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投稿者 林 一彦 日時 2000 年 3 月 02 日 07:41:21:


平成8年10月2日

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市民オンブズマン運動の現状と見通し
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○  昨年の「食糧費」「官官接待」問題から,本年は「カラ出張」の追求に矛先を移し,全国大会の場で調査結果を発表するとともに,都道府県知事に対する徹底した実態解明の要求,刑事告発,情報公開訴訟の提起に取り組む
○  自治体にとどまらず,中央各省庁に対しても情報公開請求を行うため,「情報公開法」の実現を目指す
○  個人責任追及の行き過ぎ,弁護士主導の運動のあり方,活動費用の不足等の問題が議論されるようになった
○  各自治体の条例では情報公開の対象となっていない議会や公安委員会の旅費,食糧費などの公開請求にも力点を置く


  昨年来,行政の監視・告発運動を推進している全国市民オンブズマン連絡会議(注)の活動をマスコミ誌紙が大きく取り上げ,自治体の「官官接待」や「カラ・ムダ出張」が社会問題化しており,各自治体においては,公的オンブズマン制度を導入しようとする機運も高まっている状況にある(現在,導入している主要自治体は沖縄県,横浜市,川崎市。近く導入を予定しているのは宮城県,東京都)。
  全国市民オンブズマン連絡会議傘下の市民オンブズマン組織は,現在,36都道府県に準備会を含め39の組織が結成されている(別紙1)。これら市民オンブズマンの大半は,規約・会則で特定の政治目的や党派活動に利用しないことをうたっている。しかし,組織の中心メンバーは,全国連絡会議の代表幹事である井上善雄(大阪弁護士会),高橋利明(東京弁護士会)をはじめ,事務局長の新海聡(名古屋弁護士会),幹事の小野寺信一(仙台弁護士会)など,日共系の自由法曹団に参加している弁護士の多いことが目立つ。また,日共を離党した県会議員が組織している静岡県オンブズマン,過激派系の京都市民オンブズパースンもみられるなど,反権力的な方向を目指している運動が大半である。
  同連絡会議は,7月27,28の両日,第3回市民オンブズマン全国大会(高知市・県教育会館,約280人)を開催し,自治体における「カラ・ムダ出張」の実態を追及した報告や,監査委員制度の改革をテーマとした討論を行った。大会内容は,地元の高知新聞をはじめ毎日,読売などがそれぞれの全国版で取り上げたほか,日共も,「赤旗」紙上に協賛記事を掲載している。
  以下は,全国大会などで示された市民オンブズマン運動の現状と見通しについて取りまとめたものである。
(注)  「全国市民オンブズマン連絡会議」は,独自に地方行政の監視・告発運動を進めていた仙台市民オンブズマン(高橋輝雄代表・弁護士),東京市民オンブズマン(北野弘久代表・日大教授),名古屋市民オンブズマン(新海聡代表・弁護士),大阪市民オンブズマン(岩崎善四郎代表・会社社長)などが中心となって,平成6年7月30日に全国の連絡組織として結成したもので,地方行政の不正を監視する活動を全国的に進めることを主な目的に掲げている。
1  「カラ出張」の実態を暴露し,監査制度の見直しや情報開示請求範囲の拡大などを提起
 (1) 照準を「食糧費」から「カラ出張」にシフト
     全国市民オンブズマン連絡会議の活動は,自治体行政を改善するため,全国各地の市民オンブズマン活動の統一を取りながら,公金の不正支出の実態を暴露,糾弾していくことに照準を定めている。昨年4月,情報公開条例を制定している都道府県や政令指定都市に対して,平成5年度の秘書課,財政課及び東京事務所の「食糧費」の開示請求を一斉に行った,いわゆる「官官接待」問題の追求が,その先駆けとなった。
     その後,昨年11月以降は,北海道,秋田県,鹿児島県などにおける「カラ出張」問題がマスコミ報道等を通じて大きくクローズアップされたこともあって,「カラ出張」問題の追及に活動の主眼を移している。特に,お目付け役である監査委員の膝もとでカラ出張が行われているのではないかとの疑惑が東京都,宮城県などでもち上がったことに着目し,「カラ出張」の蔓延の元凶として,監査委員及び同事務局がターゲットになった。これが,本年1月25日,40都道府県に対し一斉に監査委員旅費の公開を請求する行動となった。
