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平成１１（１９９９）年１２月１４日（火）の毎日新聞夕刊（大阪版）１面から
西暦２０００年の幕開けに、趣向を凝らしたイベントが世界各地で予定される中、エジプト政府はカイロ郊外・ギザの大ピラミッドの頂を金箔で飾り、野外オペラを催す壮大な計画をぶち上げた。ところが、舞台はユネスコ（国連教育化学文化機関）の世界遺産でもあるだけに、「史実に基づいた着想でない」「工事の際、遺跡を破壊しかねない」などの批判が相次ぎ、政界や学界を巻き込んだ大論争となっている。
【カイロ・高橋弘司】
エジプト文化省の発表によると、ギザの３大ピラミッドの前に舞台を設置、フランス人音楽家、ジャン・ミシェル・ジャールの演出で、今月３１日夜から１月１日未明まで、電子音楽や花火
などを使ったオペラ「太陽の１２の夢」を公演する予定だ。
３大ピラミッドのうち、最大のクフ王のピラミッドは古王国第４王朝時代（約４５００年前）の創建当時、高さ約１４６メートルだったが、建築石材として次々と持ち去られるなどして頭部が欠け、現在は高さ約１３７メートル。オペラの演出効果を高めるたm、もともとあった頂上の形に合わせて、４角錘の鉄製枠組み（高さ約９メートル）を設置、厚さ０・００３ミリ前後の金箔を張り付けた銅板で周囲を覆う計画。
エジプト政府の狙いは、１９９７年のルクソール無差別テロ事件で傷ついたイメージ回復。金箔を含む材料費やオペラ公演代など総額９５０万ドル（約９億７０００万円）を注ぎ込む。
エジプト国内でまず問題になったのは、ピラミッドの頭部構造について
考古学的な根拠が乏しい点だ。
ザイド・アレクサンドリア大学教授は（エジプト学）は、「当時、崇拝された白い鳥・イビス（トキ）が木に群がる様子を思い描き、人々はピラミッド全面を白い石灰岩で覆った。ギザのピラミッド頭部が金で飾られていた証拠は何もない」と批判した。
これに対し、ハウス・ギザ考古局長はカイロ郊外・アブシールで５年前に見つかった碑文に金と銀からなる
合金を意味する言葉が象形文字で刻まれ、ピラミッド頭部にのせるキャップストーンを引きずる労働者
の姿が描かれていると指摘、「ファラオの時代に金で頭部を飾り、ピラミッドの完成を祝ったのだ」と反論する。
野党・労働党機関紙「アッシャーブ」などは、
文化省作成の宣伝パンフレットの図柄が、米１ドル紙幣のデザインと酷似していることを取り上げ、
「フリーメーソン（欧米を中心とする博愛主義団体）の教義を称賛する内容だ」などと批判キャンペーンを
展開。
さらに、金箔キャップをどのように設置するかという問題も浮上してきた。
ヘリコプターで鉄骨をつり上げた場合、設置の際にピラミッドに強い衝撃が加わる恐れがあり、秒速１０メートルの風が吹くピラミッド頭部まで手作業で鉄骨を持ち上げるのも
難事業だ。
ラドワン・カイロ大学教授（エジプト学）は「現状変更を禁じた遺跡保護法に違反し、遺跡を傷つける恐れもある」と中止を訴える。
だが、外国人観光客を中心に食事付きテント席（約４万円）８０００席はすでに売り切れ、一般席（約１５００円）５万席も２万席販売済みとあって、計画変更は容易ではない。
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