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アンケート
所属 公安調査庁調査第二部第二課
氏名 西田 稔
1 派遣された在外公館名・役職
在ユーゴスラヴィア日本国大使館・二等書記官
2 在外公館における職務
○ 非同盟諸国との関係を中心とするユーゴスラヴィア外交
同地の各国大使館員や有識者からの情報収集結果を「内話」として暗号電報で外務本省に送ることが第一の仕事。また、毎日、同地の通信社(タンユグ通信)の記事を取りまとめて、電報(暗号なし)で外務本省に送った。
○ アルバニア内外政
アルバニアに関する政治関係情報をすべて担当した。同国については、情報が少ないため、ある程度宣伝と分かりながらも、同国通信社(ATA)や同国大使館員からの情報を外務本省に送るのが基本的な日常の作業だった。しかし、より客観的なアルバニア像を得ようと、ユーゴーの戦略研究所や同地の外交官などからの情報入手にも努力した。しかし、同地の外交官でアルバニアを担当している者は非常に少なく、苦労したことを覚えている。
○ 技術協力
JICAを通じた技術協力の仲介事務。既にプロジェクトが開始されており、その管理事務を行なうほか、同地政府からの新しい要請を外務本省・JICAに取り次ぐのが仕事だったが、事務量はある程度あった。
○ 領事事務(副)
領事事務は、法務省入国管理局からの出向者(「正」担当)が日常的に対応したが、同人業務が多忙であったり、解決困難な案件には本職も対応した。また、「正」担当者が不在の時に「副」が担当するのは当然だが、この業務の性格上、緊急の対応が求められることが多く、しかも正確さを書くと新聞への投書や訴訟にもつながりかねないため、「副」であるからといって何ら気を抜けるものではなかった。外務省プロパーは領事事務を全く理解しておらず、このことがより負担を重くした。
3 同職務と当庁との関連性(帰庁後を含む)
どこにいても、求められることをしようと努力することはできる。本職も、できるだけ当庁に役に立つ情報を送ろうと努力したものである。その結果、外交行のうを使って報告書を6回送り(A4で毎回平均20頁)、翻訳物を28回送った(3年間)。当時は、多少とも役に立つと思って、ソ連(当時)や中国に関するものを努めて送ったつもりだったが、今になって見ると、やはりユーゴーやアルバニアの(当庁にとって役立たない)ものが多く、当時の苦労を思うとがっかりしてしまう。
したがって、当庁にとって関係の深い国(韓国、中国、ロシア、米国等)に人を派遣することが重要であるとはいえよう。それにしても、当時、多少とも憤りを感じたのは、当庁が情報の安全な送付に何ら関心を示さなかったことである。どうせ大したものは送れないと思っていたのだろうか。義足のランナーを100メートル走のスタートラインに並ばせるのは、スタートのピストルが永久に鳴らないと思っている者のみである。
誰が何と言おうと、入手先から安全に秘密情報を本庁に送れないようなら、その局面に限っていえば、絶対に当庁は情報機関ではない。したがって、当庁は、情報機関として職員を海外に派遣しているのでは断じてない。当庁は、国内で情報を収集している限りは立派な情報機関だが、海外に派遣した職員や海外の情報源との関係では、決して情報機関とはいえないと思う。
しかし、在外公館の勤務経験が有り難いと思うこともある。外務省の情報収集の実態の一部を見ることができたという点である。その特徴を要約すれば、次のようになろう。
○ 情報提供者に現金を渡すシステムはあるが、日本の外交官は極度にこれを嫌う。
○ 各国外交官同士の情報交換は、自国の秘密情報の切り売り交換の様相を呈している(日本の一部の外交官だけならいいが)。
4 在外公館勤務に対する自己採点
外国情報機関の場合、大使館の公然の任務はカバーにすぎない。カバーとして使う限りは、本格的でなければならないのではあるが。ただ、「カバー」の仕事を評価しても意味がないだろう。また、本職がユーゴーで勤務していた間、仕事面での指示は1件もなかったと記憶している(現在は、当課で指示を出している)。報告はすべてボランティアだったといえる。したがって、本業についても採点は困難である。
5 感想
繰り返すが、入手先から安全に秘密情報を本庁に送る体制がないなら、まだ何も始まっていないのである。これは当課の仕事である。人事課になぜこんなことを強調するかといえば、現状のままで派遣先やそこでの業務をまず検討することが正気の沙汰ではないと思うからである。最近、当庁幹部は、こうしたことについて本当は本気ではないのではないかとふと思う。本気ならこんな状況に至るわけがない。ただ、何とかしたいと取り組んではいるが・・・