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題名:No.360 「日本人を幸せにする企業経営とは」に対するご意見と私のコメント(2)
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From : ビル・トッテン
Subject : 「日本人を幸せにする企業経営とは」に対するご意見と私のコメント(2)
Number : OW360
Date : 2000年3月16日
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OW353、354で、私の経営理念として「日本人を幸せにする企業経営とは」をお送りしました。今回は、弊社が主催した『新春の集い』における同じテーマの私の講演をお聞きになったお客様からお寄せいただいたご意見やご質問に対する私の回答をお送りします。お読みいただければ幸いです。皆様からのご意見をお待ちしております。
(ビル・トッテン)
「日本人を幸せにする企業経営とは」
に対するご意見と私のコメント(2)
<社会における企業の役割と日本社会の変化>
* 「社会における企業の役割は国民の幸福につながる製品やサービス、雇用を提供すること」とあるが、まさに同感である。またそれら製品やサービス、雇用について継続して提供できることが特に重要であると考える。つまり、購入した製品についてのサポートが途中から得られなくなれば、その瞬間から製品の価値が失われる。このためには企業そのものが継続して存在しなければならないという使命が生まれるが、このことが必然的に企業を市場原理の競争社会に足を引っ張り込むことになるのではないだろうか。このためには一定以上の生産性とその向上が求められ、その結果としての価値を再生産への投資、顧客、従業員、株主に適切なバランスで配分したうえで、可能であれば企業自身の内部留保の形で将来のための蓄えを求めていくことになる。これはある程度やむを得ない企業行動であるが、品性を欠く経営者は経営者自身の報酬と併せ、度を越したものを求めようとするところに企業のエゴが発生すると考えられる。
トッテン: 非常に的を射たご指摘だと思います。1つ加えるとすれば、競争はスポーツにおける規則のように、適切に規制されれば良いものであり、有益だということです。実際、平成以前の日本社会の競争はそのようなものでした。野放図な競争は、即座に破壊的な弱肉強食に転じます。
* 残念ですが今の大人には、明確な哲学を持ち自己責任をとれる人が少なくなったことも事実だと思います。しかしながら、日本人として歴史、文化、慣習、価値観について誇りを持ち、論じている人もいることを忘れないで下さい。
トッテン: その通りです。日本の歴史、文化、慣習、価値観について誇りを持ち、それを私に教えてくれるたくさんの友人がいることを忘れたことはありません。そのことを講演でも明確に述べるべきでした。ご指摘ありがとうございます。
* 1つの解決手段として、TVがバカな番組から自発的にマジメな番組を増やせば、人の考えも少しは変わると日頃考えております。
トッテン: 民放テレビ局は他の民間メディアがそうであるように、最大の利益を上げることを目的に運営されています。日本人の考え方を本当に変えるためには、ご指摘のようにテレビの放送局を規制し、バカな番組ではなく、マジメな番組を増やすよう強制するしかないと私は考えています。そのための1つの方法として、私は、テレビやラジオの放送局の広告収益に対し100%税金をかけることを提唱します。そして一方で、これらの放送局が広告収入以外で営業できるよう、テレビやラジオの視聴者に対し、視聴料を徴収することを認めるのです。こうすればメディアは、広告主ではなく視聴者により多くの注意を払うようになるでしょうし、税収の増加が見込まれるため、日本政府は消費税率を元の3%に戻すこともできるはずです。
<バブル経済の分析>
* 平成になって経営者のマインドが変わって貪欲に利益を追求し始めたことで日本経済が衰退し始めたとされていますが、これには違和感を覚えます。結果はそのように見えるかも知れないが、因果関係が逆ではないでしょうか。つまり、昭和の終わりごろ金融の緩和によって=>土地の価値や株価などが過大評価され=>「信用経済」が膨らみ過ぎて=>生産性の向上以上に経済規模が拡大した=>それに気づいた政府は今度は必要以上に金融を引き締め=>「信用経済」が一挙に縮小した=> 本来ここで金融を少し緩和するべきであったが、さらに金融を引き締めるという間違った金融政策を継続 =>膨大な不良資産(含み損)の発生=>経済が衰退し企業からの税収が得られなくなった=>国の財政が悪化したため=>財政再建を図ろうとして消費税を導入した=>消費が落ち込み=>経済がさらに縮小=>企業の経営がますます悪化=>従業員の削減や設備の廃棄などのリストラの実施、という流れであったように思います。
