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長引く不況やリストラなどを理由に親が自殺した結果、生活
に困窮する「自殺遺児」が急増している。「あしなが育英会」
(東京都千代田区)の奨学金の利用を申し込んだ自殺遺児の数
も過去最高に上った。「自分が、父を追い詰めてしまったので
はないか」「父の自殺をだれにも話せず、人目を気にして生き
ている」――。生活や進学に関する悩みだけでなく、心に深い
傷を抱える子供たちも少なくない。同会では、今も一日三十人
を超える子供たちが親を自殺で失っていると推計、「残された
遺児の心のケアを考えることも必要」と訴えており、遺児同士
が交流する施設の建設なども検討している。
あしなが育英会によると、昨年、在学中に何らかのトラブル
で学費の支払いなどが困難になったとして、奨学金を受けるこ
とになった高校生は四百七十人に上り、このうち四十七人が、
「親の自殺」を理由に挙げた。前年の九八年に、奨学金を受け
ることが決まった高校生は百四十三人だったが、自殺遺児は三
人にとどまっており、この一年間で、自殺遺児が急増したこと
を浮き彫りにしている。これ以前の自殺遺児の数はまとめてい
ないが、「極めて少なく、昨年からの急増が目立つ」と同会で
は話す。
全国に一体どれだけの自殺遺児がいるかは分からない。この
ため、同会では昨年秋、厚生省人口動態統計をもとに推計調査
した。一昨年の自殺者は初めて三万人を超え、特に二十五〜五
十九歳で自殺した男性は一万三千七百七十一人、女性は四千二
百九十四人を占めた。この数に、各年代別の子供の数を掛けて
推計すると、自殺遺児は一万千七百七十九人に上った。これは
交通遺児の約四倍にあたり、一日平均三十二人が自殺で親を亡
くしている計算だ。
一方、同会が、遺児同士の交流を深めようと主催している合
宿などでは、こうした自殺遺児たちから深刻な悩みが寄せられ
ている。
両足がまひして苦しんでいた父親(当時四十九歳)が、自宅
の庭で焼身自殺したという女子高校生は、「自分が『大学に行
きたい』と言ったため、(経済的に)父親を追い詰めてしまっ
たのかもしれない。母と二人で煙を上げている父の遺体に夢中
で水をかけた日のことはいつまでも目に焼きついている」と訴
えた。
五十歳だった父親が、家族でハイキングに出かけた思い出の
森で首つり自殺をした男子生徒は、「父が経営する会社が倒産
し、生命保険で借金を返済するつもりだったようだが、借金は
それ以上に多く、母が不足分を少しずつ返している。僕は、自
殺という行為が恥ずかしくて、だれにも話せず、他人の目を気
にして生きてきた」と打ち明けた。
また、奨学金を申し込んだ高校三年の女生徒の場合、心臓病
に悩んでいた父親が自殺。中学三年の弟が進学を断念、就職し
たという。
これまで同会では、自殺遺児の奨学生の募集については積極
的にPRしてこなかったが、こうした調査結果を重く見て、昨
年秋から街頭でのPR活動や、願書で死亡原因の欄に「自殺」
の項目を記すなどして、積極的に自殺遺児の制度利用を呼び掛
けている。
さらに今後は、自殺遺児の心の悩みをまとめた小冊子を、奨
学金を利用してきたOBらに配布して資金的な協力を求めた
り、都内に自殺遺児を対象にした交流施設を建設したりするこ
とも検討している。
同会は「今後も自殺遺児は増えることが予想される。不況の
あおりで奨学金にあてる運用資金も不足しており、一人でも多
くの善意を期待したい」(小河光治・業務課長補佐)と話して
いる。連絡は同会(電話03・3221・0888)まで。
(1月12日14:37)