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週刊現代2/18号
“医師、弁護士が「販売中止」要望書
おなじみ家庭の常備薬『正露丸』は劇薬だった”
「医師の管理下になっていないから、被害報告こそ出ていないものの、正露丸の
危険性は明らかです」（浜六郎医師）
こう語る浜医師は、薬害について調査する医師、弁護士、薬剤師らで作る市民団
体「薬害オンブズパースン会議」（鈴木利廣代表）のメンバーの一人だ。１月
３１日、同会議は厚生省に対し、正露丸の販売中止を求める要望書を提出した。
正露丸といえば、ラッパのマークとテレビＣＭで流れるあの音楽でおなじみの胃
腸薬だ。小さな黒い錠剤と独特の匂い。おそらく、誰もが一度は飲んだことがあ
り、常備薬としていつも薬箱に入っているという家庭も多いだろう。
じつは正露丸と一口にいっても、名前が少し違うものも含めて、同種の商品が
１９社の製薬メー力ーから販売されている。そのなかでも７０％以上のシェアを
誇っているのが、「ラッパのマーク」の大幸薬品株式会社である。発売は日露戦
争時の１９０２年にまでさかのぼり、年間売り上げは約５０億円にもなるとい
う、大ヒット商品だ。
要望書を提出した「薬害オンブズパースン会議」は、薬害エイズ被害者の「二度
と薬害を起こさないように」という願いから、具体的に危険な薬をチェックしよ
うという趣旨で、'97年に作られた市民団体である。なお、今回の要望書は厚生
省のほか、前述の１９社の各製薬メー力ーにも送られている。
前出の浜医師が、要望書を提出した経緯について語る。
「正露丸の主成分で、あの独特の匂いのもとになっているのはクレオソートとい
う薬品です。このクレオソートは、毒性が強いだけでなく、肝心の下痢を止める
といった効果は科学的に解明されているとは言いがたい。厚生省は、こういう安
全性に問題のある薬を野放しにしているのです。要望書を提出したのは、厚生省
に対し、正露丸をはじめとする一般用医薬品の承認、再評価システムの見直しを
求める狙いがあります」
腸の２ヵ所が２０cmにわたり壊死
提出した要望書のタイトルは「正露丸等クレオソート製剤の販売中止などを求め
る要望書」。この要望書のなかには、正露丸及びクレオソートの毒性についての
記述が並ぶ（〈〉内は要望書より抜粋）。〈クレオソートは消化管内で高濃度に
なると（中略）細胞を広範囲に傷害し、潰瘍が作られる可能性があります〉〈正
露丸の添付文書には、「本剤が誤って皮膚に付着した場合は、せっけん及び湯を
使ってよく洗ってください」と書いてあります。
つまり、正露丸等経口のクレオソート製剤は、皮膚等につけてはいけないクレオ
ソートを内服薬として用いているのですから、腸管粘膜への悪影響が予測されま
す〉
〈１９５９年にマウスの背中にクレオソートの主成分であるフェノール及びフェ
ノール関連化合物を塗布した実験で、フェノールの発がん性が指摘され……〉
クレオソートは木材を乾燥して作られるもので、中毒症状としては、神経毒、血
液毒、腎障害などがある。薬事法施行規則では、劇薬に指定されており、売買に
あたっては、薬剤師などの資格を持つ者が身分証明をしたうえで購入できると
いった細かい規則が決められている。ところが、こんな劇薬を主成分とする正露
丸は、誰でも薬局に行けば購入できるのが現状なのだ。
「薬害オンブスパースン会議」に対し、正露丸の危険性を訴えた仙台の開業医、
加藤純二医師が語る。「私がはじめて正露丸の安全性に疑問を持ったのは'95年
のことです。感染性胃腸炎にかかった患者を診察したところ、下痢など本来の症
状ではなく、痺れがあるという。この患者は、正露丸を服用していました。そこ
で文献などを調べた結果、私以外にも、複数の医師が、正露丸を服用して異常を
きたした患者を診察していることがわかったのです」
加藤医師の言うように、要望書でも、実際に正露丸の服用で腸管壊死をおこした
症例について触れられている。
それによると、四国在住の６０歳の男性が'88年夏に、腹痛を感じたために正露
丸を服用。下痢がいっこうに治らないため、通常一日３回、３錠ずつ飲むところ