トッテン: この点に関する私の分析は少し異なります。私は日本政府がとった政策の裏には米国からの要求があった、つまり日本政府が米国からの圧力に屈したために、日本に大量の余剰資金が生まれ、バブルが起きたと考えています。日本政府はまず初めに、日本の金融市場を開放し、日本企業の海外資金調達を許可しました。次にレーガン政権が金利引下げによる景気刺激策で再選を果たせるようにと、日本の金利をさらに低く抑えました(米国よりも日本の金利の方が高くなると、米国から日本への資金流出が起きるため、米国政府が日本に金利を下げるよう圧力をかけたのです)。
日本の金融機関は余剰資金を循環させ、金利で運転資金を稼がなければなりませんでした。しかし、当時、日本企業には資金がだぶついていたため、日本の金融機関には生産的な使い道が見つからず、土地や株、通貨などを対象に投機を行う企業や個人に融資をしたり、自らもそうした博打を行いました。博打はゼロサム・ゲームであり、勝者の獲得金はすべて敗者の損失を意味します。そしてすべての博打やバブルには終わりがあり、敗者の負けが込み続けられなくなれば即座に終了になります。日本のバブルも例外ではなく、政府がそれを潰そうとしようがしまいが、いずれ終わりがきたはずです。
バブルの負債は、純粋、単純に博打の負債であったのですから、その博打の敗者に負債を負わせるべきだったのです。しかし、博打で敗けた者達は自分達で負担するのを避けるために、大蔵省や自民党を買収し、日本国民に博打のつけ、つまり不良債権処理に必要な費用を負担させました。
日本経済はバブル崩壊以降、幾分停滞しましたが、バブルそのものからは、それほど深刻な打撃を受けることはありませんでした。戦後最悪の失業率および倒産件数を記録した今回の日本の不況が始まったのは 、政府が消費税を5%に引き下げ、また米国からの2つの要求、つまり金融ビッグバンによるさらなる金融規制緩和と、金融機関のバランス・シート改善のための早急な不良債権処理(そのために日本の金融機関は米国の投機家に資産を投げ売り同然で売却しなければなりませんでした)を実行に移してからです。
* もっとも重要な問題は膨大な含み損にあります。日本の企業のほとんどはこの膨大な含み損の整理のために戦後蓄積してきた利益をほとんどつぎ込んでしまい、スッカラカンの状態であるし、国民のほうも昭和の時代にマイホームを買った人は含み損が数百万から数千万になっており、政府がアメリカから言われて数万円の減税を実施しても焼け石に水で、なんの効果も発現しないのは当たり前という状態ではないでしょうか。
トッテン: この膨大な含み損とは、純粋に博打の負債です。実際に博打で損を出した人々に責任をとらせなければ、経営者を含む国民に博打をしないよう、いかにして教えることができるでしょう。欲を出した人々に責任をとらせなければ、貪欲であることがいかに悪いかを教えることなどできるはずがありません。また日本政府はなぜ米国からの圧力に屈し、不良債権処理を急がせたのでしょうか。博打で失敗した人々は、日本経済に悪影響を与えないようにと、ゆっくり不良債権を処理していたとも考えられます。米国政府が日本に不良債権を早急に処理することを求めたのは、貪欲な米国の投機家に対して、日本の資産を投げ売り同然で売らせるためでした。
* いまから考えればバブルといわれた経済のバブルを潰してバブルを解消するのではなく、バブルに見合った生産性の向上を図ってバブルの実質を埋めるという政策にすべきだったと幾人かの経済学者がいっていますが、その通りだったかも知れないと考えるものです。
トッテン: 日本はバブル自体生み出すべきではなかったのです。米国の圧力に屈し、米国の投機家には有益でも、日本経済にとっては自殺行為であった政策を次々に実施するのではなく、自国の問題は自分達で管理していれば、バブルを避けることはできたはずです。
* 後半部分に一部の商工ローンのことが日本全体のように捉えられている点や「日本で生産される製品やサービスの25%の成果を政府の政策を通じて金融機関に支払っている」との指摘がありますが、どのように考えても納得できないように思える。日本の銀行はその経営の失敗(一部は政府の政策の誤りによって引き起こされたともいえる)を国民の税金を使って立て直そうとしているが、銀行経営陣のほとんどはその責任をとっていないし、銀行の従業員の給料も日本の平均の倍近い状態であり、けしからんと思っているのではあるが。
トッテン: この部分は説明が足りなかったようで申し訳ありません。私がいおうとしたことをもう一度説明します。日本政府が米国の要求に屈し、日本の金融機関を規制緩和するまで、日本企業や国民は貸し渋りにあうことなく、低金利で融資を受けることができました。大半の国民は、所得から当座の生活費を除いた残りのお金を、自動車や他の耐久消費材、住宅の購入、子供の結婚や老後に備えて貯蓄していました。また、その貯蓄の価値が目減りすることがないよう、インフレ分の金利が支払われている限り、安心して貯蓄ができました。日本政府は、貯蓄者に対しては、貯蓄の価値が減らないよう、また貯蓄で巨額の不労所得が生まれないよう金利を規制し、また金融機関に対しても、運転資金を賄った上で妥当な収益が得られるよう、ただし高利貸しにならないようにと、金利を規制していたのです。その結果、日本では、お金で巨額の富を稼ぐ資本家は事実上存在しなかったといえます。資本の使い手が、資本を生産に必要な他の資材よりも優遇して多くの見返りを与えることをしなかったからです。