     全国大会では,この一斉行動を通して判明した各自治体の「カラ・ムダ出張」の実態を具体的に示し,その度合いに応じてA(明らかにカラ出張),A'(疑いが濃厚),B(人数や日数の水増し),C(出張目的が不当)と,自治体ごとの不正の実情をランク分けしている(別紙2)。そして,平成6年度における監査委員・同事務局の管外出張費総額は,2億2,704万2,372円(37都道府県の1,697件)であり,このうち「カラ・ムダ出張」額が4,300万円にも上ると発表している。
 (2) 当面の活動方針
     全国大会では,一斉調査で判明した事実を踏まえ,今後の活動報告を次のように提起している。
  ○  監査委員・同事務局に対する監視を続けるとともに,土木・農政等他の部署について情報公開請求を行う。
  ○  監査委員・同委員事務局の職員の人事の在り方を改める必要がある(注)。
  ○  情報公開請求の動きに対し,公文書を一年で廃棄したり,高額なコピー代を請求するなどの「情報隠し」をやめさせる。
  ○  行政を監視する役割を担うべき議会が本来の機能を発揮するよう求める一方,議会の公金支出に関わる情報公開を求める。
  ○  都道府県知事に対し,公金の不正支出についての徹底した実態解明を要求する。
  ○  悪質なものについては,刑事告発を行う。
  ○  情報公開の水準を引き上げるため,全国で情報公開訴訟を提起する。
     なお,全国連絡会議は,「仙台市民オンブズマン」が起こした宮城県食糧費文書開示訴訟(県財政課の懇談会に関わる文書の公開に際し,県が懇談会出席者名などを非公開処分としたことを不服として,同処分の取消を仙台地裁に求めた訴訟)で,本年7月29日にオンブズマン側全面勝訴の判決が出され,県が控訴を断念したことを大きな成果とし,このことは,大阪地裁などで審理されている同様の訴訟にも好影響を与えるものと勢いづいている。
(注)  全国大会では,現在の自治体の監査委員が本来の機能を果たしていない要因として,@監査を受ける立場の首長が監査委員の任命権者となっていること A監査委員の大半が自治体OBであること B監査事務局の職員は,自治体の一般人事のローテーションにしたがって行われているため,自治体の意向に反する監査ができにくい体質があること,などを挙げている。
     そして,仙台市民オンブズマンが昨年12月に,監査委員制度の改革について宮城県に提言した「選任については,自治体OBを排除し,外部から弁護士や公認会計士などを充てるべきであること。また,補佐役の事務局職員も,外部から専門職として入れるべきであること」など の要望を各自治体に提言していくことを申し合わせた。
2  情報の全面公開を柱とした「情報公開法」の実現を目指す
   全国市民オンブズマン連絡会議は,すべての都道府県で制定されている現行の情報公開条例(山形,山口,愛媛の3県は「要綱」)の多くは,議会や公安委員会等を公開対象から除外するなど,改正すべき点が多いと主張し,行政情報の全面公開に向けて活動を強めている。さらには,市民オンブズマン運動の趣旨に沿う独自の「情報公開法」の成立を目指している。
 (1)  政府要綱案の問題点
      情報公開法については,政府の諮問機関である行政改革委員会が「情報公開法」要綱案(注)をまとめているが,全国大会では,次のような問題点を指摘し,この案では,行政情報の秘密保護法的なものになってしまう可能性が大きいと分析している。
  ○  個人のプライバシー尊重を盾に,個人が識別される可能性がある情報は公開しなくてもよいとされている。
  ○  大量に公開請求があった場合や,請求された情報・資料の存否について回答を求められた場合,行政事務の遂行に支障があるならば,開示もしくは回答しなくてもよいという規定を設けようとしており,形式的な理由で情報開示が妨げられる恐れがある。
 (2)  オンブズマンの求める情報公開法の方向
      今後は,これらの問題点を指摘し,批判していくとともに,真の情報公開が全国各地の自治体で実現される状況を早期につくりだすよう,”良質な情報公開法”を求める世論を醸成していくことが重要であると結論付けている。
