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◆オーストリア首相と単独会見
【ウィーン11日=佐々木良寿、渡辺覚】極右・自由党と連立を組んだオーストリアのウォルフガング・シュッセル首相(保守・国民党党首)は十一日、ウィーンの首相府で読売新聞と単独会見した。首相は、新政権が民主的で親欧州路線に立脚するものである、と強調。欧州連合(EU)諸国の制裁について、「公正を欠き、欧州の精神を考えると非生産的だったと思い始めている国が増えている」と述べ、連立政権の国際認知獲得に自信を示した。
首相は、国際非難を押し切り、親ナチ発言などで政治姿勢を問われるイェルク・ハイダー党首の自由党との連立へ進んだ理由について、「国民党と自由党の政策には共通項が多かった。わが党の政策を社会民主党(中道左派)が拒否した以上、国政のいっそうの混乱を防ぐためには唯一残された選択肢だった」と説明。EUなどの非難について、「我が国は自信に満ちた民主国家であり、批判に屈して立場を変えるようなことはない」と強気の姿勢を鮮明にした。自由党に関して、「政権入りに当たり、それまでの反EUから親EUへ、反ユーロから親ユーロへ、反EU拡大から親拡大へと立場を変えた」と、責任政党へ大きく変ぼうしたとの評価を強調した。
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シュッセル・オーストリア首相との一問一答は次の通り。
――なぜ自由党との連立を選んだのか。
「我々は社会民主党に対して、年金改革など思い切った政策案を提示したが、社民党は合意寸前で拒否した。残された道は、自由党との連立しかなかった。さもなければ再び総選挙をするしかなく、そうなれば内政は一層混乱しただろう。自由党との連立は、ぎりぎりの選択だった」
――連立政権の優先課題は何か。
「財政再建や年金制度など国内改革だ。我が国には新たな息吹が必要であり、我々が風穴を開けるのだ」
――欧州各国は懸念を表明していたが。
「連立協定は、親欧州的で、信頼に足る内容だと自負している。欧州連合(EU)加盟十四か国の制裁は予想だにしなかった。懸念や批判には耳を貸すが、オーストリアは、開放的で常に人権を尊重してきた民主国家であり、それに制裁を科すとは、ばかげたことだ。最終的には、EUの批判者たちも姿勢を改め、オーストリアの新たな現実を受け入れることになろう。すでに、ほとんどの欧州諸国では、今回の対応が不公正でバランスを欠き、不必要で非生産的なものだったとの空気が生まれている。なぜなら、(制裁は)欧州の精神を損なうからだ」
――ハイダー氏の言動をどう抑えるのか。
「私の仕事は政府を率いることであり、彼を管理することではない。米国の大統領にしても、州知事を管理などできないだろう。今日、自由党閣僚を交えて、今後百日間の政策を練った。自由党閣僚とも良好な関係を築き、今後何年にもわたって協力していけると確信している」
――「自由党は変化すべきだ」と言ったが。
「すでに自由党は、多くの点で変わっている。そうでなければ、今回の連立合意も成立しなかった。例えば、自由党は綱領に掲げていた反EU政策を変更し、親EU政策に転じている。欧州単一通貨ユーロ参加も、国民投票の際には反対したが、現在では親ユーロに転じている。EUの東方拡大についても同様だ。自由党のような政党が、劇的な瞬間に、前向きな方向に政策を変更できたという事実は、極めて興味深い。我々の政策は、いくつかのEU加盟国に比べれば、本流に近いと確信している」
――連立協定は、EUの拡大について、一定の留保をつけているが。
首相「私は、拡大に賛成だ。だが、重要なことは、移行期間を議論することだ。加盟候補国の側には、裕福な外国人に土地を買い占められてしまうといった懸念があり、我々の側には、労働市場を一気に開放すれば、雇用バランスが崩れ、労働市場が混乱するとの懸念がある。周辺諸国にとっても、労働市場の開放は、第一に医師や技術者、銀行員ら知的労働者の流出を意味し、経済再建などの妨げになる。我々が求めているのは、慎重な交渉であり、拡大の阻止や遅延を狙うものではない。EUのほとんどの国が同じ考えだ」
――中立政策についてははどうか。
「私自身もハイダー党首も北大西洋条約機構(NATO)加盟には賛成であり、今が中立政策変更の好機である。社民党とも連立交渉の過程で議論したが、現状では時間がかかる。第一歩は、欧州の安全保障体系への参加だ」
――全欧安保協力会議(OSCE)やEU閣僚会議の場でフランスやベルギーが対オーストリア強硬姿勢を示しているが……。
「どちらの場合も、退席した二か国以外は、演説に耳を傾けたのであり、孤立しているのは彼らの方だ」
――国際非難は、いつまで続くと思うか。
「それは、EUの十四か国の考え方次第だ。ただ、我々にも自尊心がある。我々は、自信を持ち、開放的な民主国家だ。非難に屈することはない」
(2月12日19:07)