さらに、日本の生産物は主に日本の生産者の間で分配されていました。すなわち、日本人は、自分達の幸福に必要な製品やサービス(その中には、石油やその他日本にない資源や原材料の輸入に必要な外貨を稼ぐための輸出も含まれる)を自分達で生産し、それを実際の生産者である日本国民に賃金の形で分配していました。この構図の中では、資本が資源や資材以上に報いられることはなく、その意味で日本は資本家の国でも、資本主義でもありませんでした。
しかし、上述のように日本政府が米国政府の要求に屈した結果、こうした状況がすべて終わりを告げたのです。今や金融機関は、日本国民が銀行に預けた預金を元手に、日本の国内外を問わず、どのような手段を使っても、最も高い収益率を上げられる投資対象に博打を行えるようになりました。最も有名な投資顧問やファンド・マネジャーは、自分が運用する資金に対し年率25%の収益を上げることができると広言しています。したがって、銀行や他の大手金融機関は、この25%を基準に、他にさらに高い収益率を提供するところを探して自分達が所有する資金の運用先(融資や投資、投機の対象)を決定します。そのため融資を受けたいと考える一般企業は、銀行からの融資を、25%の運用益を上げるファンド・マネジャーと奪い合うことになり、配当金とキャピタル・ゲインを合わせ、それ以上の収益を要求されるようになったのです。
こうした状況を日本全体の観点から見れば、これまでは生産者だけでほぼ100% の国民総生産を分け合うことができたのに対し、今は国民総生産の25%を資本家に与えなければならず、生産者は残りの75%を分け合うことになったということです。その結果、力の弱い企業は資金繰りができず倒産したり、また多くの企業が社員のレイオフや賃金カットを余儀なくされているのです。
ただし、日本は依然として資本家の国ではありません。なぜならば、大多数の資本家は賃金の一部を貯蓄する労働者であることに変わりはないからです。それなのに、その一般労働者が貯蓄に対して受け取る金利は今やゼロに等しく、規制撤廃前と比べると大幅に低くなっています。それにもかかわらず、その貯蓄を預かる金融機関は、その資金をファンド・マネジャーなどに託して運用させることにより、巨額の利益を上げているのです。
<アシストの経営理念およびビジネス戦略>
* アシストの経営理念およびビジネス戦略、民主主義社会の一員としての義務に関する部分は、ほとんど納得できるし、すばらしいの一語に尽きる。特に以下の点は28年間の長きにわたりアシストを経営して来られた経験から生まれた卓越したご見識と思う。
1) ソフトウェアのような複雑な製品を扱うアシストは、顧客との信頼を積み重ねることが長期的な繁栄につながる。
2) 重視するのは資本ではなく人であり、社員が提供する価値によってサプライヤーが簡単には真似のできないサービスを実現する。
3) 個人としての幸福や繁栄、アシストが企業として培った成功のほとんどは、国民の幸福を目標として治められた社会で生活し、働くことによって得られたものだと信じている。
トッテン: 上記はまだ目標の段階で、アシストとしてまだ完全に実行できていない
部分があり、絵空事で終わらぬよう、すべて実現させたいと思っています。
* 御社は社員をパートナーとして扱っており、社員にとってもやりがいのある会社だと思います。アメリカのウォルマートでも社員をアソシエイトとして扱い、社員のやる気を引き出しています。日本の大半の企業ではいまだに年寄り連中が主要なポストを占め、若い社員のやる気をなくさせています。これだけ国際化、グローバル化が進んでくると、今の日本のようなマネジメントでは厳しい競争に勝てないと思います。
トッテン: 私は、日本企業の雇用制度を、日本の生産性の急増、高齢化や少子化といった変化に適合すべく、変えていくべきだと考えています。ただし、その際注意しなければならないのは、米国のように一部の国民だけを豊かにし、残り大多数の国民を貧しくしたり、困窮にさらすような雇用制度であってはならないということです。ただ単に米国の例を模倣したり、米国からの要求に従うのではなく、日本は日本にあった日本のやり方を模索すべきであると私は考えています。
* ITの活用レベルにおいても日米では相当の格差があるような気がします。アシストさんが「経営とはこうあるべきだ」というよきモデルを完成させ、ITの活用についても日本のレベルを上げて頂きますようお願い致します。