      この「情報公開法」に関しては,全国大会においても,「市民オンブズマン高知」代表の藤田泰宏(医師)があいさつした中で,「官僚が握っている権力を国民が奪い返さなければならない。その武器は,近々制定される『情報公開法』である」など強調したといわれるように,行政情報の開示請求を,条例が制定されている自治体から,中央各省庁に拡大していく動きを強めてくるものと予想される。
(注)  国の行政改革委員会(飯田庸太朗委員長・三菱重工業会長)の行政情報公開部会は,本年4月に情報公開制度の要綱に関わる中間報告をまとめた。政府は,10月までに最終報告をまとめ,来年,「情報公開法」案を作成して国会に上程する意向である。
3  個人責任を過剰追求する運動の進め方,弁護士主導の運動の在り方や活動費用不足等の論議も
 (1)  運動の進め方への疑問
    ア  橋本知事の批判
        全国大会には,「市民オンブズマン高知」の要請に応じて,橋本大二郎高知県知事が出席し,来賓あいさつを行った(注)が,この中で,「運動の矛先が,行政における不正・不適切な事務処理を指摘,告発することによって健全な仕組みに改善していくという本来の目的・方向から逸脱し,関わった個人の責任を追及することだけを目的としているかの感がする。個人責任の追及は,行政事務を改善するという目的を達成するための手段であるはずなのに,手段そのものが目的化している危険性もある」などと指摘した。
    イ  運動内部の声
        同様の意見はオンブズマン運動の内部からも出ており,全国大会の中で「市民オンブズマン高知」の女性活動家は,一連の追及活動により県職員の心労が重なっている事情を紹介し,「人間が人間を追及することにはいずれ限界がくる。オンブズマンがやり過ぎて,世の中から批判を浴びないようにしたい」と発言している。
(注)  「市民オンブズマン高知」は,高知県の食糧費問題で橋本知事らを相手取って民事訴訟を起こしており,県庁内では,知事の大会出席に反対する意見が多かった。知事は来賓あいさつの中で,県では昨年11月に「官官接待」を廃止し,本年10月1日からは事務改革などを取り扱う「特別調査会」(有識者による第三者機関)を設けるなど,改革のための努力を払っている旨釈明した。
 (2)  運動組織が抱える問題
      全国大会では,オンブズマン運動が抱えている2つの大きな問題点が論議された。
    イ  弁護士主導の運動の在り方
        市民オンブズマン運動を今後,純粋な市民運動として確立していくに当たり,弁護士が主導権を握っている現在の形が適当なのかどうか,という問題が提起された。これについては,佐賀市民オンブズマンや新潟市民オンブズマンの代表などから,対外的にも法律専門家の存在は必要であり,何かの行動に打って出る際に弁護士の肩書きが有効であること,弁護士のいる組織は弁護士費用が不要となることなどの見解が示され,当面は,弁護士主導の運動で進むべきだとの意見が大勢を占めた。
    イ  活動費用の問題
       公文書公開を求めた際に,多額のコピー代を請求されて困ったとの事例,裁判闘争を行うに当たっての費用捻出に苦慮している事例が報告されるなど,ほとんどのオンブズマン組織が,一人当たりの年間会費2,000円ないし3,000円という条件下で苦しい財政運営を余儀なくされている現状が浮彫りにされた。また,費用調達に関わり,広島市民オンブズマンや大分市民オンブズマンなどからは,「人が多く集まれば金も集まる」との考えで会員拡大に全力を挙げていること,また,新潟市民オンブズマンからは,新聞でカンパ要請を行ったり,「支援の会」(別名「応援団」)を組織して物心両面から応援するかたちをとっていることが報告された。
4  運動の矛先は,治安部門などの権力中枢へと向かう見通し
   全国市民オンブズマン連絡会議は最近,全国大会を受け幹部会議を開いた中で,当面の取組重点として,@10月15日に47都道府県の知事宛に一斉に食糧費と旅費についての情報公開請求を行うこと A愛知県警のカラ出張疑惑に絡んで,警察・公安委員会関係などの情報公開も積極的に求めていくこと BHIV訴訟を踏まえ,「薬害オンブズマン」を発足することなどを協議したといわれる。
   また,日共系の福岡県自治体研究所が9月8日に開いた第16回福岡県自治体フォーラムの席上でも,「市民オンブズマン福岡」の日共系弁護士が,「オンブズマン運動は,『公安・警察』情報を開示させることを最終的な目標にしている」旨発言したといわれる。
