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知事という名の革命家
東京都の石原慎太郎知事の2月の都議会での演説を伝える新聞報道を見てオヤと思った。「本年9月3日、陸海空3軍が統合して参加する総合防災訓練を実施する」などと語っている。
憲法9条もあることだ、自衛隊は自衛隊であって軍とは呼ばなかったのに、と担当記者に聞くと、「いや石原さんはいつもこう表現しているのです」という話だ。へえ石原さん、いつもどんな演説をしているのかと東京都のホームページで調べてみた。
昨年4月の就任あいさつをスタートに、折々の議会演説や職員への庁内放送など、この2月まで全部で13回、そこで浮かび上がってくるのは「軍」うんぬんはあるが、正直、「石原氏、さすがなものだ」という印象もある。
「上の方にいる人は頭がカチカチ、こういう時は若い諸君の方が機転がきく。どんどん意見を上げてほしい」
「東京都庁はエイリアンが乗り合わせている宇宙船」
「石原は外に向かって都庁の悪口を言っている、とされているがそうではなく、ほかと比べた相対感覚を持って頂きたいということだ」
新しい連帯、コスト意識とスピード感覚、国家体質の変革を訴えてやまない。国に一泡ふかせたいという野心も感じられる、しかし確かな求心力があってこその新税構想の盛り上がりと知る。
◎東の石原、西の北川
「東の石原」に対抗しうるのは「西の北川」である。
北川正恭三重県知事の「白紙に戻す」発言で、中部電力はあっというまに芦浜原子力発電所計画を撤回した。渡りに船だったのか、深谷隆司通産相は「原発の増設目標を減らし、エネルギー政策を見直す」などと言い出した。
上京した北川氏に会って聞いてみた。
――鮮やかでしたね。
「月光仮面にもピエロにもなりたくなかったんでね、よく勉強しましたよ」
――どういう意味です?
「原発の必要性を否定はできない。いわゆる反原発のイデオロギーをかざす月光仮面ではない。一方で、私の発言でかえってこじれてしまうようなピエロは演じたくなかった、ということですよ」
――で、どうして「白紙」だったのです。
「私は生活者起点ということを言い続けているのです。37年間も推進派と反対派が対立して苦しんできた問題です。私が『推進』とか『凍結』とかいえば血で血を洗う争いが続くことになる。住民投票はいいことだが、それはそれでまたさまざまな問題を残す。国策をとやかくいうのではない、住民を起点に考えれば、私の選択は『白紙』以外になかったのです」
国も電力会社も住民も、それぞれ長い思考停止に陥っているときに、ひとつのキーワードで問題がたちまちほぐれたのである。「西の北川」の絶妙の制球である。
1期目の北川県政は、あのカラ出張事件で揺れた。「私たち、まだ月給から4万円とか2万円とか引かれているんですよ」とそばの県職員が口をはさんだ。そうか、官官接待などに使った10億円もの金をまだ返し続けているのか。しかしその潔さで県民の信頼を回復したのだった。
2期目の北川氏のことし1月4日の年頭あいさつを読むと、気宇壮大だ。
いまや産業社会のヒエラルキー、縦の秩序が音を立てて崩れている。情報革命によってだれもが自由に情報を使えるようになれば、国と県、官と民、労使関係も縦の支配ではなく、横のパートナーシップになる。むろん補助金や交付税の世界もなくなっていくだろう。地方自治体こそが生活者起点でものごとを考える総合行政に変わらなければならない……。
◎直接投票ならでは
石原氏と北川氏の発言集を読むと、「農村が都市を包囲する」という毛沢東の革命戦略を思い出す。そういえば石原氏は毛沢東の『矛盾論』をすぐれた方法論として都庁職員に推奨している。北川氏はオズボーンとゲーブラーの書いた『行政革命』という本を職員に配っている。
国の変革が永田町の旧習に阻まれて遅々として進まないとき、総理大臣とは違って直接投票で選ばれた知事こそ現代の革命家たりうるということかもしれない。