をカンザスなどで
使うことを拒否する作戦に出た。
NSTAのジェラルド・ウィーラー会長は「彼らもあきらめないだろう。緊張はまだま
だ続く」。
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