を、合計７日間で通常の約４倍の量にあたる約２５０錠を服用した。その結果、
嘔吐を繰り返し、腹部が異常に膨れ上がったため入院。胃を洗浄したところ、ク
レオソート反応が陽性だったため、正露丸による副作用が判明した。
この男性は、その後、別の病院に転院して開腹手術を受けたところ、腸の２力所
がそれぞれ約２０Bにわたって壊死していることがわかった。そこで８０Bにわ
たり小腸を切断し、なんとか一命を取り留めたのである。
「薬害オンブズパースン会議」の清水勉弁護士が語る。「通常、医師から処方さ
れる薬には、厳密な臨床試験があり、その後も副作用がないかなどを再評価する
システムがあります。しかし、一般の薬局で売られている薬は、管理が非常にズ
サン。だから、正露丸は、劇薬を含んでいるにもかかわらず、日露戦争の
１９０２年から長年使われているというだけで、科学的根拠のないまま、現在に
至っているのです」
厚生省は「指導する必要性なし」
ところで、正露丸に含まれる劇薬クレオソートの危険性について、製薬メー力−
側は承知しているのだろうか。
手元に大幸薬品の正露丸に添付されている説明書が２種類ある。一つは現在販売
されているもの。もう一つは'80年ごろの古い説明書だ。両方の説明書には「水
剤は、劇薬に該当する成分も含まれているので、定められた用法、用量を必ず
守ってください」という記述がある。
ただし、「保管及び取扱い上の注意」の項目は、大幅に加筆されている。古いも
のでは、「小児の手のとどかない所に保管してください」など三つの注意が書か
れているだけだが、現在のものは八つの注意書きがあり、誤って目に入った場合
はすぐに水洗いすること、皮膚に付着したらよく洗うこと、クレオソートの匂い
が漏れないよう、ビンのフタを完全に閉めることなどが書かれている。
現在の説明書を読む限り、クレオソートの危険性は十分承知しているようだが、
今回の要望書について、大幸薬品ではどう考えているのか。同社品質保証部・山
中清行部長に聞いた。
「要望書については、当社がこれまで行ってきている安全性試験やさまざまな
データをもとに、誠実に対応していくつもりです。これまで正露丸は長年、ご愛
用いただいていますが、この薬によって死亡者を出しだというような事例は一例
もありません。
クレオソートの危険性については、どのような薬でも使い方、使用量を誤れば死
に至る場合があります。そのために、安全性確保のためのさまざまな試験を行っ
ています。現在も新たな試験を行っており、今年中には報告書を出せるでしょ
う。また、説明書の文言は随時切り替えており、情報公開の流れに沿い、年々詳
しくなっております。来年の３月までには、さらに詳しい説明書を付ける予定で
す」
では、要望書を受け取った厚生省は、「販売中止」の要請にどのように答えるの
か。厚生省医薬安全局の中村陽子・安全対策企画官は、こう語る。
「市民団体から要望書を受け取りましたが、あのなかの副作用の症例は、適量以
上に服用したケースです。正露丸は長年完られており、現段階で死亡例といった
副作用の報告もない。販売中止や臨床試験などの指導をする必要性は認められま
せん」
要望書について、厚生省は当面、静観の構えのようだが、近く大幸薬品から事情
を聞く予定はあるという。
前出の清水弁護士は言う。「厚生省は、副作用の被害が報告されていないから問
題なしというが、死なないまでも何らかの副作用があった場合、それが薬局で
買った薬が原因だとすぐにわかるでしょうか。そもそも病気で薬を飲むのですか
ら、副作用に気づかない例のほうが圧倒的に多いと思われます。正露丸のように
危険性ははっきりしているのに、有効性は不明だという薬を野放しにし、国民の
健康と安全より、企業の保護・育成を優先する厚生省の体質は、薬害エイズのと
きとなんら変わっていません」
われわれも、薬局で売っている薬を無条件に安全だと信じて、症状がよくならな
いからといって飲む量を増やしたりするのは、避けたほうがよさそうだ。
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