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週刊新潮12月2日号 P68 THE WORLD INCIDENTより
独学でサリンを製造 市長を脅迫した学生
中国国慶節の10月1日、世界園芸博で賑わう雲南省昆明で、サリンによる大量殺人が起きていたかもしれない。−−
当局を震撼させたこの事件は、脅迫状が市長に届いた日付から昆明市に届いた日付から「9.24事件」と呼ばれ、逮捕された犯人の判決が出るまでは、報道機関にも一切極秘とされていた。
「11月13日、昆明市盤龍区の人民法院で、唐叢偉(22)被告に、懲役9年の実刑判決が下されました。逮捕されたのが10月4日ですから、異例のスピード判決でしたね」
と、現地記者が報告する。
「唐は昆明市呈貢にある3年制の昆明化学工業学校の学生でした。98年暮れ頃から、学校の図書館からサリンの専門書を借りて、独学で製法を研究。知人の女性と協力して1.5キロのサリンを製造する事に成功したというのです」
オウムの土谷正実が初めて生成したサリンが20グラムというから、資本も設備もない学生としては恐るべき所業である。
「そして9月22日、昆明市長に“サリンの製造に成功した。要求に応じなければ、これを時限爆弾に付けてバラ撒く”との内容の1回目の脅迫状を送り付けたのです。サリンのサンプルを同封していたという報道もありました」
これが市長に届いたのが9月24日。折しも昆明は、世界園芸博覧会のまっ最中。当局は情報漏洩にピリピリしながら、極秘捜査を開始した。
「中国最初の万国博覧会として、鳴り物入りで開催された。〃花の万博〃ですが、高い入場料のせいもあって、218ヘクタールもある広大な会場はガラガラの状態だったのです」
と、中国事情通氏は言う。
「報道では入場者数は順調に伸びているとされていましたが、ここでテロ事件など起これば、万博自体が失敗に終わるのは明らかでしたからね」 しかも1週間後には、建国50周年の国慶節という大混雑が予想される日が迫っていた。
だが、まさにその日を狙って2回目の脅迫状が届いた。
「唐は偽名の銀行口座を開き“500万元(約6500万円)を振り込まなければ、ジープにサリンと時限爆弾装置を搭載し、D月1日午後1時1分に爆発させる”と再び脅しをかけたのです」 と、先の現地記者は続ける。昆明での物価を日本の20分の1として、約13億円にも相当する大金を要求してきたのである。
「模倣犯を恐れてか、当局は未だにこの事件に報道規制を敷いています。ですから脅迫状の内容にも2つの説があり、〈昆明国際空港で爆発させる〉と書かれていたとする説と、〈園芸博会場に突っ込む〉とす
る説があります。香港紙は後者の説を報じていますね」
また、当日の警備の状況や犯人との取り引きの有無は、明らかにされていない。
いずれにせよ、当日は何も起こらず、3日後の10月4日午後3時頃、学校の寄宿舎にいた唐叢偉は逮捕された。
「唐の口座名義は、間抜けな事に〃唐朝偉〃だったそうです。しかも本人が口座を作る際に来店していて、防犯カメラに顔が写っていたのです」 天才的なのはサリンを作る段階までだったようである。
「さらに唐は、日本のセンター試験に相当する統一考試を受けずに、裏口入学していた事も判明しました」
サリンを作る頭脳があれば、入試くらい簡単だったろうに。