   このように,運動の矛先を我が国の治安部門に及ぼそうとしていること,情報の全面公開を柱とした「情報公開法」の実現を目指していることを考え合わせると,運動は今後,加速度的に”権力中枢”へと矛先を向けていくものと思われる。
(別紙1)
市民オンブズマン組織一覧
所在地  名称  結成年月日  代表  勢力
北海道  札幌市民オンブズマン  平8・6・14  市川守弘(弁護士)  16人
青森県  情報公開を求める青森県民の会  平7・5・27  大坪正一(弘前大助教授)  約130人
岩手県  開かれた行政を求める岩手の会  平7・6・6  井上博夫(岩手大助 教授)  約40人
宮城県  仙台市民オンブズマン  平5・6・24  高橋輝雄(弁護士)  約220人
秋田県  大館オンブズマンの会  平元  小池栄一(喫茶店経営)  約30人
山形県  市民オンブズマン山形県会議  平7・12・4  佐藤欣也(弁護士)  約10人
福島県
茨城県
栃木県
群馬県  群馬オンブズマン(準備会)    樋口和彦(弁護士)  不明
埼玉県  埼玉市民オンブズマン  平7・12・12  佐々木新一(弁護士)  不明
千葉県  千葉県市民オンブズマン連絡会議  平7・10・14  上村 勉(弁護士)  約30人
東京都  東京市民オンブズマン  平5・12・1  北野弘久(日大教授)  不明
〃  立川市民オンブズマン  平8・3・30  内田正一(公認会計士)  不明
神奈川
新潟県  新潟市民オンブズマン  平7・9・26  味岡申幸(弁護士)  約20人
山梨県  
富山県  市民オンブズマン富山  平7・11・4  青島明夫(弁護士)  約40人
石川県  市民オンブズマン石川  平8・6・29  塩梅 修(弁護士)  約80人
福井県
山梨県  山形県市民オンブズマン連絡会(準)    中山淳子(県新婦人会長)  不明
長野県  長野県民市民オンブズマン会議  平8・1・27  今井寿一郎(前市議)  約40人
岐阜県  市民オンブズマンぎふ  平8・6・28  山田秀樹(弁護士)  約40人
愛知県  名古屋市民オンブズマン  平2・1・30  熱海 聡(弁護士)  約140人
静岡県  静岡県オンブズマンの会    服部寛一郎(県会議員)  不明
三重県  三重市民オンブズマン  平7・9・22  松葉謙三(弁護士)  約25人
滋賀県  滋賀県市民オンブズマン  平8・1  浅井秀明(教員組合役員)  約10人
奈良県  奈良市民オンブズマン(準)    井上善雄(弁護士)  約10人
京都府  京都市民オンブズパースン委員会  平7・10・29  折田泰宏(弁護士)  約60人
大阪府  大阪市民オンブズマン  昭55・12  岩崎善四郎(会社社長)  約50人
〃  市民グループ「見張り番」  平2・1・27  松浦米子(主婦)  約250人
兵庫県
和歌山  和歌山市民オンブズマン    坂本康文(弁護士)
鳥取県  鳥取県市民オンブズマン  平7・11・23  高橋敬幸(弁護士)  約20人
島根県  島根県市民オンブズマン  平7・12・24  鬼頭宏一(島根大教授)  約20人
広島県  広島・市民オンブズマン会議  平8・1・20  佐々木猛也(弁護士)  約360人
岡山県
山口県
徳島県  オンブズマン徳島県民会議  昭62・4・1  園山靖助(整体師)  約20人
愛媛県  愛知市民オンブズマン(準)    大橋  約20人
高知県  市民オンブズマン高知  平7・9・26  藤田泰宏(医師)  約30人
香川県
福岡県  市民オンブズマン福岡  平7・12・16  多和田茂生(弁護士)  約30人
〃  市民オンブズマン北九州  平8・2・2  仁比聡平(弁護士)  約60人
佐賀県  市民オンブズマン連絡会議・佐賀  平7・10・24  畑山敏夫(佐賀大教授)  約45人
熊本県  くまもと・市民オンブズマン  平7・12・14  遠藤隆久(熊本学園大教授)  約40人
長崎県
大分県  おおいた・市民オンブズマン  平7・9・30  永井敬三(学習塾経営)  約90人
宮崎県  みやざき・市民オンブズマン  平8・1・20  石原四郎(元教諭)  約30人
鹿児島  オンブズマン鹿児島  平8・3・4  蔵木 淳(弁護士)  約90人
沖縄県
(別紙2)
省略



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