トッテン: IT活用について、私はそのマイナス効果にも注目し始めています。すなわち、弱い企業を倒産に追いやり、何百万人もの労働者の雇用を奪ってまで、生産性を永久に向上し続ける必要があるのか、ということです。幸せよりも不幸をもたらす生産性向上が良いことだといえるでしょうか。私は、日本企業が週4日の勤務体制を取り入れてはどうかと考えています。半分の社員を火曜日から金曜日まで、残りの半分を月曜日から木曜日の出勤にし、すべての社員に週1日を勉強あるいは社会奉仕に充てさせる、というものです。そうすれば、生産性の向上が国民にマイナスの影響をもたらさないと同時に、国民が精神的により豊かな生活ができるようになるはずです。
* 日本企業すべてが、トッテン氏が考えるような思想で企業経営するならば、日本はとても良い国になり、そして国民は皆幸福になるであろう、と思う。しかし、ライバル企業は、儲かれば何をやっても良い、に近い行動をとるかもしれない。長い目で見れば、アシストは、そういう会社に勝つと思うが、短期で見たとき、悪意ある企業に大きな打撃を受けるかもしれない。そういう場合に、短期的には、対抗手段をとるのであろうか。仮に社長は、短期的にでも基本思想に合わない対抗手段をとらないという判断をしても、末端の社員は、自分の成績がかかっており、それが自分の賞与金額にもつながる場合、それに従うであろうか。
トッテン: 非常に鋭いご指摘だと思います。これまでのアシストの社歴28年間と同様、私は今後も長期的には、我々のアプローチで成功すると確信しています。ただし短期的には、しばしば困難に直面することになるでしょう。しかし、完璧なアプローチなど存在しないものですし、どのアプローチにも問題はつきものです。その上でどのアプローチを企業が選択するかですが、私は、我々の信念に最もあったアプローチを選択し、克服できる欠点はあえて受け入れるしかないと思っています。これまでにも、短期的な損失に何度も見舞われましたが、アシストのやり方の真価を問われるほどの深刻な打撃を受けたことはありませんでした。確かに、売上や賞与への短期的な悪影響を受け入れられない社員は、アシストを離れることがあり得るし、実際そういう例がこれまでにもありました。すべての社員を常に満足させることは不可能であると我々は認めています。ただし、こうしたことが起こらないよう、アシストへの入社希望者には、入社決定前に、アシストの哲学と信念を完全に、かつありのままに理解してもらえるよう最善の努力をしています。
* 若干賃金賞与配分に触れていたが、概ね、以下のような考え方と理解して良いのであろうか。月例賃金は基本的に年功給。賞与は、業績給(目標達成度で評価)。部署により、役割分担があると思う。そうすると、難しい業務と易しい業務があるであろうし、利益を上げやすい地域と、それが難しい地域がある。公正な目標はどのように決められるのであろうか。不公平な仕組だと、社員に不満が溜まる。不公平な仕組でも人事異動が頻繁にあれば、不満は和らぐが、アシストにおいて特に人事異動が多いとは思われない。公平を超えた目標設定方法がアシストには存在するのであろうか。
トッテン: アシストの現在の賃金、賞与評価は基本的に説明されている通りです。ここで指摘されていることは、我々アシストのアプローチにおいて重要な問題であり、これまでにもこうした問題がすべて解決されたことはなく、アシストの制度がまだ不完全であることを我々は認めています。アシストの各部門の売上目標は、部門が必要とする経費に基づいて決められています。つまり、赤字を出さないこと、独立採算が前提になっているのです。費用を多く使いたい部門は独立採算を達成するために、それだけ多くの売上を上げなければならないし、逆に多くの売上を上げれば、その分、無駄を出さないことを前提に、多くの経費を使うことができます。
人事異動については、過去には社員の自己申告に基づいて行ってきました。社員が他の部門に移りたいと考え、受入先がそれを認めれば、その時点で所属している部門は正当な理由がない限り、それを阻止することはできないという制度でした。それによって、ここで指摘されている不公平な部分はある程度解決されましたが、社員の長期的なキャリア開発が優先されないという欠点は克服できませんでした。なぜならば、役員も上級管理者も、さらには一般社員も目先の目標や問題に捕われるという傾向があるからです。現在、アシストでは、長期的なキャリア開発を目指した人事異動制度の確立へ向けて、ようやく重い腰を上げたところです。
アシストの制度の中でもう1つ欠点として挙げられる点は、今現在の売上に対しては十分評価しているものの、将来へ向けたビジネスの開拓を行ってもあまり評価されず、それが疎かになりがちだという点です。これによって長期的な展望よりも短期志向がさらに強化されることになります。この点についても、改善が必要であることを認め、それに向けて取組み始めたところです。
アシストURL : http://www.ashisuto.co.jp/