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平成11年11月2日 夕刊フジ
一面
ヘッジファンド再来襲これだけの事実
日本の金融破たんを招いた悪役最も魅力的な東京でウマイ汁狙う
"世紀末の妖怪"と評され、日本やアジアの金融・経済を食い物にした米「ヘッジ
ファンド」の動きがまたぞろ活発化してきた。たかが私募の投資信託だが、時に
百億ドル(兆円)単位の巨額投機マネ一を瞬時に動かし、平均二〇%の運用利回りを
あげるという怪物だ。昨年のロシア経済危機をきっかけに勢いを失ったともいわ
れたが、どうしてどうして、ここへきて息を吹き返し、景気回復に向かう日本経
済にキバをむき始めたというのだ。
「ヘッジファンドが狙う市場は、タンカーが停泊できる港がニューヨーク、東京、
ロンドンなどであるのと同様に、大きな港(市場)に限られる。今年の東京株式市
場の場合、株価上昇の立役者は間違いなくヘツジファンドてす」エコノミスト(慶
応大学講師)でヘッジファンドに詳しい今井澂氏はこう説明する。先週末、十月二
十九日の平均株価は一万七九四二円と、年初に比べ三四パーセントの上昇。「上
昇相場の日には、外国人勢の大幅な買い越しが目立つが、そのうちの三分の一ぐ
らいがヘッジファンドによる買いではないか」(投資顧間会社ファンドマネジャー)
ともいわれ、"妖怪マネー"の日本市場への影響力は強まっている。ある大蔵省出
身の自民党議員もこう証言する。「実は、今年三月に米国の複数のヘッジファン
ド首脳が来日、政府、日銀関係者らと意見交換した。彼らは株、為替、長期金利
の動向から銀行への資本注入、 401K、ゼロ金利、リストラの状況などを聞き回
り、その結果、日本株買いに動きだしたようだ」実際、平均株価はこの時期に合
わせるかのように三月中旬から急上昇に転じた。さらに、複数のヘッジファンド
が相次ぎ東京事務所を開設したのだ。
この時、来日しだ米大手タイガー・マネジメントのジュリアン･ロバートソン代表
は「日本経済は構造調整の長い道程を歩み始め、その過程にすばらしい投資機会
がある」と話した。ヘッジファンドは、昨年九月、米大手ロングターム･キャピタ
ル・マネジメント(LTCM) が経営危機にひんして以来、低迷しているといわれて
きたが実態はどうなのか。前出･今井氏が解説する。「巨額な運用資金を持つファ
ンドはほんのわずかです。世界で三千本といわれるファンドの運用資産総額は推
定二千億ドルで、五億ドルを超えるファンドは一％もない。ある銀行の調査では、
十億ドルを超えるファンドは十七にすぎず、LTCMや世界最大のジョージ・ソロス
のクォンタム・ファンドは例外的に巨大でより投機的なだけ。上位の数本は昨年
来の低迷から脱し復活しつつあり、中小ファンドは二けたの運用実績をあげ続け
ている」ヘッジファンドの運用状況は、調査会社のバン･ヘッジファンド･アドバ
イザーズ・インターナショナルが算出した運用実績を示す指数によると、今年一
-八月の上昇率が一六％。米の代表的な株価指数、S&P五〇〇種の八％の二倍で業
界筋では「九九年は最高の年になる」といわれる。そうした中で、米欧の投機筋
が「最も魅力的な場所」とみるのが東京市場なのだ。日系ヘッジファンドの幹部
は「GDPが上向きになり、九兆円規模の補正予算が組まれ、企業業績に回復の兆
しが出始めるなど好材料がめじろ押し。今年、七％のマイナスで低迷した、
ジョージ・ソロス氏率いる八つのファンドの中で好調なのは東京市場に焦点を当
てたクォーター・ファンドと聞く」解説する。日本の景気回復期待と不透明な通
貨当局の介入姿勢のはざまで揺れる円相場。そして、円高とリストラの進展が綱
引きを演じる株価も、ヘッジファンドにとって格好の投資機会になることは間違
いなさそうだ。.経済ジャーナリストの田嶋智太郎氏はこう警告する。「だから心
配なのは日本政府の経済政策。抜本的な産業再生が必要で、一時はその流れがで
きかかったにもかかわらず、先の産業再生法や、今度の中小企業国会にしても、
市場から退場すべき企業を、日本的な温情主義で守ろうとする姿勢に戻った。産
業界の構造改革が遅れ、その結果が再び企業業績の悪化という形で表れれば、ヘッ
ジファンドは膨大な資金を引きあげかねず、回復しかかっている日本経済は再び
強烈なダメージを被ることになる」
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